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しおりを挟む恒輝は、朝に夢を見て達した後も体全体の熱っぽさが続いた。
そしてその状態で学校に行った。
風邪とかでは無いのは確かだった。
体のダルさは無いし、むしろ元気で、下半身が特にそうだった。
恒輝は、完全なアルファ型フェロモン不完全症と診断されていて、治る可能性はほぼゼロと医師から言われてたので、フェロモンの関係も普通はあり得なかった。
理由があるとするなら、明人が転校して来てから毎日慌ただしくて、普通にあそこに溜まる一方だったアレを自分で長い間処理しなかった事位だった。
恒輝が教室に入って席に座っても、その夢の中で恒輝がキスしてたのが誰なのか酷く気になって、しかし、どうしても思い出せ無い。
夢のせいでいつもより早く起きてしまった恒輝は、いつもより早く登校したので、教室にはまだ数人しかクラスメイトがいない。
「おはよ!」
そこに突然、恒輝の座る席に歩き近づいてきた明人が背後から声をかけた。
「うおっ!」
恒輝は、慌てて振り返ると、明人を見上げた。
恒輝のその顔は、ほんのりと赤みを帯びていた。
「西島君、何?!どうしたの?!顔が凄く赤い!熱あるんじゃ?」
明人が驚愕して、明人の右手を恒輝のおでこに当てようとした。
しかし恒輝は、その手が恒輝のおでこのに触れる前に握って止めて静かに言った。
「大丈夫……」
そして恒輝の手は、自然と明人の手をさらに強く握った。
でも、大丈夫、大丈夫なはずなのに、恒輝の体が、明人の手の感触を感じた瞬間にさらに熱ぽさが増した気がした。
「ヒュー、ヒュー!朝の教室でお前ら何してんの?」
田北が来て、いつものように恒輝と明人をからかった。
恒輝は、いつもなら田北に何が言うはずなのに、明人の手を離すと、黙ってふいっと横を向いただけだった。
「おい!恒輝!お前、顔、熱っぽいぞ!」
田北まで心配した。
この後、明人や御崎は、今日の勉強会は中止にしようと恒輝に言った
流石の恒輝も、自分の体の変調に今日の勉強会は中止した方が良いと判断して、勉強会は中止になった。
それでも、恒輝は、なんとか午前中の授業も体育もやり過ごした。
そして昼前になると、かなり熱っぽさが引いてきた。
そして今日は、残ってるのは5時間目だけ。
これが終われば帰宅できる。
だが、最後の5時間目は佐々木の英語の授業だった。
佐々木は授業の最後、昨日の朗読の後にあった小テストの採点用紙を返してきた。
「西島!」
佐々木が恒輝の名を呼んだが、恒輝は、他の生徒と違い返事せず、教壇に立つ佐々木の元に面倒くさそうな態度でそれを取りに行った。
でも、恒輝の心の中は本当は違った。
朗読と同じように、今回の小テストの範囲も恒輝は御崎と勉強した。
そして、朗読は成功した。
だから、小テストも上手くいったはずだと、恒輝は期待していた。
しかし……
佐々木から恒輝に手渡しされた英語の採点用紙の結果は……悪かった。
(最近、ちょっと勉強し始めて、上手くいく気がしてたのに、やっぱ、努力してもそう簡単にすぐ成績は上がらないのかもな……)
恒輝は、勉強の厳しい現実を思い知った。
そして恒輝は、一瞬佐々木の顔を見た。
すると佐々木は、まるで勝ち誇ったように、恒輝の顔を見て微笑んでいた。
(……佐々木、てめー、俺をバカにしやがって!)
