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第五章:其の叡智の業を以って全てに黎明を
十一話:ユーリとの再会
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「お待たせ、ユーリ」
脱衣所を出て声を掛けると、廊下の壁に背中を付けて暇そうに足をプラプラさせていたユーリが、小走りに駆け寄ってきた。
「ううん、そんなに待たなかったのな!」
「なら良かった……で、どうしてここにいるんだ? ロイタージェンの爺さんのところにいたはずだろ?」
正直、細かく経緯を問いただしたい気持ちはあるが、遊びたい盛りであるはずのユーリがどれだけの研鑽を重ねてここへ到ったのかを思うと、とても詰問まではする気になれない。
最悪のタイミングではあったが、その想いには罪など無いため、できるだけ耳障りの良い語り口で優しく問い掛けるにとどめる。
「あっ、えーっと、実はお兄ちゃんとお姉ちゃんに早く会いたくて、ずっと転移の練習をしてたのな……」
「マジか。転移魔術って……確か、すげぇ難しいんじゃなかったか?」
「うん……すごくむつかしかったのな……」
何しろ、あのセルフィでさえ出来ないのだ。
本人は得意不得意があるとか言っていたが、もちろん理由はそれだけではなく他にもいくつかあるのだろう。
それほどに高度な魔術を、十歳やそこらの子供では、発動どころか転移先の演算すら不可能なはずだ――って、
「だいたい、この王宮には魔術障壁が張られてるってのに……いったいどうやったんだ?」
「うーん……なんか、できるようになっちゃったから試してみたら来れたのな」
「マジかよ」
ユーリがサラっととんでもないことを言ってのけたところで、ほんのりと濡れた銀髪を窓から射しこむ日の光でキラキラと輝かせながら、メリシアが脱衣所から出てきた。
俺との会話が聞こえていたようで、その顔には若干の驚愕が浮かんでいた。
「……とりあえず、そんな凄いことができるようになったなんて、さすがユーリだな」
メリシアに視線で同意してからユーリの頭をヨシヨシと撫でる――と、細い栗毛がサラサラと小さな頭の上で踊った。
元々、身寄りも無く一人で飢え死にしかけていたらしいユーリをセルフィが拾ってからは、二人でロイタージェンの依頼をこなしながら何とか生活していたという話を聞いてから、バルギスとの戦争がひと段落ついて落ち着いたら迎えに行く約束をグステンに居た頃に交わしていたのだ。
あの時にメリシアと相談して、ユーリのことは褒めて伸ばしていこうと教育方針を定めてそのように接していたわけだが……半年近くも放置しておいていまさら教育を口にするなど、おこがましいことこの上ないかもしれない。
「ユーリさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
メリシアがユーリの頭を撫でながら話しかける。
その横顔はまるで聖母のような微笑みをたたえていて、眉間に皺を寄せながら言い訳がましくあーだこーだ考えていたこちらまで、気が付くと微笑んでいた。
「うんっ! みんなやさしくて楽しかったのな!」
「そうですか。良かった、ソウタ様と心配していたのですよ」
「そうだぞ。お前は俺たちの娘みたいなもんだからな」
「えへへへー」
ピカーっと満面の笑みを浮かべるユーリを、たまらずといった感じで愛おしそうにメリシアが抱きしめる。
「ユーリさんっ! 会いたかったです!」
「ユーリも、お兄ちゃんとお姉ちゃんに会いたかったのなっ!」
やべ、泣くかも。
目じりに力を入れて涙をこらえながら、必死に平静を装う。
「ユーリ、腹減ってないか?」
「そう、おなか! おなかすいたのな!」
「では急いでご飯の支度をしますね」
「ユーリも手伝うのなー!」
「ありがとうございます、では一緒に作りましょうか」
二人がキャッキャッとはしゃぎながら食堂へ向かうその後姿を眺めながら、こんな平穏はいつ以来だろうと思いを馳せる。
