殉剣の焔

みゃー

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乱入

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「なんだ…猫か…」


朝霧が、ほっとした様子で刃を鞘にしまった。


「あっ!どうもすいません!こいつどっから来たのか、宿に勝手に入り込みやがって!」


ペコペコと頭を下げながら、この宿の下人の男も入室して来て入口にいた。


白い猫は、震えはしていないものの春陽の胡座の中にすっぽり収まり、ニャーニャー鳴いて身体を必死に擦り付けてくる。


「今すぐ始末しますんで、どうか御勘弁を…あの…お綺麗なお武家様、ちょっと、ちょっとばかりお側に失礼します…」


男がニヤニヤと春陽を見ながら、背中を丸め頭を下げながら近づこうとする。


すると、朝霧がそれ以上近付くなと、鞘を持った方の腕を前に出して威嚇する様に止めた。


春陽はもう一度朝霧の背中を見上げて、過剰過ぎる反応をだだの宿の使用人にしていると思いつつ…


朝霧が折角気を遣ってくれているのにそれをどう止めようか思案していると…


「お武家様、あっしは、ただその猫を頂きたいだけで御座いますから…」


困惑を深める男に、春陽が猫の目を見て両脇を持ち上げ尋ねた。


「この猫、こんなにキレイなのに野良猫なのかな?」


「え?!あっ…へぇ…そうだと思いますよ。この辺で今まで見た事がありませんから…」


その間も猫は、激しく春陽に甘える様に鳴いてくる。


「なら、私が貰って連れ帰ってもいいだろうか?」


その春陽の問いに、朝霧と男が同時にえっ?と声を上げた。


「お前、何だか可愛いな…まるで、何かの精霊の様にふわふわしてキレイだ。名前は、オスだから…そうだ、小寿郎、小寿郎にしよう!」


春陽がそう言うと、ニャーと可愛い、まるで返事の様な嬉しそうな声がした。


すると、前世の自分である春陽に憑依している優は、自分と春陽が違う所があっても本質的なモノは変わらないんだと、そのネーミングセンスに笑ってしまいそうになった。


でも、江戸時代の小寿郎は、真矢さんの居た東京の荒清神社で別れてからどうしただろうか?


ちゃんと、尋女さん達の所へ帰れただろうか?


一緒に帰ろうと、あんなに言ってくれたのに俺が無茶をして、きっと怒っていて、又会えたら今度は
、「お前の式神なんかもうやってられるかっ!バーカ!」って言われるかもしれない…


「こら、くすぐったい、くすぐったいよ!小寿郎!」


白猫は背伸びして、まるでずっと飼ってる愛犬の様に春陽の首筋や顔に頭を擦り付けたりペロペロ舐める。


春陽は、クスクスと笑いながらも優しく身体を撫でてやった。


振り返りその姿を見ていた朝霧は
、眇めていた目元をかなり柔らかくすると、一転キリっと表情を戻して前を向き使用人の男に尋ねた



「構わないか?」


「えっ!あっ!そっ、そりゃぁぁ
もう…あっしは全然構いやしませんよ!」


男は、笑う春陽を見てデレっと鼻の下を伸していたのを朝霧に見られてかなり慌てると、両手を前にして左右にブンブン振った。


すると、朝霧は、小袖の懐から横長の財布を取り出すと、おもむろにかなりの貨幣を男の前に出した



「念の為だ、誰かの飼い猫でないか近所にちゃんと確認してくれないか?後から面倒な事にならない様に…それと済まないが、もう出立する。今すぐに確認してくれないか?」


男は、その量を見て破顔した。


「へっ!へい!あっ!はい!たっ
、只今すぐっ!」


男は喜々として受け取ると、来た時と同様にバタバタと足音をさせ走って部屋を出て行った。


立ったまま閉められた入口の障子を黙って見詰める朝霧を春陽は再度見上げ、おずおずと言った。


「す、済まない…お金は…春頼が戻ったら必ずすぐ返す…」


「いらない…」


即返された声は、さっきまで春陽を色々構ってくれていたはずなのに低く冷たい。


そして、朝霧は、クルッと一度振り返ると視線を落とし畳に座る春陽を一瞥すると、さっと元居た場所に戻り再び胡座をかいて座った



又、二人の間に、静寂と冷えた空気が戻って来た。


春陽は、一度チラッと朝霧の横顔を見たが、諦めて又庭の芳春の花
々をボーっと眺めた。


すると小寿郎が、優しくニャーニャー言って、又、春陽の顔を撫でる様に何度も舐める。


お前…まるで全部分かっていて…慰めてくれてるみたいだな…


優と春陽は、同時に同じ事を心の中で考えた。


そして、今度は優だけが、もう一人の方の小寿郎を再度思い出す。


又、お前に会えるだろうか?…


桜の精霊の小寿郎は、一族の掟で限られた身内か、本当に恋をし愛した者にしかその仮面を脱いで素顔を見せないと優に言っていた。


だから優は、自分がその素顔を見せてもらえる事は一生無いと思っている。


でも、あの、のっぺらぼうの顔に目と鼻の穴と口の部分だけ開けただけの様な真っ白な仮面が、ブロンドの長い髪と相まって崇高なのに何処かゆるキャラっぽくてとても気に入っていた。


実はお前も戦国時代に来る事が出来てしまって、今、目の前にいる白猫に憑依していてくれてたらどんなに助かるか…


と優は春陽の中で思いながら、小さく「小寿郎…」と呼んでみた。


すると…


「ニャー」


又、まるで自分がその小寿郎本人だと言っているかの様な声が返って来た。


まさか…そんな事、そう簡単にいく訳無いか…


優は、前世の朝霧と、きっと今その中にいるだろう生まれ変わりの朝霧二人に無視されている様な虚しさと、上手くいかない物事だらけで心の中で深い溜息を付いた。






































































































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