恒輝は、ギロリと佐々木を睨んだが、佐々木は、何も言わずとも、恒輝が努力しても無駄だとでも言ってるようにまだ微笑んでいる。
佐々木のたちが悪いのは、この笑みが、
イケメンで人格者で良く出来た教師から出来の悪い生徒に向けた慈悲にしかクラスメイト達には見えてないだろう所だ。
恒輝は、思わず佐々木をこの場で殴りたいムカムカした衝動をグッと堪えて、採点用紙を握り振り返り席に戻ろうとした。
テスト結果からの、恒輝の恒輝自身への失望も大きかった。
すると、教室の後ろの方の席の明人と目が合った。
明人が、恒輝を心配そうに見ているのが恒輝にはわかった。
最近恒輝は、こんな風に明人が端正な顔を歪めているのを見ると胸に何かズキっとする感じがしたし、今もそうだった。
しかし、恒輝は、やはり点数が悪くて気まずくて、明人から目をすぐにそらし自分の席に着いた。
その後、他のクラスメイト二人にテスト用紙が手渡され、次に佐々木は明人を呼んだ。
「彩峰!」
「はい……」
明人は小さく返事すると、席から立ち上がった。
すると、佐々木のうれしそうな声がした。
「今回、彩峰だけが満点だったぞ!」
教室中に、クラスメイトの感嘆の声がした。
でも恒輝は、これは佐々木がクラスの全員に言ってるようで、その実は恒輝に向けて言ってると思った。
佐々木は、恒輝と明人の差を、恒輝に思い知らせたいのだ。
そして「お前は俺と違い、明人にそぐわないクズアルファ」だと、恒輝にマウントを取りたいのだ。
今までも、もう何度も何度も佐々木は、事ある事にこうやって恒輝をへし折ろうとしてきた。
案の定、恒輝が佐々木の顔を見ると、やはり佐々木は、恒輝を見て薄ら笑みを浮かべていた。
だがその後……
恒輝は、佐々木からテストをサッと受け取り佐々木に背を向けた明人と再び目が合った。
恒輝は、授業中の教室と言う事もあり、すぐに明人から視線を外した。
しかし恒輝は、以前明人が恒輝に言った言葉を思い出した。
「失敗しても、次頑張って、次ダメでも次又がんばればそれでいい」
そして、恒輝は、心の中で明人に向かい問いかけた。
(彩峰……お前、俺のこのテスト結果見ても、今回も俺にそう言ってくれるか?)
無論、今は明人の答えはわからない。
わからないが……
不思議と、恒輝の中で今回のテストがダメだった事への失望が静まっていく。
佐々木へのイライラは治まる事だけは無かったが。
そして、意外だったのは、恒輝は、勉強を諦めると言うより、逆に勉強したくなっていた。
以前の恒輝なら、この時点でやる気を完全に無くしていただろうはずなのに。
「なあ、御崎、やっぱ今日、勉強会してぇんだけど……」
恒輝は、テスト用紙返却でザワザワする教室の雰囲気の中、横の席の御崎に小さく声をかけた。
「えっ?!それは、別にいいけど、本当に体調大丈夫?」
御崎は、恒輝の顔を覗き込み心配そうにした。
「俺なら大丈夫だから、頼む」
恒輝のその言葉に対し、御崎は苦笑いした後言った。
「恒輝、焦りすぎじゃ無い?」
確かに、それは正論だった。
今度は、恒輝が苦笑いして返した。
「そうだけど、俺、もっと早く勉強しとくべきだったし……」
すると、御崎が、ボソボソと小声でつぶやいた。
「俺だったら、恒輝にこんな無理絶対にさせないのに……」
「えっ?今なんて言った?」
恒輝がキョトンとした。
御崎は、クスっと笑った後言った。
「ううん……なんでも無いよ。でも、俺も、後悔する気持ちはわかるよ。俺も、もっと早く恒輝と仲良くなれば良かったって思うから……」
恒輝は、さらにキョトンとした。
「えっ?!俺と仲良くなんのに遅いとかねぇだろ?今からでも」
御崎と友達になるのに、遅いとか早いとかあるのだろうか?
恒輝は、心の中で疑問に感じた。
「……」
何故か、御崎は恒輝を真っ直ぐに見詰めて一度黙った。
恒輝と御崎の間に、しばらく変な無言の間が空いた。
「西島君、体調大丈夫?」
そこに、席に座る恒輝達の近くに明人が歩いて来た。
佐々木が会議があるので、今日は終会は
無いままいつの間にか授業は終わり、佐々木もすでに教室にいなかった。
クラスメイト達も、各々はしゃいだりしながらどんどん教室から出て行く。
「あっ、今俺御崎と相談して、やっぱ今日勉強会する事にした」
恒輝がそう明人に向かい言うと、明人のいつもは涼しげな瞳が眇められ、御崎にスッと視線を移した。
しかし、その前に「俺御崎と相談して……」と言うフレーズを聞いた時に、明人の眉毛がピクリとしたのに恒輝は気づかなかった。
そして、明人と御崎は、しばらく無言で互いを見合った。
不意に、違う何かが始まるように、やっと5時間目の終令の鐘がゆっくり鳴った。
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