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第四章:武林迷宮
三十一話:武林迷宮 ?階層
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「ここを抜ければ、ようやくゲンカイってやつのところか……」
「ソウタ様の機転のお陰で、それほどかからずにここまで来れましたね」
十二階層から十一階層へ続く螺旋階段を下りたところで懐中時計へ目をやると、時刻は午後十時を回ったところだった。
ここまでライメイはおろか、チゴウも二十階層で姿を見せたきり鳴りを潜めていて、守護武神の恩恵とやらを感じることなくひたすら穴を掘って駆け抜けてきた。
しかし、いまや五十階層と比較して倍以上の長さになっている階層を一つ一つ超えるというのは、例え裏ワザみたいなことをしていてもどうしたって時間がかかってしまう。
もちろん当初の予定となる期限まではまだまだ余裕はあるのだが、四十階層でエンゴクが突然現れたことと、チゴクが言っていた『守護武神は盟主が死んだらここに帰ってくる』という言葉が、頭からこびりついて離れない。
扉を開けて中を確認する前に、一度休息を取ろうと提案したメリシアの誘いを了承して、地べたに座って残り少なくなってきた水筒をあおりながら、はやる心を静める。
「……少しお休みになってください。ソウタ様がここで力尽きてしまっては、ここに来た意味がなくなってしまいます」
「ああ……分かった。少し寝るよ」
まるでこちらの心の機微が分かっているかのように慮ってくれるメリシアのその気遣いが、今は精神安定剤のように俺を落ち着かせ、目を閉じるとすぐに深い眠りへと落ちていった。
――この世界を構成している粒子、その一粒一粒には役割が与えられている。空を漂い有機生命体の動力としての役割を与えられた酸素という名の粒子。作物を育む生命のゆりかごとしての役割を与えられた土という名の粒子。
……なんだ? いや、なんだっつーか、誰だ?
聞いたことのない女性の声が、脳内にこだまする。
爺さんからの念話とか精神操作の時に聞こえてくるクリアな声とはまた違う、昔の固定電話機の受話器越しに聞こえるような雑な音質で少し耳障りだ。
――###は***になにを顕現たらしめようというのだ。***を構成する粒子に与えられた役割とはなんだ。創世の救主が突然殺意に襲われるのが、このフィオレンティアの構成要素による異世界干渉への拒絶反応であるとするならば、そのなりそこないの宵闇の使徒が人間性を失い、自らの生命活動を停止させるまで殺戮や破壊を繰り返すのはなぜなのか。
そ、創世の救主がなんだって?
とてつもなく重要なことを言っている気がするが、ブツブツ呟くような声とノイズ交じりの音質のせいでほとんど聞き取ることができない。
たしか、突然殺意に襲われる原因が、この世界が異世界への干渉を拒否してるとかなんとか言ってたが……。
――すべてにおいて###の行いに意味があるとするならば、神と冠する存在である我ら守護武神の役割とは探求ではなく求道であるべきだ。善きは過ちに通じ、悪しきは無明に通じる。無には、無という有を内包している。この世界を構成する要素の一側面に過ぎないこの……何者だ、キサマ。盗み聞きなど下劣な、消え失せろ。
「……っ!」
ガバッ! と飛び起きる。
な、なんだったんだ今の……?
