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15.恋人始めます①
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小料理屋さんを出て、二軒目のバーに行ってほろ酔い程度までお酒を楽しむと、なんとなく甘い雰囲気になって、勢いのまま慶弥さんのマンションに来てしまった。
「まだ飲むよね」
「うん」
モデルルームみたいにすっきりと片付いた部屋のソファーに座って、キッチンでお酒を用意する慶弥さんに返事をする。
「ちょっと甘味が強いかもしれない」
「わあ、ホットワイン」
シナモンスティックが入った香りが豊かなホットワインに驚くと、ちょっと冷えてきたからねと慶弥さんは私の隣に座る。
「クローブが少し多めなんだけど、大丈夫かな」
「うん、凄く美味しい。りんごの香りもするね」
「薄くスライスして、シロップに漬け込んだやつが入ってるよ」
「よく作るの?」
「そうだね。結構好きだね」
一口、また一口と飲む度に、体の内側からポカポカしてほっこりした気持ちになる。
「瑞穂は家でもワインって飲むの」
「飲むよ。勉強のためにも飲むし、スーパーで安売りのやつも買ったりするし」
「ワインはいつくらいから好きなの」
「前にも言ったけど、飲食でバイトし始めてから、最初は知識だけ興味があったのね。だけど知識がついてくると、微妙な味の違いとかも分かるようになって、それが楽しくて」
「それが今でも続いてる訳か」
納得したように呟くと、慶弥さんは俺も同じような理由だなと、ワインの魅力にハマった話をし始める。
知っている気になっていたけれど、慶弥さんのことだって知識としてしか頭に入っていなかった。
それは恋人役を引き受けたから、情報として頭に入れておく必要があったからだ。
だけどこんな風に、彼を知りたいと思って聞いてみると、知っていたはずの話ですら、新たな一面を知ったようで嬉しくなるから不思議な感じだ。
そうやってお互いの話をしながら二杯、三杯とグラスを空けると、このところの寝不足のせいか、一気に酔いが押し寄せてきて、視界がぐるんと回り始める。
「瑞穂、酔ったの」
「そうみたい。最近ずっと寝不足だったから」
「そっか。俺のことで悩んでたのかな」
「それもある」
「ちょっと待ってて。着替え用意する」
慶弥さんはそう言うと、立ち上がってリビングの隣の寝室に向かい、Tシャツとハーフパンツ、上から羽織るパーカーを持ってきた。
「一人で着替え出来る?」
「大丈夫」
「じゃあ、寝室で着替えて。俺も片付けたら行くから」
「ごめん慶弥さん、私お風呂入りたい」
「えぇ、危ないよ」
「大丈夫だよ、そこまで酔い潰れてないから」
「じゃあ、ちょっと待って」
慶弥さんはそう言うと再び寝室に向かい、新品のボクサーパンツを持ってきた。
「さすがに下着の替えはないからこれ使って。洗えるものは洗濯機に入れて。乾燥機があるから洗濯するよ」
「ありがとう」
心配してバスルームまで着いてきた慶弥さんは、洗面所で新しい歯ブラシとバスタオルを用意すると、少し心配そうにしながらも、ドアを閉めて出て行った。
彼の気配がすっかり消えたのを確認すると、服を脱いでジャケットとズボン以外は洗濯機に入れさせてもらう。
男の人の一人暮らしにしては、本当に綺麗なバスルームに驚きつつ、シャワーを出すと、棚に置かれた洗顔料を借りてまずは念入りにメイクを落とす。
クレンジングがないから仕方ないけど、メンズの洗顔なんて初めて使ったから少しだけ肌が痛い。
そして髪を洗い始めると、なにも操作してないのにバスタブにお湯が流れ始めてギョッとする。
「ごめん瑞穂」
洗面所のドアの向こうから私を呼ぶ声が聞こえて、慌てて返事をする。
