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しおりを挟むやがて、空也のオーダーしたオムライスがテーブルに運ばれてきた。
イケメンは、食事は何も頼まず、ただワインを頼んだだけだった。
空也の父はワインが好きでよく家でも飲んでいたので、多少の銘柄なら空也も知っていた。
だからイケメンが頼んだのは、空也の父も好きな銘柄で、値段も高かい物だと空也は分かる。
「本当に……食事しないんですか?もう、
夕食は終わってたとか……」
空也がイケメンに、控え目に尋ねた。
するとイケメンは、空也が自ら進んでイケメンの事を質問してきた事が意外だったように目を見開いたが、その後空也をじっと見詰めボソっと返した。
「普段から、あんま夕食は食べない。酒は毎日飲むが……」
空也は、自分も不健康な監禁同然の生活をしているが、このイケメンも同じようなものだと思った。
しかし、食事を取らないで酒ばっか飲んでると言う割りに、イケメンの体型は鍛えられているのがスーツの上からでも分かった。
(着痩せしてて脱いだらもっと凄いかも……なんとなく、この人の裸が分かる……すごい筋肉で……)
空也は、意識せず何気にイケメンの裸を想像しドキっとした。
しかし、次の瞬間、何故そんな事が自分に分かるのか?
何故、まるでこのイケメンの裸を空也が以前見た事があるような事を思うのか?がおかしいと思い、ドキっとした自分に呆れた。
「冷めるぞ……」
イケメンが、テーブルの上に置かれたワイングラスの下の方に指を絡めながら静かに呟いた。
「あっ……はい……」
イケメンは、メニューオーダーの際、サラダやスープやジュースも空也に勧めたが、空也は断った。
もう、時間がない。
頭では、一刻も早く自宅に帰らないとならないのが分かってたから。
自然と、空也のスプーンを口に運ぶスピードも上がる。
「もう少し、ゆっくり食え。喉に詰まるぞ」
イケメンは、テーブルに片肘を着き、じっと空也を見詰めて言った。
「はい……」
空也は返事した後、食事するテーブルに片肘を着くなんてマナー違反だし、ここはそこそこいい店だから余計にそうなのにと思った反面、イケメンがそれをやると何故か様になってると感じた。
空也は、ゆっくり無言で食べ始めた。
しかし、イケメンは、時折ワインを口にしながら、やはり片肘をテーブルに着いたままじっと空也を見詰めてくる。
空也は、見詰められる緊張で、オムライスの味を段々感じなくなり始めた。
(なっ……何で、そんなに僕を見詰めてくる?!)
空也は、動揺して背中に薄っすら汗もかき始めた。
しかし、食事は1時間もかかわらず終わり、イケメンが支払いをして、空也と店を出てエレベーターで一階に降りた。
一階はただ広く、ブランドショップが多くい。
ただ飲食店と違いこの時間にはそのほとんどが閉店していて、空也とイケメンしか今は人影が無くただ静かだった。
そんな中、一階の中央のスペースが大きく空いていて、今はそこに大きなクリスマスツリーが飾ってあり、ツリーはまだ煌々と色とりどりの明かりが着いていた。
空也は、そのクリスマスツリーの前で立ち止まり見上げた。
思えば空也は、こんな風に外でクリスマスや年末の雰囲気を味わった事が無かったし、空也の家は天空神を祀っていて、クリスマスを祝った事も無い。
そして、空也の前を歩いていたイケメンもそれに気付き立ち止まり、空也に振り向いた。
「どうした?」
イケメンは、不思議そうに言い空也に近寄った。
空也は、クリスマスツリーを見上げながら呟いた。
「いえ……キレイだなって。すいません。すぐに行きます」
すると、イケメンは、ボソっと言った。
「別にいいんじゃないか?見たいだけ見ればいい」
イケメンも、静かに輝く神聖なオブジェを見上げた。
空也は、ツリーを黙って見詰めながら、多分、今日のこの短い時間が空也の人生の中で一番自由だったと思った。
多分、他人から見たら、どうと言う事の無い時間なのだろうが。
そして、自宅に戻り、天空神と結婚する事を覚悟した。
(僕は帰らないと。僕は帰る……)
だが空也は、足を出口に向けようとしたが、そこで空也の足元が絡まり、空也はこけかけた。
空也は、結婚の事を考え出すと本当に思考が散漫し集中力に欠けるようになり、身体のコントロールが難しくなる。
さっき、このイケメンにぶつかった時も天空神の事をずっと考えて走っていてつまずいたからだ。
「おいっ!どうした?!」
イケメンが空也の体を抱き止め、イケメンの方が背が高いので、空也の顔を上から覗きこんだ。
空也は、ほんの一瞬イケメンの逞しい胸に顔を埋めたが、すぐに離して言った。
「なっ……何でも。大丈夫です」
イケメンは、空也を支えるために空也の腰に回していたイケメンの腕をそっと引いた。
イケメンは、ただ空也と向かい合う。
この時空也は、今ならイケメンに言える気がして言った。
しっかりと、イケメンの目を見詰めて。
「あの……ご馳走様でした。凄く美味しかったです。今まで食べた物の中で……一番」