夢……にしては、記憶が鮮明過ぎる。
何を言っているのか良く分からなかったが、最後の、あのドス黒い殺意が込められたかのような低い声は――
「うぅっ」
うかつに思い出し、身震いする。
あの内容と状況的に、どうやら残り二体のうちどちらかの守護武神が発した何かを、寝ている間に聞いて――というより受信して――しまったようだが……。
「創世の救主やこの世界について、かなり深いところまで知っているような口ぶりだったな……」
そういうものなのだと半ばあきらめていた、あの衝動的な殺意。
特性操作で抑えているとはいえ、メリシアがいなければ暴走する可能性はぬぐい切れない。
なぜ殺意に襲われるのか、なぜ宵闇の使徒と違ってそれが断片的なのか――この世界が異世界への干渉を拒否しているからと、声の主は言っていた。
どういう意味なのか、直接会って聞かなければ。そして知らなければ。
……俺はもう、俺のためだけに生きられる立場にいないのだから。
「ソウタ様の機転のお陰で、それほどかからずにここまで来れましたね」
十二階層から十一階層へ続く螺旋階段を下りたところで懐中時計へ目をやると、時刻は午後十時を回ったところだった。
ここまでライメイはおろか、チゴウも二十階層で姿を見せたきり鳴りを潜めていて、守護武神の恩恵とやらを感じることなくひたすら穴を掘って駆け抜けてきた。
しかし、いまや五十階層と比較して倍以上の長さになっている階層を一つ一つ超えるというのは、例え裏ワザみたいなことをしていてもどうしたって時間がかかってしまう。
もちろん当初の予定となる期限まではまだまだ余裕はあるのだが、四十階層でエンゴクが突然現れたことと、チゴクが言っていた『守護武神は盟主が死んだらここに帰ってくる』という言葉が、頭からこびりついて離れない。
扉を開けて中を確認する前に、一度休息を取ろうと提案したメリシアの誘いを了承して、地べたに座って残り少なくなってきた水筒をあおりながら、はやる心を静める。
「……少しお休みになってください。ソウタ様がここで力尽きてしまっては、ここに来た意味がなくなってしまいます」
「ああ……分かった。少し寝るよ」
まるでこちらの心の機微が分かっているかのように慮ってくれるメリシアのその気遣いが、今は精神安定剤のように俺を落ち着かせ、目を閉じるとすぐに深い眠りへと落ちていった。
――この世界を構成している粒子、その一粒一粒には役割が与えられている。空を漂い有機生命体の動力としての役割を与えられた酸素という名の粒子。作物を育む生命のゆりかごとしての役割を与えられた土という名の粒子。
……なんだ? いや、なんだっつーか、誰だ?
聞いたことのない女性の声が、脳内にこだまする。
爺さんからの念話とか精神操作の時に聞こえてくるクリアな声とはまた違う、昔の固定電話機の受話器越しに聞こえるような雑な音質で少し耳障りだ。
――###は***になにを顕現たらしめようというのだ。***を構成する粒子に与えられた役割とはなんだ。創世の救主が突然殺意に襲われるのが、このフィオレンティアの構成要素による異世界干渉への拒絶反応であるとするならば、そのなりそこないの宵闇の使徒が人間性を失い、自らの生命活動を停止させるまで殺戮や破壊を繰り返すのはなぜなのか。
そ、創世の救主がなんだって?
とてつもなく重要なことを言っている気がするが、ブツブツ呟くような声とノイズ交じりの音質のせいでほとんど聞き取ることができない。
たしか、突然殺意に襲われる原因が、この世界が異世界への干渉を拒否してるとかなんとか言ってたが……。
――すべてにおいて###の行いに意味があるとするならば、神と冠する存在である我ら守護武神の役割とは探求ではなく求道であるべきだ。善きは過ちに通じ、悪しきは無明に通じる。無には、無という有を内包している。この世界を構成する要素の一側面に過ぎないこの……何者だ、キサマ。盗み聞きなど下劣な、消え失せろ。
「……っ!」
ガバッ! と飛び起きる。
な、なんだったんだ今の……?
夢……にしては、記憶が鮮明過ぎる。
何を言っているのか良く分からなかったが、最後の、あのドス黒い殺意が込められたかのような低い声は――
「うぅっ」
うかつに思い出し、身震いする。
あの内容と状況的に、どうやら残り二体のうちどちらかの守護武神が発した何かを、寝ている間に聞いて――というより受信して――しまったようだが……。
「創世の救主やこの世界について、かなり深いところまで知っているような口ぶりだったな……」
そういうものなのだと半ばあきらめていた、あの衝動的な殺意。
特性操作で抑えているとはいえ、メリシアがいなければ暴走する可能性はぬぐい切れない。
なぜ殺意に襲われるのか、なぜ宵闇の使徒と違ってそれが断片的なのか――この世界が異世界への干渉を拒否しているからと、声の主は言っていた。
どういう意味なのか、直接会って聞かなければ。そして知らなければ。
……俺はもう、俺のためだけに生きられる立場にいないのだから。
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