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第二章
47. 両手に抱えて -王太子視点-
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「遅い」
先頭にいる男に声をかけた。第三魔法騎士団団長である。
「申し訳ございません。ですが…いえ、こちらの不手際です。」
騎士団長は口を濁した。
「もういい。帰ろう。リリの治療がしたい。」
リリは気を失っているだけだった。
だらんとしている左腕は男が掴んだせいで青くあざになり痛々しげに腫れている。骨が折れている可能性がありそうだ。命に関わる外傷がないだけ確認すると、怪我したところに触れぬよう優しく左腕に触れ、抱えているリリの腹に乗せる。
「殿下。御令嬢はこちらで。」
「いや、いい。私が運ぶ。リリには触れるな。」
騎士団長がスっと前に出て、リリを預かると声をかけてきたが、間髪入れずに断る。
嫉妬は見苦しいと言われそうだが、それでもいい。
今もこれからも、リリに触れる男は私だけだ。
「かしこまりました。こちらの御令嬢は?確認したところ」
「分からないが、リリと一緒にいた事は確かだ。」
視界の端の方にいたなと思い出す。
騎士団の1人が話の間に入ってきた。
「お話中のところ失礼致します。」
「なんだ。」
「こちらの御令嬢はトリードル伯爵家の御令嬢かと…」
そう言って、見せたのは彼女が持っていたであろうハンカチであった。ハンカチの隅には家紋が細やかに刺繍されている。
「そうか。では、その御令嬢も一緒に連れていこう。よろしいでしょうか?殿下。」
「構わない。色々聞きたいこともあるしな。そちらで頼めるか?」
「はい。」
「身元確認のためにトリードル伯爵も呼んでおけ。」
「かしこまりました。」
騎士団長はお辞儀をし、伯爵令嬢を抱えて、私達が乗る馬車とは別の馬車の方へと向かった。
馬車に乗り込むとリリを自身の膝へと下ろし抱え直した。
一緒に乗り込んだ近衛の1人には膝から下ろした方が私の負担が少ないのではと提案されたが、却下した。
馬車の振動が傷に響くかもしれないだろ。私の膝がクッションの役割を果たすから衝撃が小さい。などと適当に述べれば黙った。
光魔法を使い擦り傷程度の傷口を治していく。
瘡蓋になっていた膝の擦り傷は思ったよりも深かったようで、少し時間がかかった。
リリの辺りが柔らかな光で包まれる。
私の魔力を使ってもさすがにリリの左腕は直せない。痛みで辛いだろうが自然治癒力で頑張って貰うしかないのが苦しい。城に着いたら、すぐに治療ができるよう医師を待機させるように早馬を出した。
城に着くと、馬車から降り、客室へと連れてき、待機していた医師に治療を任せる。私の自室でも良いと言ったのだが、さすがに父上に怒られた。
「リリ!!!!!」
ゆっくりと客室のベットへと寝かせる。
そこに現れたのは、息を切らし顔色の悪いリリの父であるヴァランガ卿だった。
その後ろにリリの母である侯爵夫人もいる。
ヴァランガ卿はベットに駆け寄ると膝を地面に付き、リリの顔を覗くように見た。
そこに自分の娘が存在しているのを確かめるように、リリの頬を優しく撫でる。
「無事で良かった。」
あとから夫人も続き、リリの傍に駆け寄り、ヴァランガ卿とは反対側の頬を優しく撫でた。
ヴァランガ卿と夫人の目には涙が溜まっており、大切そうに眠っている我が子を眺めている。
家族の再開の場面にそっと席を外す。
部屋には私と2人の近衛、医師だけであったが、近衛と医師も私に続いて、部屋から離れた。
「殿下。」
私を呼び止めたのは医師であった。
「お見立て通り、ヴァランガ侯爵令嬢の左腕の骨が折れていました。光魔法で痛みは少々和らげておりますが、左腕を3ヶ月程固定し、様子を見ながら、治療をしていくのが最善かと存じます。それと、男達から穢された跡などは見つからず、言葉にするのは少し憚られますが、無垢の証も光魔法により確認済みです。ですのでただ監禁されていただけであるかと…」
「そうか。引き続きよろしく頼む。」
「はい。」
お辞儀をする医者に背を向け、歩き出す。
後ろに着いてきている近衛に先程の伯爵令嬢について問う。
「あの令嬢は?」
「はい。軽い傷を負っており、現在治療中です。先程、トリードル伯爵が到着し、自分の娘であると身元の確認も終わりました。早くても明日、遅くても数日後には目を覚まされるのではないかと医師が判断致しました。」
「わかった。目覚めたら聞きたいことがあるからな。治療が終わるまで城に居るよう伝えろ。」
「だと思い、既に伝えております。」
「ならいい。」
はぁ、と一息ため息をつき、これからのめんどくさい父上からの説教に備えた。
______________________________
父上の執務室の戸を叩く。
