愛されなかった少女は溺愛王太子についていけない

小端咲葉

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第二章

41.暗闇の敢行 1 -悪魔視点-

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姫さんと別れ走り出す。

後ろが気になったが、絶対に振り向かなかった。
隙をみせたら死ぬというのは、あの頃に痛いほど味わったからだ。

しばらく走ると路地裏の塀を上り、どっかの家の屋根に立つ。

「なんだ…やっぱり気づいたのか…やぁ久しぶり、ロウユの民。」

「よぉ…クロ。」

目の前にいる、顔を黒いベールで覆い隠した気味の悪い奴を俺は昔から知っていた。こいつの名前を誰も知らないが、黒いベールを被っているからクロという名で通っている。暗殺業界では意外と有名なやつだ。

「俺を追ってきたのか?それとも他の誰かになんか用か?」
「どうだろう。そんなに僕のことに興味があるの?」

表情は見えないもののケタケタと楽しそうに笑っている。
こいつとは、以前依頼主のところに俺と共にいたやつだ。俺とこいつの徹底的な違いは殺人における感情というものだろうか。俺は家族のために仕方なく暗殺者という仕事に就いた。
だが、こいつは根っからの暗殺者であり、殺人をひとつの遊びだと思っている。
死の恐怖さえ感じず、命の駆け引きをゲームだと称す。こういう奴が1番殺りにくいし、面倒臭い。

「そうだな。そこそこは。」
「ふーん。そう。それよりさ……可愛い子だね。」

クロは、姫さんが逃げていった方向をじっと見つめる。

「あの子に何か用か?」

姫さんが俺と主従契約を結んでいるのを悟られないよう“あの子”と言う。

「違う。違う。そんな顔しないでよ。僕は君とお金以外に興味はないんだから。あ、でも、あの子を殺せと命じられれば殺すけどね。それにそんな顔をするなんて、あの可愛い子と主従契約でも結んだのかな?」

そう。こいつのこういうところが嫌いなんだ。

「どうだろうな。」
「まぁ、僕にとってはどうでもいいんだけどね。けど忠告するとそういう顔するのやめた方がいいよ。君らしくもない。」

どうやら、こいつは確信しているようだった。
隠そうとは思ったが、隠し通せるなぞ思っていなかった。

「それよりさ。“あの人”のところに戻ってこない?最近前よりも羽振りが良くなってるんだよね。それに、君がいなくなって、あそこはとてもつまらなくなった。」
「断る。そもそも俺はそんなに金には興味無いんでね。」

顔が見えないのに表情は伝わってくる。クロはその時に表現したい感情によって声色を変えるのだ。
少し高めにしょげるような声を出す。

「えー、そんなぁ。お金よりも自分の主探しが大切だなんてさすがロウユの民だね。」

そしてすぐに元の声色に戻す。

「まぁ、そんなにすぐに戻ってきてくれるとは思っていないけどね。じゃあ、僕は行くよ。ただ、君の様子を見に来ただけだしね。もちろん君の居場所も今日ここで見たことも聞いたことも“あの人”には言わないよ。」
「そんなこと信じられるとでも?」

身を低くし、戦闘態勢に入るが、向こうはのんびりとゆっくりとしており、姿勢や顔色など何一つ変えない。それにもかかわらず、隙が一切ないのはさすがと言うべきか。

「別に、信じてもらわなくてもいいさ。あ、それとひとつ。僕の部下を数人貸してあげたんだ。だから、今僕の周りはがら空きなんだよね。“あの人”の下が嫌なら僕の下でもいいよ。」

面倒くさそうに話すクロは、両手を後頭部に当てる。

「それも断る。そもそも、お前自身部下を信用していないし、お前に着いたとしても必然的にあいつの下に着くことになる。」
「そうだね。僕は誰も信用はしないよ。僕達が生きている場所を忘れたの?」

暗殺業に信用という文字などないことをこいつも俺も知っている。

「でも、それが面白いんじゃないか。僕の掌で踊ってくれるなんて、観察のしがいがあるよね。」
「相変わらず趣味が悪ぃな。」
「ふふ。君も相変わらず詰めが甘いね。」

クロの言葉に引っかかりを覚える。
そもそもこんなやつがこんなところにいること自体おかしいんだ。

「あぁん?」
「じゃあ、僕はもう行くよ。ばいばい。」

そう言ってクロは、一瞬にして姿を消した。

奴の気配が完全に無くなるのを感じると、姫さんが逃げた方へと走り出す。
胸糞悪い感覚を覚えながら、姫さんの姿を探すが見当たらない。

もう自宅に戻ったのかと思い、侯爵邸へと向かった。

おかしい……
姫さんの気配が何一つ見つからないのだ。

そういえば、姫さんはこの国の王太子と仲良くしてたよな…

そう思い、王宮やなどにも足を運んだが、気配などない。
しばらくして、状況整理のために一度、侯爵邸に戻ってきた。

多分…いや、俺の予想が正しければ、姫さんに何らかの危険が怒ったのは間違いない。
この予想は外れて欲しいが、確信している自分がいる。

「くそっ。」

ロウユにとって主は自らの命よりも上位にあると言って良い。そのため主の生死に関しては、何となく感覚でわかるのだ。

大丈夫。まだ、生きている。

にしても何処にいるんだ。
生きているのは分かるが、どういう状況にあるかなど細かいことなどは分からない。

焦りを覚えるが、必死に冷静さを取り戻そうとする。

『やくたたず?』

聞き覚えのある声が、耳をくすぐる。

「おいっ!お前ら!!!」

勢いよく声のした方を振り向くが、あの時に見た姿など見えるはずもない。

『なに?』
『なんなの?』
『うるさい。』
『みみ、きーんとする。』

俺の声が大きかったのか、非難の声が上がるが、どうだっていい。

「姫さんを知らねぇか。お前らが守れって言ったくらいなんだから、誰かは姫さんのことどっかで見てたんだろ?」

『しらない。』
『ぼくたちちかづけなかったの。』
『ぼくたちきらいなの。』
『きらい。』

言っている意味が分からない。

「どういうことだ?」

口々に喋り出す精霊達はお互いの話す内容や声を相殺していく。

「おい!1人ずつ喋ってくれ!!」

そういうと、精霊達は1人ずつ喋ってくれる。

『わたしたちのね。きらいなものなの。』
『もわってして、ざわわってするの。』
『違うよ。ぞわわってするんだよ。』
『えー。そんなんじゃないよ。』

1人ずつ喋っても意味がわからない。

「その嫌いなものってなんだ?」

『なんだろうね?』
『ないか分かる?』
『わからない。』
『しらないよおー。』

精霊同士で聞きあっているのか、そうしてまたざわざわとうるさくなる。

はぁ、もうこいつらに聞くのではなく自力で探した方が早そうだ。
諦めようとした時に、ひとつの精霊の声が耳に入る。


『まほうがつかえないんだよ。』



________________________________

後書き

たくさんのお気に入りありがとうございます。
亀さん投稿ですが、今後ともよろしくお願い致します(灬´ ˘ `灬)
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