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32.二人で②
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「うん。引っ越しの片付けは大変だろうからって。店長なんか、慶弥さんに一人で片付けさせられないって、顔青くしてた」
「そんなの気にすることないのに」
そして近所のお洒落なお蕎麦屋さんで、お酒を楽しみながら天ぷら蕎麦を堪能すると、ようやくスタート地点に立った実感が湧いてくる。
今までも、入籍してからは色んな変化があったけれど、これからは家族として同じ家での生活が始まる。
ベッドの話じゃないけど、家の中で工夫できることは試行錯誤しながら決めていければいいなと思う。
「あれ、なんか雨降りそうじゃない?」
「本当だ。雨の匂いがする」
「匂いとか分かるの」
お蕎麦屋さんを出て手を繋ぐと、近所の風景を見ながら、明日辺り、ゆっくりと散歩してみようかと話が盛り上がる。
そして新居となったマンションに帰宅すると、お風呂を済ませてから、引っ越し祝いのドイツのスパークリングワイン、シャウムヴァインを開けて乾杯することにした。
「引っ越しお疲れ様」
「お疲れ。乾杯」
グラスを合わせて、優しく発泡する淡い黄色の液体を呑み込むと、爽やかな香りと瑞々しい甘さが口の中に広がる。
「ああっ、美味しい」
「このゼクトは里中さんからの引っ越し祝い」
ちなみにゼクトとは、簡単に説明するとシャウムヴァインの中でも二次発酵によって作られたもののことで、すっきりとした酸味と華やかな香りで個性的な味わいが魅力だ。
私もシャウムヴァインは、ルサルカに勤務してから口にするようになったけど、こんなに華やかな物は初めて飲んだ。まだまだ知識不足を痛感する。
「里中さん、粋なことするね」
「だよね。うちでの取り扱いがない商品をわざわざドイツスタッフ経由で手に入れたらしいよ」
「ちゃんとお礼しないとね」
「そうだね」
おつまみ代わりにイチゴを食べながら、するする飲めてしまうゼクトをすぐに空にすると、もう一本くらい飲もうかと慶弥さんが立ち上がる。
「おつまみがないね」
「なくても大丈夫でしょ」
「じゃあ、これは俺の秘蔵のワインだよ」
そう言って慶弥さんが出したのは、ドイツのモーゼル地方で有名な醸造所が造る高級な白ワインだ。
「前職で働いてる時にハマってね。これはちょっと値が張ったけど、その価値のあるワインだよね」
「うちでは取り扱ってないけど、ドイツワインといえばこれって感じはあるよね」
慶弥さんのサーブで新しいグラスに注がれたワインは、マホガニーの深みのある色と、一気に花開いたような強い香りが印象的で、飲む前からテンションが上がってしまう。
「凄いワクワクした顔してる」
「そりゃあね。美味しいし勉強にもなるし、一石二鳥なんだもん」
「なるほどね。じゃあ改めて、乾杯」
「乾杯」
慶弥さんのプロポーズを受けた時は、こんな日が来るのはもっともっと先だと思ってた。
プロポーズ直後に自分の判断で結婚を決めて、今は後悔してないけど、今日に至るまで様々な不安もあった。
それに実際、これからだって手探りで生活しながらこれから先のことを考えていくことになる。
ただ、私の中で僅かにだけど変化も生まれてきてる。
慶弥さんとの結婚が会社に伝わった時、意外にも騒がれることもなく、店のスタッフもお祭りのように騒ぎはしたけれど、批判的な意見に晒されることはなかった。
「そんなの気にすることないのに」
そして近所のお洒落なお蕎麦屋さんで、お酒を楽しみながら天ぷら蕎麦を堪能すると、ようやくスタート地点に立った実感が湧いてくる。
今までも、入籍してからは色んな変化があったけれど、これからは家族として同じ家での生活が始まる。
ベッドの話じゃないけど、家の中で工夫できることは試行錯誤しながら決めていければいいなと思う。
「あれ、なんか雨降りそうじゃない?」
「本当だ。雨の匂いがする」
「匂いとか分かるの」
お蕎麦屋さんを出て手を繋ぐと、近所の風景を見ながら、明日辺り、ゆっくりと散歩してみようかと話が盛り上がる。
そして新居となったマンションに帰宅すると、お風呂を済ませてから、引っ越し祝いのドイツのスパークリングワイン、シャウムヴァインを開けて乾杯することにした。
「引っ越しお疲れ様」
「お疲れ。乾杯」
グラスを合わせて、優しく発泡する淡い黄色の液体を呑み込むと、爽やかな香りと瑞々しい甘さが口の中に広がる。
「ああっ、美味しい」
「このゼクトは里中さんからの引っ越し祝い」
ちなみにゼクトとは、簡単に説明するとシャウムヴァインの中でも二次発酵によって作られたもののことで、すっきりとした酸味と華やかな香りで個性的な味わいが魅力だ。
私もシャウムヴァインは、ルサルカに勤務してから口にするようになったけど、こんなに華やかな物は初めて飲んだ。まだまだ知識不足を痛感する。
「里中さん、粋なことするね」
「だよね。うちでの取り扱いがない商品をわざわざドイツスタッフ経由で手に入れたらしいよ」
「ちゃんとお礼しないとね」
「そうだね」
おつまみ代わりにイチゴを食べながら、するする飲めてしまうゼクトをすぐに空にすると、もう一本くらい飲もうかと慶弥さんが立ち上がる。
「おつまみがないね」
「なくても大丈夫でしょ」
「じゃあ、これは俺の秘蔵のワインだよ」
そう言って慶弥さんが出したのは、ドイツのモーゼル地方で有名な醸造所が造る高級な白ワインだ。
「前職で働いてる時にハマってね。これはちょっと値が張ったけど、その価値のあるワインだよね」
「うちでは取り扱ってないけど、ドイツワインといえばこれって感じはあるよね」
慶弥さんのサーブで新しいグラスに注がれたワインは、マホガニーの深みのある色と、一気に花開いたような強い香りが印象的で、飲む前からテンションが上がってしまう。
「凄いワクワクした顔してる」
「そりゃあね。美味しいし勉強にもなるし、一石二鳥なんだもん」
「なるほどね。じゃあ改めて、乾杯」
「乾杯」
慶弥さんのプロポーズを受けた時は、こんな日が来るのはもっともっと先だと思ってた。
プロポーズ直後に自分の判断で結婚を決めて、今は後悔してないけど、今日に至るまで様々な不安もあった。
それに実際、これからだって手探りで生活しながらこれから先のことを考えていくことになる。
ただ、私の中で僅かにだけど変化も生まれてきてる。
慶弥さんとの結婚が会社に伝わった時、意外にも騒がれることもなく、店のスタッフもお祭りのように騒ぎはしたけれど、批判的な意見に晒されることはなかった。
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