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1.恋するより楽しいこと③

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 しばらくしてまごころお餅が投げキッスして画面から退場すると、ネギ味噌ちゃんがゲラゲラ笑う声がヘッドセットから大音響で聞こえてきて、私も無駄に笑ってしまう。
「笑い方のクセが強いんだよ」
『えー。そうかな。いひぃっ、いひぃっ』
「それだよ!」
 しばらくそれだけのことでひとしきり笑うと、くだらない話をしながらお互いの近況についてようやく話し始めた。
『そういえば、なんかしばらく大変だったんでしょ』
「そう。やっと休みになった」
『よし飲もう! 乾杯』
「はいかんぱーい」
 カメラに缶ビールを寄せて乾杯すると、そのままビールを一気に呷る。
『仕事そんなに忙しいなら、恋愛はどうなってんの』
「その話する? 親にも言われて散々だよ」
『なに。見合いでもセッティングされた?』
「本当にそうなりそう。なんか知り合いの息子さんとか独身の部下とか、ガンガン押してくる」
『マジか。そういえばエルバもそんなこと言ってるって、ギルマスが言ってた気がする』
「エルバ?」
 どこかで名前を聞いたことがある気がするけど、ギルドのメンバーだろうか。
『あれ、ロッソはエルバと面識ないんだっけ』
「知らない知らない」
『ギルマスのリア友で、うちのギルドの古参のプレイヤーだよ。ほら、デスサイズのエルバだよ。知らない?』
 そこまで言われて思い出した。無茶苦茶使い勝手の悪い装備、 死神の鎌デスサイズを使う美人キャラのハイランクプレイヤーで、ゲーム内でも有名な人だ。
「名前とアバターは分かる。でも一緒に遊んだことないと思う」
『そうなんだ。なんか意外』
「そうだね。ギルメンは大概オフ会で顔合わせてるけど、エルバさんとはゲームの中でも外でも会ったことないと思う」
『あー。エルバはオフ会とか来ないだろうね。面倒くさがりって言ってたし』
「マジか」
 どんな人なのかよく知らないけど、滅多にパーティを組まずにソロで活動してる話を聞いたことがある。
『そうそう、それで話戻すけどさ。エルバも親が結婚しろってうるさいらしくてさ』
「へえ。いくつくらいの人なの」
『うちらと同じくらいじゃなかったかな。いってて三十代後半だと思うよ』
「うわあ。やっぱりそういうの言われるんだ」
『そりゃそうだよ。孫抱かせろとか、世間体がとか。理由は色々あるだろうけどね。同性が好きなのかって聞かれたみたいな話聞いたもん』
「それは、どう反応すれば……」
 個人の嗜好は人それぞれだし、どんな人を好きでも悪いことじゃない。そもそもよく知らない人だし、こんなプライベートなことを勝手に聞いていいんだろうか。
『ちょうどいいからギルマス呼ぶ?』
「は? 今から? なんで」
『いや、エルバを紹介しようと思って。二人して同じような悩み抱えてる訳だし。相談相手にちょうどいいじゃん』
「ちょうどいいとは」
 なにがちょうどいいのか分からなくてビールを一気に飲むと、一言断りを入れてスマホを操作し始めたネギ味噌ちゃんは、ギルマスにメッセージを送っているのだろう。
『とりあえずメッセージ入れといた』
「仕事早いな」
 今の時代、結婚の適齢期っていくつなんだろう。
 まごころお餅とネギ味噌ちゃんは幼馴染みらしくて、それでも学生時代は接点が薄れて疎遠だった時期もあると言う。
 大人になってから同窓会で再会して、意気投合してそのまま結婚したって言うから、結婚の出会いなんてどんな形で転がってるか分からないものだと思う。
 ネギ味噌ちゃんと二人、しばらくの間恋バナをして盛り上がっていると、三本目のビールを開けたタイミングでチャット画面に別の人物が現れた。
『こんばんは』
 そこには久しぶりに顔を合わせる、ギルマスのタラントさんが映っていた。
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