4 / 13
鈴音
しおりを挟む
離れていてもずっと友達だと思っていた葵の拒絶の言葉に、至は暫くベンチに座ったまま動けなかった。
もしかしたら葵の、兄の僚を亡くした悲しみを共有出来る他人は、自分だけ…
自分しかいない…という…
至の長年の自負は打ち砕かれた。
でも同時に、それ程に葵の悲しみが深いのも仕方無いと理解も出来た。
暫くどこに焦点を合わせるでも無く、ただ葵の事だけ考え呆然としていたら、いつの間にか小雨が止んで青空が見えた。
「こんなに葵を想っているのに…俺には、もう僚しかいないのか…」
至は、呟きため息を付き、新ためて僚の墓参りをする為、下って来た山道を戻り上りだす。
暫く登ると…
さっき妙な声が聞こえた当たりに、丁度下山してきたのだろう…
いかにも登山帰りの格好の中年女性二人が立って何か話していた。
至は、その横を通り過ぎようとした。
すると…
「ねぇ…やっぱり、誰かが呼んでるわよ。誰か、ケガでもしてるんじゃ…」
「でも…登山道から逸れたら危ないわよ」
女性二人の会話が、至の耳に入る
。
至は、さっき葵が言った忠告を思い出す。
そして…女性達に声をかけた。
「あの…何か声が、聞こえたんですか?」
女性達は、困惑した表情を至に向けた。
「そうなのよ…おーい、おーい、って、さっき何度も…誰かケガか何かしてるんじゃないかと思って」
「そうですか…」
至はそう言うと、さっき葵から受けた忠告そのままを女性達に告げた。
この先の廃別荘から、誰もいないのに声がするという事を…
すると…
「坊や、やーねぇ!幽霊とかお化けとかこの世にいるわけないじゃ無い。本当に、もしかしたらケガした人がいるかも知れない。私、ちょっと見て来る」
しっかりしていそうな方の女性がそう言い、リュックに吊るしていた鈴の音を鳴らしながら林の中に入って行く。
「ちょっとダメよ!」
もう一人の女性が止め…
「ダメですよ!警察に連絡しましょう!」
至も止めた。
だが、女性はどんどん入って行き、もう一人も釣られて付いて行く。
「あっ!ちょっと!ちょっと!」
至は、女性達の行った方を見ながら警察に電話しようと、斜め掛けしていたカバンからスマホを取り出し数字を押す。
しかし…
スマホは、圏外になっていた。
一度電源を落とし再起動を2回したが、やはりダメだった。
「うっ…嘘だろ?何でだよ?そんなめちゃくちゃ山奥でもないぞ!」
その間にも…
チリーン、チリーン、チリーン…
澄んだ寂し気な鈴の音が遠ざかる。
嫌な予感に、至も止めようと女性達の後を追う。
だが、彼女達の姿はすでに無く
て…
チリーン、チリーン、チリーン…
という鈴の音だけが頼りだった。
どんどんどんどん、木々の奥へ草木を掻き分け行く。
しかし、鈴の音は、
チリーン、チリーン、チリーン…
と、ずっと音の大きさが変わらないと言う事は、こんなに急いでも女性達との距離が縮まらない。
チリーン、チリーン、チリーン…
昼でも薄暗い山中にその音が響き、段々と不気味に感じだす。
そして、至の背後から、何かがペキッ、パリッ…と、土上に落ちている小枝や落ち葉を踏む音もする。
「誰だ?!」
至は振り返り、大きな声を出し辺りを見回したが、背後には誰もいなかった。
もしかしたら葵の、兄の僚を亡くした悲しみを共有出来る他人は、自分だけ…
自分しかいない…という…
至の長年の自負は打ち砕かれた。
でも同時に、それ程に葵の悲しみが深いのも仕方無いと理解も出来た。
暫くどこに焦点を合わせるでも無く、ただ葵の事だけ考え呆然としていたら、いつの間にか小雨が止んで青空が見えた。
「こんなに葵を想っているのに…俺には、もう僚しかいないのか…」
至は、呟きため息を付き、新ためて僚の墓参りをする為、下って来た山道を戻り上りだす。
暫く登ると…
さっき妙な声が聞こえた当たりに、丁度下山してきたのだろう…
いかにも登山帰りの格好の中年女性二人が立って何か話していた。
至は、その横を通り過ぎようとした。
すると…
「ねぇ…やっぱり、誰かが呼んでるわよ。誰か、ケガでもしてるんじゃ…」
「でも…登山道から逸れたら危ないわよ」
女性二人の会話が、至の耳に入る
。
至は、さっき葵が言った忠告を思い出す。
そして…女性達に声をかけた。
「あの…何か声が、聞こえたんですか?」
女性達は、困惑した表情を至に向けた。
「そうなのよ…おーい、おーい、って、さっき何度も…誰かケガか何かしてるんじゃないかと思って」
「そうですか…」
至はそう言うと、さっき葵から受けた忠告そのままを女性達に告げた。
この先の廃別荘から、誰もいないのに声がするという事を…
すると…
「坊や、やーねぇ!幽霊とかお化けとかこの世にいるわけないじゃ無い。本当に、もしかしたらケガした人がいるかも知れない。私、ちょっと見て来る」
しっかりしていそうな方の女性がそう言い、リュックに吊るしていた鈴の音を鳴らしながら林の中に入って行く。
「ちょっとダメよ!」
もう一人の女性が止め…
「ダメですよ!警察に連絡しましょう!」
至も止めた。
だが、女性はどんどん入って行き、もう一人も釣られて付いて行く。
「あっ!ちょっと!ちょっと!」
至は、女性達の行った方を見ながら警察に電話しようと、斜め掛けしていたカバンからスマホを取り出し数字を押す。
しかし…
スマホは、圏外になっていた。
一度電源を落とし再起動を2回したが、やはりダメだった。
「うっ…嘘だろ?何でだよ?そんなめちゃくちゃ山奥でもないぞ!」
その間にも…
チリーン、チリーン、チリーン…
澄んだ寂し気な鈴の音が遠ざかる。
嫌な予感に、至も止めようと女性達の後を追う。
だが、彼女達の姿はすでに無く
て…
チリーン、チリーン、チリーン…
という鈴の音だけが頼りだった。
どんどんどんどん、木々の奥へ草木を掻き分け行く。
しかし、鈴の音は、
チリーン、チリーン、チリーン…
と、ずっと音の大きさが変わらないと言う事は、こんなに急いでも女性達との距離が縮まらない。
チリーン、チリーン、チリーン…
昼でも薄暗い山中にその音が響き、段々と不気味に感じだす。
そして、至の背後から、何かがペキッ、パリッ…と、土上に落ちている小枝や落ち葉を踏む音もする。
「誰だ?!」
至は振り返り、大きな声を出し辺りを見回したが、背後には誰もいなかった。
1
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる