5 / 80
2-②
しおりを挟む
だけど当然のことながらこの仕事は、どんなに煮詰めても机上の空論扱いを受けて、他部署と意見が割れることもある。
それを独自のやり方で難なくこなしていくリンダさんの仕事、特に交渉術は一言一句聞き漏らさないように、必死で喰らい付いて覚えていく毎日が続いた。
「どうした。溶けるぞ」
「いや、リンダさんに仕事を教えてもらえる立場で、本当に良かったなと思ってたところです」
「なんだマキ。褒めても何も出やせんぞ」
「ダメか、残念」
リンダさんと顔を見合わせて笑うと、どこのお店のソルベだろうかと、フライヤーを探してスマホで検索しつつ、雑談をしながらおやつタイムを過ごした。
「ごちそうさまでした! 緊張してた頭がほぐれた気がします」
ペロリと二個平らげてから改めてお礼を言うと、はいよと片手を挙げてからリンダさんは休憩室の入り口を指差す。
「あれ見ろ、マキを探しとるんだろ」
「ヤバ。次の打ち合わせ行ってきます」
「おう」
慌ててデスクに戻って資料を掻き集めると、取り急ぎフロアの隅にあるパーテーションで仕切られた打ち合わせブースに入って、後輩の恩田くんと擦り合わせをする。
「ごめんね、リンダさんとおやつ食べてた」
「それは大丈夫ですけど、本当に林田さんと仲良いですよね。おっかなくないですか」
「そりゃ仕事は厳しいけど、リンダさんはめちゃくちゃ優しいよ」
「そう思ってるのは槇村さんだけですからね? 槇村さん異動しちゃったら、誰が林田さんの手綱握るんだって、みんな困惑してます」
「そんな猛獣使いみたいに」
「みたい、じゃなくて本気で言ってるんですよ。残される身にもなってください。死活問題なんですよ」
「それはまた別口で聞くからさ。ほら、時間ないからさっさと擦り合わせるよ」
「……はい」
まだまだ愚痴を言いたそうな恩田くんを宥めると、印刷した資料に赤ペンを走らせて仕事の話に切り替えていく。
「エンジンオイル挙動のこの論文から、オイルリングのスペーサの間隔を新しく開発検討出来ないかって話を進めてて、こっちがその構造と理論値を出した資料ね」
恩田くんは元々バイクが好きでウラノに入ったクチで、設計部を経て去年からうちの研究改良室に入った後輩だ。彼はエンジンオタクだから、マニアックな話でちょくちょく盛り上がる。
とはいえ口数が多い子ではないので、いつも私から声を掛けることが多くて、恩田くんと話すためにバイクについてめちゃくちゃ調べたことを思い出すと、彼の成長には頼もしさを感じる。
「よし、確認はこんなものかな。次は会議室どこだったっけ」
「会議フロアですよ、Bの6です。あと十分だから、そろそろ向こうも来てるかも知れません」
「ヤバいね、急ごうか」
資料を掴んでクリアファイルに入れると、頼んだよと恩田くんを鼓舞するように肩を叩く。
「槇村さん居なくなるの、やっぱり相当な痛手ですよ」
しみじみと、心の底から吐き出すような恩田くんの顔は本当に残念そうで、なんだかそれが少し嬉しかった。
それを独自のやり方で難なくこなしていくリンダさんの仕事、特に交渉術は一言一句聞き漏らさないように、必死で喰らい付いて覚えていく毎日が続いた。
「どうした。溶けるぞ」
「いや、リンダさんに仕事を教えてもらえる立場で、本当に良かったなと思ってたところです」
「なんだマキ。褒めても何も出やせんぞ」
「ダメか、残念」
リンダさんと顔を見合わせて笑うと、どこのお店のソルベだろうかと、フライヤーを探してスマホで検索しつつ、雑談をしながらおやつタイムを過ごした。
「ごちそうさまでした! 緊張してた頭がほぐれた気がします」
ペロリと二個平らげてから改めてお礼を言うと、はいよと片手を挙げてからリンダさんは休憩室の入り口を指差す。
「あれ見ろ、マキを探しとるんだろ」
「ヤバ。次の打ち合わせ行ってきます」
「おう」
慌ててデスクに戻って資料を掻き集めると、取り急ぎフロアの隅にあるパーテーションで仕切られた打ち合わせブースに入って、後輩の恩田くんと擦り合わせをする。
「ごめんね、リンダさんとおやつ食べてた」
「それは大丈夫ですけど、本当に林田さんと仲良いですよね。おっかなくないですか」
「そりゃ仕事は厳しいけど、リンダさんはめちゃくちゃ優しいよ」
「そう思ってるのは槇村さんだけですからね? 槇村さん異動しちゃったら、誰が林田さんの手綱握るんだって、みんな困惑してます」
「そんな猛獣使いみたいに」
「みたい、じゃなくて本気で言ってるんですよ。残される身にもなってください。死活問題なんですよ」
「それはまた別口で聞くからさ。ほら、時間ないからさっさと擦り合わせるよ」
「……はい」
まだまだ愚痴を言いたそうな恩田くんを宥めると、印刷した資料に赤ペンを走らせて仕事の話に切り替えていく。
「エンジンオイル挙動のこの論文から、オイルリングのスペーサの間隔を新しく開発検討出来ないかって話を進めてて、こっちがその構造と理論値を出した資料ね」
恩田くんは元々バイクが好きでウラノに入ったクチで、設計部を経て去年からうちの研究改良室に入った後輩だ。彼はエンジンオタクだから、マニアックな話でちょくちょく盛り上がる。
とはいえ口数が多い子ではないので、いつも私から声を掛けることが多くて、恩田くんと話すためにバイクについてめちゃくちゃ調べたことを思い出すと、彼の成長には頼もしさを感じる。
「よし、確認はこんなものかな。次は会議室どこだったっけ」
「会議フロアですよ、Bの6です。あと十分だから、そろそろ向こうも来てるかも知れません」
「ヤバいね、急ごうか」
資料を掴んでクリアファイルに入れると、頼んだよと恩田くんを鼓舞するように肩を叩く。
「槇村さん居なくなるの、やっぱり相当な痛手ですよ」
しみじみと、心の底から吐き出すような恩田くんの顔は本当に残念そうで、なんだかそれが少し嬉しかった。
4
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる