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25.変わりゆく日常①

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 早いものであっという間に時間は過ぎ、慶弥さんとお付き合いをすることになってから更にひと月が経ち、ルサルカでの勤務も残すところ僅かとなった。
「いかがでしょうか。こちらは甘味が強く、本日のランチメニューでご用意するお食事とも相性がよろしいかと存じます」
 クリスマスを控えたこの時期の限定メニューの説明をしながら、デザートと合わせても飲みやすいワインなので、ぜひお勧めしたいと更に付け加える。
「うん。香りがいいですね。じゃあこの白ワインで」
「かしこまりました」
 少々値の張るボトルを選んでいただけて、心の中でガッツポーズを作ると、それを表情には出さずにお客様のグラスを冷えたワインで満たしていく。
 今日は観光バスの運営会社が企画したバスツアーで、ワイナリーにたくさんの集客があり、そのお客様がホテルでランチを召し上がるので、平日なのにレストランは混雑している。
「赤西。ここはいいから、原田のサポート頼んでいいかな」
「承知しました」
 シェフソムリエの高橋さんも、久々の嬉しい悲鳴に忙しそうにしながらも、さすがベテランと言うべきか、動きは素早いのに繊細で洗練されていて優雅にすら見える。
 いつになったらこの域に達することが出来るのか、まだまだ日々勉強だなと身に沁みて感じていると、コホンと咳払いされてすぐに我に返り、ワインセラーを後にした。
 混雑したフロアに出ると、お客様のグラスを空にしないようにテーブルを回って、高橋さんに言われた通り、私の後任を任される原田くんのサポートにつく。
 ルサルカに来て色々なことがあったけれど、一緒に働くスタッフに恵まれて、ここまでやってこれたことには感謝しかない。
 ここを離れることになるのは凄く寂しいけれど、いつか自分のワインバーを持つためにも、東京店でシェフソムリエを任されることは確実にステップアップになる。
 そう思うからこそ、ここ最近は忙しいのが心地よく感じるほど仕事が充実している。
 そして異動を控えて仕事のことでバタバタしているので、慶弥さんと直接会うことは出来てない。
 今日は久々に早番勤務なので、夜に電話するくらいは出来るだろうか。
(彼の誕生日も電話だけだったしな)
 ランチの激務を終えて引き継ぎを済ませると、そのまま帰宅して溜まった洗濯物を片付け、段ボールが積まれた家中を掃除して回る。
 引っ越しの準備も並行してやらないといけないので、このところ本当に目まぐるしい毎日が続いていた。
 だから慶弥さんとは直接会えない代わりに、時間がある時はゲームをしながらボイスチャットでやり取りをして、お互いの近況をそこで確認したりしている。
 そういえば、一度タラントさんともゲーム内で遭遇することがあって、私たちが正式に付き合うことになった話をすると、すごく驚きながらも俺のおかげだから感謝しろと揶揄われた。
 それを言うなら、最初のきっかけをくれたまごころお餅とネギ味噌ちゃんにも、いつかきちんと報告をしないといけない。
『瑞穂?』
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
 今がゲーム中で、ボイスチャットで慶弥さんと会話している最中なのを思い出してハッとする。
『そっか。いよいよ来週には引っ越しだもんね、早いよね。来週末から勤務開始だけど、やっぱり緊張してるかな』
「そりゃするよ。若狭さんはめちゃくちゃいい人だし、あの人の後任は大変そうだもん」
『そうかな。若狭は結構チャラチャラしてるし、いい加減なところもあるよ? 瑞穂なら大丈夫だよ』
「でもお店の雰囲気とか、他のスタッフとのやり取りもあるしさ」
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