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(27)逸る気を抑えて
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「梅原さん、外線2番にアイザニュートの市原さんからお電話です」
「2番ね、ありがとう。はいお電話代わりました、梅原で御座います。はい、どうもお世話になっております」
イーグランドホテルと人気ソーシャルゲーム〈デュオスタ〉とのコラボ企画は着々と準備が進み、サービス開始の3月に向けて、本格的な草案が纏まり細分化した仕事が増えてきた。
電話応対を終えて仮確定のラフ画をチェックすると、すぐに該当する家具に当たりを付けてメールを返信する。
午後からの会議のために資料をまとめると、愛花にランチを誘われて近所の洋食屋さんで大好物のサーモンとほうれん草のグラタンを食べる。
「なに。なんか元気になってない?」
「え、なに急に」
愛花の声に反応して顔を上げると、彼氏でも出来た?とニヤけた顔を向けられる。
「ちょっと前まで酷い顔してたもん。なんか良いことあったでしょ」
「そうかな。別に何もないんだけどね」
熱々のグラタンを先割れスプーンで掬い上げると、トロッと溶けたチーズが伸びて、白い湯気が立ち昇る。
「そう言えば正月はどうするの。奏多は有休溜まってるんだし、早めに休み?」
「全然決めてない。今忙しいし、有休は使えないと思うから、普通に会社のカレンダー通りかな。愛花はどうするの」
「実は、友だちに誘われて仲間内でグアムに行くの。だからクリスマス前から有休使わせてもらう」
「おお、いいじゃん。楽しんどいでよ」
「うん。お土産待っててね」
海外旅行なんて行ったことがないから、正直言ってグアムと言われてもピンと来ない。そもそもパスポート自体を持ってないし、今後の人生においても使う予定はないだろう。
旅行準備でバタバタしてる話を聞きながらランチを終えると、社に戻って歯磨きに行った愛花と別れて喫煙ブースに一人で向かう。
「ラッキー。誰も居ない」
自販機でコーヒーを買ってポーチからタバコを取り出すと、一本咥えてライターで火をつけて灰皿の近くの席に座る。
一稀さんに電話をしてから、今日でもう1週間が経った。だけどまだ一稀さんは家には帰ってきてない。
毎日届くメッセージに、家に帰ったら色々話したいことがあると書いてあるので、長く不在にしてることには理由があるらしいけど、その説明までしてくれるそうだから少し落ち着かない。
私は相変わらず自分の気持ちを伝えることが出来てないし、一稀さんもそう言った話はしてこない。だから前と変わらずヒモと飼い主のまま過ごすことになりそうだ。
スマホを取り出して、何気なく一稀さんから届いたメッセージを読み返す。
【はーい。おはよ】
【やっぱバタバタしててまだ帰れない】
【苦痛で仕方ない。めちゃくちゃしんどい】
【朝から嫌になる】
【いつもちゃんとご飯食べてる?】
【食べないと倒れるよ】
【イイ子にしててね】
今日だけで昼までに7件もメッセージが来てて、思わず顔がニヤける。
でもなんかこの文面には違和感があって、なんでか分からないけど一稀さんっぽくない感じがして、何度もメッセージを読み返してるうちに、もしかしてと頭文字だけ読み返す。
〈は、や、く、あ、い、た、い〉
気付いた瞬間にボッと顔が赤くなった。
いやいや、これは私の勝手な思い違いだと思う。確かになんだか違和感のある文章だけど、メッセージは一度に送られてきたものじゃないし、偶然の産物だと思う。
それにしても奇妙な偶然に心臓がドキドキしてしまう。
「変なことに気付いちゃったな」
気不味さで溜め息を吐き出すと、タバコを消して早々に喫煙ブースを出て歯を磨き、さっぱりしたところで気持ちを切り替えて午後の仕事に取り掛かった。
午後イチの会議は予定よりも長引いて16時前まで押してしまい、スケジュールが押した分そのまま残業になってしまった。
ようやく仕事がキリのいいところまで終わると20時を過ぎていて、みんなも会議のせいで今日は残業してるらしい。いつもよりフロアに人が多い。
「お先に失礼します」
帰り支度を整えて立ち上がると、挨拶を済ませて会社を出た。
ストールを巻き直しながら、冷蔵庫の中に何が残ってただろうと思い出して、今夜も冷えるから簡単に鍋料理で済ませてしまおうかと献立を考える。
