追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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(21)オメガであること

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 朽ちた匂い、埃臭さ。

 パメラが意識を取り戻した時、危機的状況に変わりはなかったが、そのすぐそばにアイルーンの姿を確認して小さく安堵した。意識はないようだが、しっかりと息はしている。

 陽が落ちた星灯りに目が慣れると、どうやら家畜や囚人を運ぶ格子に囲まれた馬車の荷台に乗せられて、イミザから別の場所に移動している最中らしい。

 舗装されていない街道を走っているからか、あるいはこの馬車の作りのせいか、体が痛むほど揺れが直接響き、白昼堂々襲撃されて意識を失わされた時の痛みがぶり返して恐怖心が募っていく。

「アイルーン、起きて。お願いよアイルーン目を覚まして」

 パメラは声が漏れないように、周りに意識を向けながら、すぐ隣で意識を失ったままのアイルーンに何度も声を掛ける。

 馬車が揺れる度に恐怖で思わず声が出そうになるが、なんとか堪えて口をつぐむと、パメラは根気よくアイルーンに声を掛け続けた。

「ん……んん」
「アイルーン、大きな声を出してはダメよ」

 意識を取り戻した様子のアイルーンの耳元に顔を寄せると、辺りを警戒しながらパメラは小声で囁く。

「……パメラ。あんた、無事だったんだね」

「無事と言えるかどうか、でも別々にされなくて良かったわ。どうやらイミザから随分と離れたところに向かってるようなの」

 ゆっくり視線だけを動かすようにアイルーンに指示すると、パメラは馬車の揺れで体が寄り添うように、少しずつアイルーンとの距離を縮めて身を寄せる。

「これはマズいね」
「まずい?」

「あぁ、あたしもあまり詳しくはないんだけどね。あそこに見えるのがネイロンの森なら、おそらくカーロ辺りに連れていかれるんだろう」

「カーロ?」

「ラウェルナ大森林に程近い、王都に繋がる街道沿いの商会が束ねる町だよ」

「ラウェルナ大森林って、あの西に広がる聖域の?」

「神や精霊なんか、実際は居る訳ないけどね」

 アイルーンが縄で縛られたパメラと自分を笑うように力なく呟く。

「でもどうしてそんな町に」

「あたしも噂でしか聞いたことないけどね、なんでも町ごとイルギルの根城だって話さ」

「イルギルの……」

 パメラはいよいよ身に迫った危機に、体の熱が根こそぎ奪われていくのを感じる。

 そばにアイルーンが居ることで気持ちが少しばかり緩んでいたが、オメガ狩りと称した犯罪に巻き込まれたことを思い出して、背中を伝う生ぬるい汗に身を震わせる。

「諦めるんじゃないよパメラ。あたしになにがあっても、あんただけは守り抜いてやるからね」

「アイルーン、だめよ。二人で助からなくちゃ」

「あたしは諦めのいい女じゃない。大丈夫さ」

 アイルーンはまだ回復してない状況下で自身も恐怖に震える体を笑顔で隠し、パメラを鼓舞するように頬を寄せて逃げ切ろうと言い切った。

 悪路を進む馬車は御者台に男が二人。酒を呑んで出来上がった様子で、荷台に居るパメラとアイルーンが目を覚ましたことには気が付いていない。
 あるいは気が付いたところで、格子に囲まれた荷台から逃げ出せないことが分かっているからだろう。二人を気にする様子が全くない。

 目を盗んで動くことは容易だが、体を縛る縄は固く結ばれて解ける気配もない。それに縄が解けたところで、この格子を外して荷馬車から脱出するのも不可能と考えて間違いないだろう。

 町に着いてから逃げ出す好機を待つしかないと、アイルーンは唇を噛んだ。

 しばらく馬車が進むと、星灯りに慣れた目に炎が照らす灯りが飛び込んでくる。

「間違いない。カーロに着いたらしい」

 そこまで高さのない外壁がぐるりと外を囲い、町の入り口には簡易だが騎士団の詰所もあるらしい。

「助けて貰えないのかしら」

「噂が本当なら、奴隷として買われたやつらになんて目もくれないだろうね」

 イミザのような大きな街ですら、イルギルに寝返った騎士団員が居たのだ。カーロがイルギルの根城だと言う噂が本当ならば、騎士団に助けを乞うことは不可能だろう。

 アイルーンが言う通り、詰め所の前を馬車が通り過ぎても、御者から酒を受け取った騎士団員は荷台を改めもせずに、そのまま厄介払いのように素通りさせた。

「なんて酷い」
「これが現実さ」

 揺れる荷台でパメラはアイルーンと身を寄せ合った。
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