追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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 招かれた部屋は思いの外質素な内装で、生活している様子が浮かぶような、そんな現実的な様相を呈した部屋であった。

 そして、広い部屋に設られた長椅子にはシュレールとマキナの他に、マグラリアとカミーリアの姿もあった。

「さて。ここからは堅苦しいのは控えて貰いたい」

 初めに口を開いたシュレールは、少し悪戯っぽい表情でそう話すと、楽にして欲しいとお茶を振る舞った。

「叔父上、パメラは旅回り一座で針子の職に就いていたのだそうですよ」

 マグラリアが続いて口を開き、たわいない会話で場の空気が和んでいく。
 しかしその中にあって、いつかの記憶が蘇るかのように、正面に座るマキナだけは沈黙を守りパメラの様子をただ黙って見つめている。

「番になるのなら、婚礼はいつにするんだい」

「兄上たちの婚礼がまだなので、具体的にはなにも」

「自由な身に変わりはないが、お前は王族なのだから、お披露目としての婚礼を挙げない訳にはいかないよ」

「分かってはいます」

 デルザリオは王位継承権を正式に放棄したものの、オルガッドの王子として、今後はラウェルナ大森林一帯を領地として、その管理を任されることになっている。
 表向きはそのような名目になっているが、つまりは今まで通り好きに暮らすことが許されているという訳だ。

「パメラさん、少し宜しいかしら」

 終始和やかな席で、今まで沈黙を守っていたマキナが突然パメラに呼びかけ、部屋の中が静まり返る。

「はい」

 パメラはマキナの表情を読みきれずに困惑する。

「その耳飾り、とても素晴らしい細工ですが、どうなさったのかしら」

 遠慮がちに、けれどなにか期待に満ちた眼差しを向けられて、パメラは不安からデルザリオの手に触れると、優しく握り返される温もりを確かめてから姿勢を正した。

「これは元々母の持ち物で、私が十を迎えた時に魔除けとして贈られた物です」

「お母様はご健勝ですか」

「いえ。父も母も、両親は私が十二の時に流行り病で亡くなりました」

「そう、そうでしたの」

 マキナはとても悲しげな顔をして呟くと、潤む目元にそっと指を添えて涙を拭っている。

「この耳飾りがどうかしたのでしょうか」

 パメラはもう、この状況を理解していた。けれど声に出して問いかける必要があると感じて、マキナを見つめて耳飾りに思い当たることがあるのかと聞いた。

「私には、その昔姉と慕う方が居りましたの」

 マキナの言葉に、シュレールもマグラリアも、カミーリアさえもが静かに目を向けて聞き入る姿勢を見せる。

「とても美しく気品があって優雅でお優しく、けれど機知に富んだ愉快な面もお持ちの方で、私の憧れの方でした」

 マキナは当時を懐かしむように呟くと、パメラの耳飾りを見つめてまた言葉を紡ぐ。

「モニュラスの宵闇、その耳飾りはまさしくエミナイト。お姉様だけが着けることを許された希少な石です」

「ではパメラの母親は、やはりオネストルの秘宝、オフィーリア王女だと」

 デルザリオがマキナを見つめて問い掛けると、部屋中の誰もが固唾を呑む中マキナがゆっくりと頷いた。

「ええ。その清く澄んだ泉のような青い眼はお父上に似たのでしょう。しかしその豊かに煌めく髪。そしてなによりその愛らしく美しい顔立ちは、お姉様を思い起こさせます」

 マキナはそう答えると、携えていた姿絵を机の上に広げてみせる。

「ほう」
「これは」

 皆が口々に感嘆の声を漏らす。

 パメラの記憶の中の母よりも随分と若くて愛らしい姿だが、意志の強そうな凛とした女性は確かに母、オリビアを思わせる顔付きだった。

 そしてその耳元には、パメラの耳元で輝く耳飾りが確かに描かれている。

「今となっては真実は分かりかねますが、私はお姉様に耳飾りを手に取らせていただいたことがあるのです」

 だからよく見させて欲しい。マキナはそう言って再びパメラを見つめた。

 パメラは耳飾りを外すと、デルザリオが手渡した飾り布に包んでマキナに差し出した。

「ええ、ええこれです。間違いありません」

「失礼だが、どうしてそうも断言出来るのだろうか」

 これまで口を開くことなく大人しくしていたカミーリアだったが、ついに我慢ができなくなったのか、少し身を乗り出してマキナを見つめるとその訳を聞いた。

「手に取って分かるのはこの傷です。私はこれをお姉様から見せていただいた折に、あろうことか手元から取り落としてしまいましたの。その時に出来た傷がこの細工の部分の傷です」

 マキナの説明に、一同の視線が一定の箇所に集まる。
 確かにマキナが言う通り、耳飾りは左右ともに石の台座の部分に手の込んだ細工が施されているが、片方だけ一箇所が歪になってくぼんだように傷付いている。
 これは言われなければ分からない。

「この姿絵といい、パメラ嬢の耳飾りが確かにオフィーリア王女の物だとしたら、パメラ嬢は正式にオネストルの血統を受け継ぐ女性ということになるな」

「しかしご両親はもうお亡くなりになっている」

「パメラ、君はご両親の生まれや血統の起源を知りたいと思うかい」

 シュレールの優しい声にパメラは押し黙って考える。
 王女という立場でありながら、腹違いとはいえ実の兄である王子と恋に落ち、国を捨てて生きることを選んだ二人。

「はい」

 パメラは答えを決めた。

「叶うことならば、父と母がどれほど愛し合い、そしてどれほど愛情深く私を育ててくれたのかを、父や母の親である方々にお伝えしたいのです。幸せに過ごしたのだと」

 言葉の最後は涙が混じって上手く声にならない。そんなパメラを気遣いデルザリオが優しく腰を抱き寄せて手を握る。

「分かった。君のその願いを私が叶えよう」

 シュレールはそう言って優しい笑顔をパメラに向けた。
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