そのまま足早に駅に向かうと、タイミングよく到着した電車に乗り込んだ。
「2番ね、ありがとう。はいお電話代わりました、梅原で御座います。はい、どうもお世話になっております」
イーグランドホテルと人気ソーシャルゲーム〈デュオスタ〉とのコラボ企画は着々と準備が進み、サービス開始の3月に向けて、本格的な草案が纏まり細分化した仕事が増えてきた。
電話応対を終えて仮確定のラフ画をチェックすると、すぐに該当する家具に当たりを付けてメールを返信する。
午後からの会議のために資料をまとめると、愛花にランチを誘われて近所の洋食屋さんで大好物のサーモンとほうれん草のグラタンを食べる。
「なに。なんか元気になってない?」
「え、なに急に」
愛花の声に反応して顔を上げると、彼氏でも出来た?とニヤけた顔を向けられる。
「ちょっと前まで酷い顔してたもん。なんか良いことあったでしょ」
「そうかな。別に何もないんだけどね」
熱々のグラタンを先割れスプーンで掬い上げると、トロッと溶けたチーズが伸びて、白い湯気が立ち昇る。
「そう言えば正月はどうするの。奏多は有休溜まってるんだし、早めに休み?」
「全然決めてない。今忙しいし、有休は使えないと思うから、普通に会社のカレンダー通りかな。愛花はどうするの」
「実は、友だちに誘われて仲間内でグアムに行くの。だからクリスマス前から有休使わせてもらう」
「おお、いいじゃん。楽しんどいでよ」
「うん。お土産待っててね」
海外旅行なんて行ったことがないから、正直言ってグアムと言われてもピンと来ない。そもそもパスポート自体を持ってないし、今後の人生においても使う予定はないだろう。
旅行準備でバタバタしてる話を聞きながらランチを終えると、社に戻って歯磨きに行った愛花と別れて喫煙ブースに一人で向かう。
「ラッキー。誰も居ない」
自販機でコーヒーを買ってポーチからタバコを取り出すと、一本咥えてライターで火をつけて灰皿の近くの席に座る。
一稀さんに電話をしてから、今日でもう1週間が経った。だけどまだ一稀さんは家には帰ってきてない。
毎日届くメッセージに、家に帰ったら色々話したいことがあると書いてあるので、長く不在にしてることには理由があるらしいけど、その説明までしてくれるそうだから少し落ち着かない。
私は相変わらず自分の気持ちを伝えることが出来てないし、一稀さんもそう言った話はしてこない。だから前と変わらずヒモと飼い主のまま過ごすことになりそうだ。
スマホを取り出して、何気なく一稀さんから届いたメッセージを読み返す。
【はーい。おはよ】
【やっぱバタバタしててまだ帰れない】
【苦痛で仕方ない。めちゃくちゃしんどい】
【朝から嫌になる】
【いつもちゃんとご飯食べてる?】
【食べないと倒れるよ】
【イイ子にしててね】
今日だけで昼までに7件もメッセージが来てて、思わず顔がニヤける。
でもなんかこの文面には違和感があって、なんでか分からないけど一稀さんっぽくない感じがして、何度もメッセージを読み返してるうちに、もしかしてと頭文字だけ読み返す。
〈は、や、く、あ、い、た、い〉
気付いた瞬間にボッと顔が赤くなった。
いやいや、これは私の勝手な思い違いだと思う。確かになんだか違和感のある文章だけど、メッセージは一度に送られてきたものじゃないし、偶然の産物だと思う。
それにしても奇妙な偶然に心臓がドキドキしてしまう。
「変なことに気付いちゃったな」
気不味さで溜め息を吐き出すと、タバコを消して早々に喫煙ブースを出て歯を磨き、さっぱりしたところで気持ちを切り替えて午後の仕事に取り掛かった。
午後イチの会議は予定よりも長引いて16時前まで押してしまい、スケジュールが押した分そのまま残業になってしまった。
ようやく仕事がキリのいいところまで終わると20時を過ぎていて、みんなも会議のせいで今日は残業してるらしい。いつもよりフロアに人が多い。
「お先に失礼します」
帰り支度を整えて立ち上がると、挨拶を済ませて会社を出た。
ストールを巻き直しながら、冷蔵庫の中に何が残ってただろうと思い出して、今夜も冷えるから簡単に鍋料理で済ませてしまおうかと献立を考える。
そのまま足早に駅に向かうと、タイミングよく到着した電車に乗り込んだ。
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