皆には悪いが、今だけはこの時間を楽しませて貰うことに決め、俺も二人を追って歩き出したのだった。
脱衣所を出て声を掛けると、廊下の壁に背中を付けて暇そうに足をプラプラさせていたユーリが、小走りに駆け寄ってきた。
「ううん、そんなに待たなかったのな!」
「なら良かった……で、どうしてここにいるんだ? ロイタージェンの爺さんのところにいたはずだろ?」
正直、細かく経緯を問いただしたい気持ちはあるが、遊びたい盛りであるはずのユーリがどれだけの研鑽を重ねてここへ到ったのかを思うと、とても詰問まではする気になれない。
最悪のタイミングではあったが、その想いには罪など無いため、できるだけ耳障りの良い語り口で優しく問い掛けるにとどめる。
「あっ、えーっと、実はお兄ちゃんとお姉ちゃんに早く会いたくて、ずっと転移の練習をしてたのな……」
「マジか。転移魔術って……確か、すげぇ難しいんじゃなかったか?」
「うん……すごくむつかしかったのな……」
何しろ、あのセルフィでさえ出来ないのだ。
本人は得意不得意があるとか言っていたが、もちろん理由はそれだけではなく他にもいくつかあるのだろう。
それほどに高度な魔術を、十歳やそこらの子供では、発動どころか転移先の演算すら不可能なはずだ――って、
「だいたい、この王宮には魔術障壁が張られてるってのに……いったいどうやったんだ?」
「うーん……なんか、できるようになっちゃったから試してみたら来れたのな」
「マジかよ」
ユーリがサラっととんでもないことを言ってのけたところで、ほんのりと濡れた銀髪を窓から射しこむ日の光でキラキラと輝かせながら、メリシアが脱衣所から出てきた。
俺との会話が聞こえていたようで、その顔には若干の驚愕が浮かんでいた。
「……とりあえず、そんな凄いことができるようになったなんて、さすがユーリだな」
メリシアに視線で同意してからユーリの頭をヨシヨシと撫でる――と、細い栗毛がサラサラと小さな頭の上で踊った。
元々、身寄りも無く一人で飢え死にしかけていたらしいユーリをセルフィが拾ってからは、二人でロイタージェンの依頼をこなしながら何とか生活していたという話を聞いてから、バルギスとの戦争がひと段落ついて落ち着いたら迎えに行く約束をグステンに居た頃に交わしていたのだ。
あの時にメリシアと相談して、ユーリのことは褒めて伸ばしていこうと教育方針を定めてそのように接していたわけだが……半年近くも放置しておいていまさら教育を口にするなど、おこがましいことこの上ないかもしれない。
「ユーリさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
メリシアがユーリの頭を撫でながら話しかける。
その横顔はまるで聖母のような微笑みをたたえていて、眉間に皺を寄せながら言い訳がましくあーだこーだ考えていたこちらまで、気が付くと微笑んでいた。
「うんっ! みんなやさしくて楽しかったのな!」
「そうですか。良かった、ソウタ様と心配していたのですよ」
「そうだぞ。お前は俺たちの娘みたいなもんだからな」
「えへへへー」
ピカーっと満面の笑みを浮かべるユーリを、たまらずといった感じで愛おしそうにメリシアが抱きしめる。
「ユーリさんっ! 会いたかったです!」
「ユーリも、お兄ちゃんとお姉ちゃんに会いたかったのなっ!」
やべ、泣くかも。
目じりに力を入れて涙をこらえながら、必死に平静を装う。
「ユーリ、腹減ってないか?」
「そう、おなか! おなかすいたのな!」
「では急いでご飯の支度をしますね」
「ユーリも手伝うのなー!」
「ありがとうございます、では一緒に作りましょうか」
二人がキャッキャッとはしゃぎながら食堂へ向かうその後姿を眺めながら、こんな平穏はいつ以来だろうと思いを馳せる。
皆には悪いが、今だけはこの時間を楽しませて貰うことに決め、俺も二人を追って歩き出したのだった。
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