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小雨
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小雨が降り出した。
至が葵の左手の包帯を見て聞い
た。
「その左手…傷とか酷いのか?」
「え?!これ…いや、大した事無い…」
葵はビクっとすると、それをまるで隠すように自分の背後に回した。
「来い!」
至はそう言い、葵の右腕を強引に取り走り出した。
「おっ?おい!」
葵は戸惑いの声を上げたが、至に付いて走り出した。
そして至は、ふと、今は葵に触れても嫌がられ無い事を思い出す。
あれだけ、誰かに触られるのを嫌がっていたのは、治ったのだろうかと考えながら山道を下る。
するとすぐ、ハイカー用の屋根付きの休憩場があり、そこのベンチの一つに座る。
雨は本格的に降り出し、周りはただその音しかしない。
朝の天気予報は晴れだったのに、
山の天気だからか…と、至は、折畳み傘を持って来なかった自分を恨んだ。
そして、ふと…
間をかなり開けて横に座った葵を見た。
葵も空を恨めし気に見ていたが、その葵の横顔の美しさに思わず見惚れた。
すると、その視線に気付き、葵が至に視線を向けた。
至は照れたように、すぐ反対の遠くに目をやった。
それから…
しとしとしと…と雨が降り続き…
変な緊張感の中、もう5分位二人無言だ。
だが、急に、至が前を向いたまま静かに葵に喋り出した。
色々聞きたい謎はあったが、まず
何より最初に聞きたい事、それ
は…
「どうして?…」
「え?…」
葵は、戸惑いの表情を浮かべた。
「どうして?…俺の電話やメールは着信拒否にして、何回手紙出しても返事くれなかったんだ?葵…」
「……」
「俺が、イヤになった…とか…」
「……」
何を尋ねても、葵は無言だった。
ただ下を向き、何かを考えているようだった。
そう、深く何かを…
「葵…俺…お前が引っ越してから一日もお前の事、忘れた事無かった。葵…聞いてるか?」
余り反応が無くて、至は焦り葵を見た。
すると、葵も至に視線を向けやっと呟いた。
だが、葵の瞳は、今にも泣きそうに見えた。
「至…俺…もう、四年前の事…忘れたいんだ。お前を見てると、僚の事思い出す。だから…もう、俺には一切、一切関わらないでくれ…絶対にいいな…」
葵は立ち上がり、雨の中を、駅に向かってだろう走り出した。
「おい!葵!!!」
至も立ち上がり叫んだが、後を追えなかった。
あれだけ、自分はハッキリ拒絶されたのだから…
でも、忘れたいと言いながら、何故、葵は僚の墓にいたのだろう?
そんな奇妙な謎が脳裏を掠めたが、葵の母親に言われて来るしか無かったのかも知れない。
そしてきっとあれが、至に対する葵の本音なのだろうと思った。
「僚…俺…お前も葵も、完全に失くしちまったよ…」
至は、木々の間に広がる曇天に向かい悲し気に自嘲した。
至が葵の左手の包帯を見て聞い
た。
「その左手…傷とか酷いのか?」
「え?!これ…いや、大した事無い…」
葵はビクっとすると、それをまるで隠すように自分の背後に回した。
「来い!」
至はそう言い、葵の右腕を強引に取り走り出した。
「おっ?おい!」
葵は戸惑いの声を上げたが、至に付いて走り出した。
そして至は、ふと、今は葵に触れても嫌がられ無い事を思い出す。
あれだけ、誰かに触られるのを嫌がっていたのは、治ったのだろうかと考えながら山道を下る。
するとすぐ、ハイカー用の屋根付きの休憩場があり、そこのベンチの一つに座る。
雨は本格的に降り出し、周りはただその音しかしない。
朝の天気予報は晴れだったのに、
山の天気だからか…と、至は、折畳み傘を持って来なかった自分を恨んだ。
そして、ふと…
間をかなり開けて横に座った葵を見た。
葵も空を恨めし気に見ていたが、その葵の横顔の美しさに思わず見惚れた。
すると、その視線に気付き、葵が至に視線を向けた。
至は照れたように、すぐ反対の遠くに目をやった。
それから…
しとしとしと…と雨が降り続き…
変な緊張感の中、もう5分位二人無言だ。
だが、急に、至が前を向いたまま静かに葵に喋り出した。
色々聞きたい謎はあったが、まず
何より最初に聞きたい事、それ
は…
「どうして?…」
「え?…」
葵は、戸惑いの表情を浮かべた。
「どうして?…俺の電話やメールは着信拒否にして、何回手紙出しても返事くれなかったんだ?葵…」
「……」
「俺が、イヤになった…とか…」
「……」
何を尋ねても、葵は無言だった。
ただ下を向き、何かを考えているようだった。
そう、深く何かを…
「葵…俺…お前が引っ越してから一日もお前の事、忘れた事無かった。葵…聞いてるか?」
余り反応が無くて、至は焦り葵を見た。
すると、葵も至に視線を向けやっと呟いた。
だが、葵の瞳は、今にも泣きそうに見えた。
「至…俺…もう、四年前の事…忘れたいんだ。お前を見てると、僚の事思い出す。だから…もう、俺には一切、一切関わらないでくれ…絶対にいいな…」
葵は立ち上がり、雨の中を、駅に向かってだろう走り出した。
「おい!葵!!!」
至も立ち上がり叫んだが、後を追えなかった。
あれだけ、自分はハッキリ拒絶されたのだから…
でも、忘れたいと言いながら、何故、葵は僚の墓にいたのだろう?
そんな奇妙な謎が脳裏を掠めたが、葵の母親に言われて来るしか無かったのかも知れない。
そしてきっとあれが、至に対する葵の本音なのだろうと思った。
「僚…俺…お前も葵も、完全に失くしちまったよ…」
至は、木々の間に広がる曇天に向かい悲し気に自嘲した。
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