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20.解放② ◇
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「正直もう、疲れちゃったの。悲しむのも憎むのも、思ってる以上に気力が要るんだもの。五年も慶弥くんを縛り付けておいて、今更言うことじゃないけどね」
「でも、やっぱり俺にも責任はあるから」
「慶弥くんの、そういうところが嫌いで仕方なかった」
「ごめん」
「謝らないで! これ以上、惨めにさせないで」
「前田のことは本当に、どうやっても償い様がない……。俺がしたことが取り返しのつかない結果を招いたんだ」
「もういいのよ」
「だけど」
「もういいんだってば! うんざりなのよ」
言葉とは裏腹に、優しい顔で泣き笑う舞美さんは、明らかに吹っ切れた顔をしている。
「私には円佳がいるわ。常にそれを第一に考えるように諭してきてくれたのは慶弥くんよ」
「でも」
「もういいのよ。貴方は幸せになっていいのよ」
「舞美さん」
「確かに私はまだ地に足がついてないかもしれない。だけど、支えてくれる家族がいる。ようやく目が覚めたの」
「…………」
「それに今日顔を見てピンときたわ。慶弥くん、やっぱり大切にしたい人が出来たから、その話をしに来たんじゃないの? 私の許可なんて必要ないのよ」
「だけど、俺は」
「宗ちゃんのことは、慶弥くんのせいじゃないわ。私がそう刷り込んできただけ。私はもう貴方を許すから、いい加減自分を許してあげて」
舞美さんの言葉は、本心から俺に向けられている。
「許して、いいのかな」
「私が前を向くために、貴方はもう不要なの」
「酷いな」
「そうよ。私は慶弥くんのことが大嫌いだもの」
「大嫌い、か……」
どれだけ舞美さんに尽くしたところで、俺の罪が消える訳じゃない。そんなこと分かってたのに、ようやくこの苦痛から解放されることが、清々しくて心地いいのが辛かった。
友人を死に追いやった罰は、きちんと受けるべきだと思ってきた。だから恋もその先のことも、一切考えるのをやめた。
だけど瑞穂に出会ってしまった。
五年も関わってきて今更放り出すだなんて、自分だけが幸せになるなんて、そんな都合のいいことが通るとは思ってない。
だけど俺の擦り減った神経も、もう既に限界を迎えていた。
前田の仏壇に手を合わせると、さっさと帰れと言う舞美さんに別れを告げ、もう二度と会うこともないだろう彼女と握手を交わしてハグをする。
「じゃあ、元気で」
どういう別れの言葉がベストなのか分からなくてそう言うと、その場を離れてエレベーターに向かう。
「慶弥くん!」
エレベーターに乗り込もうとした瞬間、舞美さんに呼び止められて振り返ると、大きく手を振る彼女が見えた。
「せいぜい幸せになって、私にもっと嫌がらせしてみせなさい」
「なんだよ、それ」
可笑しくて笑ってしまう。
「円佳が寂しがるだろうし、連絡はするから」
「分かった。じゃあね」
これでもう、彼女たち親子と関わることはなくなるだろう。
エレベーターに乗り込んで一階に降りると、駐車場で車に乗り込んでシートベルトを締める。
どうしようもなく瑞穂に会いたくて仕方なくなった。
(帰ったらきちんと話そう)
なんとなく気配を感じて上を見上げると、ベランダから手を振る舞美さんと円佳の姿が見えた。
短くクラクションを鳴らして別れの挨拶を済ませると、俺は瑞穂が待つ家に向かって車を走らせた。
「でも、やっぱり俺にも責任はあるから」
「慶弥くんの、そういうところが嫌いで仕方なかった」
「ごめん」
「謝らないで! これ以上、惨めにさせないで」
「前田のことは本当に、どうやっても償い様がない……。俺がしたことが取り返しのつかない結果を招いたんだ」
「もういいのよ」
「だけど」
「もういいんだってば! うんざりなのよ」
言葉とは裏腹に、優しい顔で泣き笑う舞美さんは、明らかに吹っ切れた顔をしている。
「私には円佳がいるわ。常にそれを第一に考えるように諭してきてくれたのは慶弥くんよ」
「でも」
「もういいのよ。貴方は幸せになっていいのよ」
「舞美さん」
「確かに私はまだ地に足がついてないかもしれない。だけど、支えてくれる家族がいる。ようやく目が覚めたの」
「…………」
「それに今日顔を見てピンときたわ。慶弥くん、やっぱり大切にしたい人が出来たから、その話をしに来たんじゃないの? 私の許可なんて必要ないのよ」
「だけど、俺は」
「宗ちゃんのことは、慶弥くんのせいじゃないわ。私がそう刷り込んできただけ。私はもう貴方を許すから、いい加減自分を許してあげて」
舞美さんの言葉は、本心から俺に向けられている。
「許して、いいのかな」
「私が前を向くために、貴方はもう不要なの」
「酷いな」
「そうよ。私は慶弥くんのことが大嫌いだもの」
「大嫌い、か……」
どれだけ舞美さんに尽くしたところで、俺の罪が消える訳じゃない。そんなこと分かってたのに、ようやくこの苦痛から解放されることが、清々しくて心地いいのが辛かった。
友人を死に追いやった罰は、きちんと受けるべきだと思ってきた。だから恋もその先のことも、一切考えるのをやめた。
だけど瑞穂に出会ってしまった。
五年も関わってきて今更放り出すだなんて、自分だけが幸せになるなんて、そんな都合のいいことが通るとは思ってない。
だけど俺の擦り減った神経も、もう既に限界を迎えていた。
前田の仏壇に手を合わせると、さっさと帰れと言う舞美さんに別れを告げ、もう二度と会うこともないだろう彼女と握手を交わしてハグをする。
「じゃあ、元気で」
どういう別れの言葉がベストなのか分からなくてそう言うと、その場を離れてエレベーターに向かう。
「慶弥くん!」
エレベーターに乗り込もうとした瞬間、舞美さんに呼び止められて振り返ると、大きく手を振る彼女が見えた。
「せいぜい幸せになって、私にもっと嫌がらせしてみせなさい」
「なんだよ、それ」
可笑しくて笑ってしまう。
「円佳が寂しがるだろうし、連絡はするから」
「分かった。じゃあね」
これでもう、彼女たち親子と関わることはなくなるだろう。
エレベーターに乗り込んで一階に降りると、駐車場で車に乗り込んでシートベルトを締める。
どうしようもなく瑞穂に会いたくて仕方なくなった。
(帰ったらきちんと話そう)
なんとなく気配を感じて上を見上げると、ベランダから手を振る舞美さんと円佳の姿が見えた。
短くクラクションを鳴らして別れの挨拶を済ませると、俺は瑞穂が待つ家に向かって車を走らせた。
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