「あ、はい」
「シャワーだけじゃ冷えるから、お湯貯めて浸かって。栓してね。じゃないと貯まらないから」
「分かった。ありがとう」
「まだ飲むよね」
「うん」
モデルルームみたいにすっきりと片付いた部屋のソファーに座って、キッチンでお酒を用意する慶弥さんに返事をする。
「ちょっと甘味が強いかもしれない」
「わあ、ホットワイン」
シナモンスティックが入った香りが豊かなホットワインに驚くと、ちょっと冷えてきたからねと慶弥さんは私の隣に座る。
「クローブが少し多めなんだけど、大丈夫かな」
「うん、凄く美味しい。りんごの香りもするね」
「薄くスライスして、シロップに漬け込んだやつが入ってるよ」
「よく作るの?」
「そうだね。結構好きだね」
一口、また一口と飲む度に、体の内側からポカポカしてほっこりした気持ちになる。
「瑞穂は家でもワインって飲むの」
「飲むよ。勉強のためにも飲むし、スーパーで安売りのやつも買ったりするし」
「ワインはいつくらいから好きなの」
「前にも言ったけど、飲食でバイトし始めてから、最初は知識だけ興味があったのね。だけど知識がついてくると、微妙な味の違いとかも分かるようになって、それが楽しくて」
「それが今でも続いてる訳か」
納得したように呟くと、慶弥さんは俺も同じような理由だなと、ワインの魅力にハマった話をし始める。
知っている気になっていたけれど、慶弥さんのことだって知識としてしか頭に入っていなかった。
それは恋人役を引き受けたから、情報として頭に入れておく必要があったからだ。
だけどこんな風に、彼を知りたいと思って聞いてみると、知っていたはずの話ですら、新たな一面を知ったようで嬉しくなるから不思議な感じだ。
そうやってお互いの話をしながら二杯、三杯とグラスを空けると、このところの寝不足のせいか、一気に酔いが押し寄せてきて、視界がぐるんと回り始める。
「瑞穂、酔ったの」
「そうみたい。最近ずっと寝不足だったから」
「そっか。俺のことで悩んでたのかな」
「それもある」
「ちょっと待ってて。着替え用意する」
慶弥さんはそう言うと、立ち上がってリビングの隣の寝室に向かい、Tシャツとハーフパンツ、上から羽織るパーカーを持ってきた。
「一人で着替え出来る?」
「大丈夫」
「じゃあ、寝室で着替えて。俺も片付けたら行くから」
「ごめん慶弥さん、私お風呂入りたい」
「えぇ、危ないよ」
「大丈夫だよ、そこまで酔い潰れてないから」
「じゃあ、ちょっと待って」
慶弥さんはそう言うと再び寝室に向かい、新品のボクサーパンツを持ってきた。
「さすがに下着の替えはないからこれ使って。洗えるものは洗濯機に入れて。乾燥機があるから洗濯するよ」
「ありがとう」
心配してバスルームまで着いてきた慶弥さんは、洗面所で新しい歯ブラシとバスタオルを用意すると、少し心配そうにしながらも、ドアを閉めて出て行った。
彼の気配がすっかり消えたのを確認すると、服を脱いでジャケットとズボン以外は洗濯機に入れさせてもらう。
男の人の一人暮らしにしては、本当に綺麗なバスルームに驚きつつ、シャワーを出すと、棚に置かれた洗顔料を借りてまずは念入りにメイクを落とす。
クレンジングがないから仕方ないけど、メンズの洗顔なんて初めて使ったから少しだけ肌が痛い。
そして髪を洗い始めると、なにも操作してないのにバスタブにお湯が流れ始めてギョッとする。
「ごめん瑞穂」
洗面所のドアの向こうから私を呼ぶ声が聞こえて、慌てて返事をする。
「あ、はい」
「シャワーだけじゃ冷えるから、お湯貯めて浸かって。栓してね。じゃないと貯まらないから」
「分かった。ありがとう」
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