「入れ。」
父上の低い声が中から聞こえた。
「失礼します。」
「早かったな。もう少しリリアナ嬢の傍にいると思っていたが。」
確かに、彼女の両親が来なければもっと長く、いやずっと傍にいただろう。
「彼女の両親が来ましたので、親子水入らずの再会の方が良いかと思いまして。」
「お前でも気を使えるのだな。」
一言余計だと思いながら、受け流す。
「それで、お前。あの魔力暴走を起こしたな。」
「すみません。」
低い父上の声はより一層低くなる。
「リリアナ嬢を捉えていた奴らもお前の魔力暴走で全員見事にあの世行きだ。あやつらが単独でやったとは考えにくい。見事に後ろにいたやつを逃したわけだ。」
「すみません。」
ついカッとなり、誰一人として生かしはしなかった。後ろに誰がいたかも分からなくなり、最悪だ。
「まあ、周りに民間人が誰もいなかったことが救いだが、青白い光の柱はここまで見えた。言いたいことはわかるな?」
「はい。」
「後始末は自分でやれ。それと、魔力制御がどんな状態でもできるようになるまで、今後魔法を使うことを禁止する。どんな屈辱があろうとも自身の魔力ぐらいはコントロールできるようにしろ。あいつに指導を頼んだからな。しごかれてこい。私が許すまで、リリアナ嬢に会うことも禁止だ。今の自分を見直せ。」
「分かりました。」
私の罰はかなり重かった。
リリに会えないのが1番キツいが、あの人の指導もかなりきつい。今から逃げ出したい気持ちである。
父上は私から視線を外し、リラックスした態度に変えた。
「但し、今日くらいは許そう。お前もリリアナ嬢の傍にいたいだろう。」
「ありがとうございます。」
「もう下がってていい。魔力暴走で身体を酷使しただろうからお前もゆっくり休め。明日からはきついぞ。」
「はい。」
そう一言だけ返事をし、父上の部屋を後にした。
しばらくの別れのために、愛しい彼女の元へと足を向けた。
______________________________
後書き
無垢の証は一応、失った瞬間は擦り傷のような身体の怪我の部類に入りますので、怪我を負ってから数時間以内なら治療箇所の確認方法という形で確認できるという設定です。数時間なのは怪我が塞がってしまえば、怪我している箇所と判断されないので…(;'ω'∩)
つまり治療箇所と判断されなければ、無垢のままということです…
光魔法は怪我している箇所のみ分かると言ったようなCTスキャンみたいなものもあります。
男達が前回証言してるので、念の為…今後の治療の為にも調べなきゃってことで…決してアルの独占欲的なものでは……ないと…私は信じて……信じています…( ;´・ω・`)
先頭にいる男に声をかけた。第三魔法騎士団団長である。
「申し訳ございません。ですが…いえ、こちらの不手際です。」
騎士団長は口を濁した。
「もういい。帰ろう。リリの治療がしたい。」
リリは気を失っているだけだった。
だらんとしている左腕は男が掴んだせいで青くあざになり痛々しげに腫れている。骨が折れている可能性がありそうだ。命に関わる外傷がないだけ確認すると、怪我したところに触れぬよう優しく左腕に触れ、抱えているリリの腹に乗せる。
「殿下。御令嬢はこちらで。」
「いや、いい。私が運ぶ。リリには触れるな。」
騎士団長がスっと前に出て、リリを預かると声をかけてきたが、間髪入れずに断る。
嫉妬は見苦しいと言われそうだが、それでもいい。
今もこれからも、リリに触れる男は私だけだ。
「かしこまりました。こちらの御令嬢は?確認したところ」
「分からないが、リリと一緒にいた事は確かだ。」
視界の端の方にいたなと思い出す。
騎士団の1人が話の間に入ってきた。
「お話中のところ失礼致します。」
「なんだ。」
「こちらの御令嬢はトリードル伯爵家の御令嬢かと…」
そう言って、見せたのは彼女が持っていたであろうハンカチであった。ハンカチの隅には家紋が細やかに刺繍されている。
「そうか。では、その御令嬢も一緒に連れていこう。よろしいでしょうか?殿下。」
「構わない。色々聞きたいこともあるしな。そちらで頼めるか?」
「はい。」
「身元確認のためにトリードル伯爵も呼んでおけ。」
「かしこまりました。」
騎士団長はお辞儀をし、伯爵令嬢を抱えて、私達が乗る馬車とは別の馬車の方へと向かった。
馬車に乗り込むとリリを自身の膝へと下ろし抱え直した。
一緒に乗り込んだ近衛の1人には膝から下ろした方が私の負担が少ないのではと提案されたが、却下した。
馬車の振動が傷に響くかもしれないだろ。私の膝がクッションの役割を果たすから衝撃が小さい。などと適当に述べれば黙った。
光魔法を使い擦り傷程度の傷口を治していく。
瘡蓋になっていた膝の擦り傷は思ったよりも深かったようで、少し時間がかかった。
