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七月を迎えていよいよ梅雨も明け、無事に引き継ぎを終えた私は、慣れないオフィスカジュアルのセットアップに、低めのヒールのパンプスを履いて秘書室に出勤している。
「あ、髪色変えたんだ」
「さすがにインナーカラーはね」
「確かにそうね」
以前はそこまで服装にうるさい部署じゃなかったが、秘書室では服装やメイク以外に髪型まで細かい規定があると聞いて正直なところゾッとした。
そうは言っても今更辞退は出来ないので、郷に入っては郷に従い、私の直属の上司になる予定の浦野さんを迎え入れる準備として、秘書業務のOJTのために私には指導担当が付いた。
担当の倉本由理恵さんは、意外にも私と同期の二十八歳。
入社当初から秘書室勤務の彼女は、同期会に顔を出す暇もないほど忙しく過ごしていたようで、私も仲良くしている他の同期とは、同じ大学で今も仲が良いと聞かされて二度驚いた。
そんな倉本さんは副社長の第二秘書を務める傍ら、監査役の秘書を統括するリーダーという立場でもある。
「キリのいいところで声掛けてもらえる?」
「分かりました」
秘書室と一口に言っても、役員秘書の担当以外にも事務処理を専門にしてる社員や書類整理の派遣スタッフも居て、華やかなイメージとは違うハードな部署であることは異動初日に気が付いた。
とにかく覚えることが山積みの中、異動して四日目の昼休みになって、ようやく何かと忙しい倉本さんから息抜きしようとランチに誘われ、久々にまともなご飯を食べることになった。
「槇村さんって、研究改良室に居たんだよね」
「そうだよ」
今は休憩中なので、倉本さんの希望で口調も同期らしくタメ口に切り替えると、張り詰めてた緊張感も緩む。
会社の近くで一番美味しいと評判の洋食屋さんは、昭和レトロな雰囲気のこぢんまりとした店で、おそらくウラノの社員だろう人たちで溢れ返っている。
同じ会社なのに、コンビニ弁当主流の前の部署とは大違いだなと苦笑しながら、倉本さんオススメのキノコと山菜の和風パスタとホットサンドのセットを頼んだ。
「実際大変じゃない? 突然秘書の仕事覚えるとか」
「そうだね。勝手が違い過ぎて戸惑ってる」
「それに、思ったよりハードだと思ってるでしょ」
「正直に言うと、本当にそう。頭と同時に体力使うよね」
「だからしっかり食べないとね」
ほうれん草がたっぷり入ったボンゴレビアンコをフォークで巻き取ると、倉本さんは豪快な食べっぷりであっという間にお皿を半分以上を空にする。
「でも本当にイレギュラーだよね、この人事」
「私の異動のこと?」
「そうよ。秘書室見たら分かると思うけど、今回の異動を面白がってない人たちも居るのよ」
「そりゃそうだよ。付け焼き刃で出来る仕事じゃないもん。私だって逃げたいよ」
「あれ、その様子だと調べてないのね」
「なにを」
「今度着任する事業部長のことよ」
「事業部長がどうかしたの」
食べる手を止めて倉本さんを見ると、自分の仕事でしょと呆れた顔をされて、バツが悪くて苦笑して誤魔化す。
「まあそんな暇もないか」
「経歴はちょっと調べたけど、なにか問題でもあるの」
「問題っていうか、元々ウラノの血縁は血縁らしいんだけど、ちょっと込み入った事情を抱えてるらしくて、本家の養子に入ったんだって」
声のトーンを抑えながら、周囲に気を配って耳打ちするように倉本さんは話を続ける。
「それがさ、会長のお気に入りらしくて、仕事が出来る上に、ココも良いワケよ」
倉本さんは頬っぺたを指して、男性秘書が良いって条件は知ってるでしょとホットサンドに手を伸ばす。
そこまで聞いてようやく、呉林室長が話していたのは、リンダさんが言っていた貴公子なのかと腑に落ちた。
「あ、髪色変えたんだ」
「さすがにインナーカラーはね」
「確かにそうね」
以前はそこまで服装にうるさい部署じゃなかったが、秘書室では服装やメイク以外に髪型まで細かい規定があると聞いて正直なところゾッとした。
そうは言っても今更辞退は出来ないので、郷に入っては郷に従い、私の直属の上司になる予定の浦野さんを迎え入れる準備として、秘書業務のOJTのために私には指導担当が付いた。
担当の倉本由理恵さんは、意外にも私と同期の二十八歳。
入社当初から秘書室勤務の彼女は、同期会に顔を出す暇もないほど忙しく過ごしていたようで、私も仲良くしている他の同期とは、同じ大学で今も仲が良いと聞かされて二度驚いた。
そんな倉本さんは副社長の第二秘書を務める傍ら、監査役の秘書を統括するリーダーという立場でもある。
「キリのいいところで声掛けてもらえる?」
「分かりました」
秘書室と一口に言っても、役員秘書の担当以外にも事務処理を専門にしてる社員や書類整理の派遣スタッフも居て、華やかなイメージとは違うハードな部署であることは異動初日に気が付いた。
とにかく覚えることが山積みの中、異動して四日目の昼休みになって、ようやく何かと忙しい倉本さんから息抜きしようとランチに誘われ、久々にまともなご飯を食べることになった。
「槇村さんって、研究改良室に居たんだよね」
「そうだよ」
今は休憩中なので、倉本さんの希望で口調も同期らしくタメ口に切り替えると、張り詰めてた緊張感も緩む。
会社の近くで一番美味しいと評判の洋食屋さんは、昭和レトロな雰囲気のこぢんまりとした店で、おそらくウラノの社員だろう人たちで溢れ返っている。
同じ会社なのに、コンビニ弁当主流の前の部署とは大違いだなと苦笑しながら、倉本さんオススメのキノコと山菜の和風パスタとホットサンドのセットを頼んだ。
「実際大変じゃない? 突然秘書の仕事覚えるとか」
「そうだね。勝手が違い過ぎて戸惑ってる」
「それに、思ったよりハードだと思ってるでしょ」
「正直に言うと、本当にそう。頭と同時に体力使うよね」
「だからしっかり食べないとね」
ほうれん草がたっぷり入ったボンゴレビアンコをフォークで巻き取ると、倉本さんは豪快な食べっぷりであっという間にお皿を半分以上を空にする。
「でも本当にイレギュラーだよね、この人事」
「私の異動のこと?」
「そうよ。秘書室見たら分かると思うけど、今回の異動を面白がってない人たちも居るのよ」
「そりゃそうだよ。付け焼き刃で出来る仕事じゃないもん。私だって逃げたいよ」
「あれ、その様子だと調べてないのね」
「なにを」
「今度着任する事業部長のことよ」
「事業部長がどうかしたの」
食べる手を止めて倉本さんを見ると、自分の仕事でしょと呆れた顔をされて、バツが悪くて苦笑して誤魔化す。
「まあそんな暇もないか」
「経歴はちょっと調べたけど、なにか問題でもあるの」
「問題っていうか、元々ウラノの血縁は血縁らしいんだけど、ちょっと込み入った事情を抱えてるらしくて、本家の養子に入ったんだって」
声のトーンを抑えながら、周囲に気を配って耳打ちするように倉本さんは話を続ける。
「それがさ、会長のお気に入りらしくて、仕事が出来る上に、ココも良いワケよ」
倉本さんは頬っぺたを指して、男性秘書が良いって条件は知ってるでしょとホットサンドに手を伸ばす。
そこまで聞いてようやく、呉林室長が話していたのは、リンダさんが言っていた貴公子なのかと腑に落ちた。
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