嘘では無かった。
食事とは、決して味だけの問題じゃないから。
「大げさだろ……たかがあれくらいで……」
イケメンは、空也のすぐ前にいてかなり背が高いので、空也の頭の上からその美声がした。
だが次の瞬間、空也の唇に、何かが触れた。
それが、イケメンの唇だと、イケメンに空也がキスされてると空也が気付いたのは、数秒キスが続き、唇同士が少し離れた後だった。
このクリスマスツリーの下でのキスが、空也には勿論ファーストキスだった。
そして、そのファーストキスは、空也の夫になる予定の天空神の為に取っておかなければならなかったはずだった。
まだ、空也とイケメンの唇同士は近かった。
イケメンは、再び空也にキスしようとした。
しかし空也は、イケメンの体を押して離し、驚愕しながら口を右手で押さえ後ろに一歩下がると、走って出口に向かいすぐにビルを飛び出た。
12月の夜の寒風が、ビルの暖房で体の暖まっていた空也を一気に冷やした。
「おい!待て!待ってくれ!」
イケメンは、そう叫びながら空也を追って来た。
しかし、空也がビルの外に出ると、右手すぐのタクシー乗り場にタクシーが1台止まっていて、空也はそれに慌てて飛び乗りドアが閉まった。
そこにイケメンが追いつき、外からタクシーの窓を叩いて大声で言った。
「おい!待て!待ってくれ!」
運転席のタクシーの運転手が空也に振り向いて、どうすればいいのかと言う困惑した表情をした。
「早く!早く行って下さい!お願いです!早く!」
空也の声で、タクシーはイケメンをそこに残し東京の街の明かりの中に消えた。
空也は、無事に自宅に着き、母がタクシー運転手に代金をかなり上乗せして現金で支払った。
空也が子供の頃から、天空神と結婚に対して少しでも反するような態度を取ると、祖父と父はいつも空也を叱責した。
だから今回はもっと、特に祖父と父に激しく叱責されるのを予想していた空也だったが……
何故か、今回は祖父も父も「よく無事で帰って来た」と空也を怖い位に優しく家に迎え入れた。
あれだけ天空神を恐れていた祖父と父の極端な変化。
まずここで空也は、何か違和感を感じた。
ただ、いつも空也にやさしい母は、今回も優しく空也を労り「もう今夜はゆっくり寝なさい」と、空也と一緒に空也の部屋に向かった。
空也は、母が空也の部屋を離れると、自分のベッドにバタンと前から倒れ込み、一瞬、あのイケメンとイケメンとのキスを思い出し思った。
(ダメだ、もう一回、あの人に会いたいとか、考えたらダメだ……あの人に、又会いたいなんて……)
空也は、そのまま深い眠りに落ちた。
そして次に空也が目覚めるともう朝で、壁の時計を見るとすでに9時を回っていた。
大学は、すでに休みに入っていた。
しかし、生活態度にもうるさい祖父と父がよくこの時間まで空也を寝させてくれたなと思いつつ……
空也は、昨日のイケメンとのキスをふと思出した。
(ダメだ!忘れるんだ!あの人の事は……)
空也はカバっとベッドから起きて、まずシャワーを浴びに、着替えを持ってパジャマのまま自分の部屋を出た。
空也の広い家の廊下を、バスルームに向かい歩く。
だが、いつもの空也の家のはずなのに、やはり空也は、どこか違和感を感じる。
(なんだろう?この感じ……)
すると突然、背後から祖父の声がした。
「空也!」
空也がゆっくり振り返ると、祖父は意外な事を言った。
「空也。今日からはもう、お前は天空神の婚約者では無い」
空也は、まさか自分が逃げた事で、天空神の機嫌を損ねたかと、このままだと、空也の家族や祖父の会社に天空神からの罰が下るとゾッとした。
しかし、祖父は、表情穏やかに言った。
「空也、天空神様が空也の気持ちをお察し下さり、婚約者の任を解いて下さった。だが大丈夫。私達家族も会社も、今まで通り、天空神様の加護を受けられ豊かに暮らせる」
「えっ……本当ですか?」
空也は、にわかには信じられなくて眉間にしわを寄せ祖父を見た。
「本当だとも。空也、お前はもう自由だ。これからは自由に好きな事をすればいい。ただ……」
祖父は、意味あり気に話しの最後を濁した。
「ただ……何ですか?」
空也が、やはり祖父もこの家の雰囲気もいつもと何か雰囲気がおかしいと思いながらそう言い怪訝そうに祖父を見詰めると、祖父は空也を見たまま誰かを呼んだ。
「こっちに来てくれ!」
すると、少し離れた廊下の角の陰から突然、日本人と外国人の混血のような容姿の長身の黒のスーツのイケメンが姿を現し、祖父の背後から空也に向かって優雅に歩いて来る。
空也は、その男の顔を見て愕然とした。
男は、昨日のイケメンだった。
「空也、お前はもう天空神様の婚約者ではないが大会社の跡取りには違いないからボディーガードの人数も仕様も変える。彼が、今日からお前のボディーガードになる西城君だ」
空也は、言葉を失い、ただ西城の顔を見詰めて、まだ空也の唇に生々しく残る昨日の夜の西城とのキスを思い出した。
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