リリの辺りが柔らかな光で包まれる。
私の魔力を使ってもさすがにリリの左腕は直せない。痛みで辛いだろうが自然治癒力で頑張って貰うしかないのが苦しい。城に着いたら、すぐに治療ができるよう医師を待機させるように早馬を出した。
城に着くと、馬車から降り、客室へと連れてき、待機していた医師に治療を任せる。私の自室でも良いと言ったのだが、さすがに父上に怒られた。
「リリ!!!!!」
ゆっくりと客室のベットへと寝かせる。
そこに現れたのは、息を切らし顔色の悪いリリの父であるヴァランガ卿だった。
その後ろにリリの母である侯爵夫人もいる。
ヴァランガ卿はベットに駆け寄ると膝を地面に付き、リリの顔を覗くように見た。
そこに自分の娘が存在しているのを確かめるように、リリの頬を優しく撫でる。
「無事で良かった。」
あとから夫人も続き、リリの傍に駆け寄り、ヴァランガ卿とは反対側の頬を優しく撫でた。
ヴァランガ卿と夫人の目には涙が溜まっており、大切そうに眠っている我が子を眺めている。
家族の再開の場面にそっと席を外す。
部屋には私と2人の近衛、医師だけであったが、近衛と医師も私に続いて、部屋から離れた。
「殿下。」
私を呼び止めたのは医師であった。
「お見立て通り、ヴァランガ侯爵令嬢の左腕の骨が折れていました。光魔法で痛みは少々和らげておりますが、左腕を3ヶ月程固定し、様子を見ながら、治療をしていくのが最善かと存じます。それと、男達から穢された跡などは見つからず、言葉にするのは少し憚られますが、無垢の証も光魔法により確認済みです。ですのでただ監禁されていただけであるかと…」
「そうか。引き続きよろしく頼む。」
「はい。」
お辞儀をする医者に背を向け、歩き出す。
後ろに着いてきている近衛に先程の伯爵令嬢について問う。
「あの令嬢は?」
「はい。軽い傷を負っており、現在治療中です。先程、トリードル伯爵が到着し、自分の娘であると身元の確認も終わりました。早くても明日、遅くても数日後には目を覚まされるのではないかと医師が判断致しました。」
「わかった。目覚めたら聞きたいことがあるからな。治療が終わるまで城に居るよう伝えろ。」
「だと思い、既に伝えております。」
「ならいい。」
はぁ、と一息ため息をつき、これからのめんどくさい父上からの説教に備えた。
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父上の執務室の戸を叩く。
「入れ。」
父上の低い声が中から聞こえた。
「失礼します。」
「早かったな。もう少しリリアナ嬢の傍にいると思っていたが。」
確かに、彼女の両親が来なければもっと長く、いやずっと傍にいただろう。
「彼女の両親が来ましたので、親子水入らずの再会の方が良いかと思いまして。」
「お前でも気を使えるのだな。」
一言余計だと思いながら、受け流す。
「それで、お前。あの魔力暴走を起こしたな。」
「すみません。」
低い父上の声はより一層低くなる。
「リリアナ嬢を捉えていた奴らもお前の魔力暴走で全員見事にあの世行きだ。あやつらが単独でやったとは考えにくい。見事に後ろにいたやつを逃したわけだ。」
「すみません。」
ついカッとなり、誰一人として生かしはしなかった。後ろに誰がいたかも分からなくなり、最悪だ。
「まあ、周りに民間人が誰もいなかったことが救いだが、青白い光の柱はここまで見えた。言いたいことはわかるな?」
「はい。」
「後始末は自分でやれ。それと、魔力制御がどんな状態でもできるようになるまで、今後魔法を使うことを禁止する。どんな屈辱があろうとも自身の魔力ぐらいはコントロールできるようにしろ。あいつに指導を頼んだからな。しごかれてこい。私が許すまで、リリアナ嬢に会うことも禁止だ。今の自分を見直せ。」
「分かりました。」
私の罰はかなり重かった。
リリに会えないのが1番キツいが、あの人の指導もかなりきつい。今から逃げ出したい気持ちである。
父上は私から視線を外し、リラックスした態度に変えた。
「但し、今日くらいは許そう。お前もリリアナ嬢の傍にいたいだろう。」
「ありがとうございます。」
「もう下がってていい。魔力暴走で身体を酷使しただろうからお前もゆっくり休め。明日からはきついぞ。」
「はい。」
そう一言だけ返事をし、父上の部屋を後にした。
しばらくの別れのために、愛しい彼女の元へと足を向けた。
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後書き
無垢の証は一応、失った瞬間は擦り傷のような身体の怪我の部類に入りますので、怪我を負ってから数時間以内なら治療箇所の確認方法という形で確認できるという設定です。数時間なのは怪我が塞がってしまえば、怪我している箇所と判断されないので…(;'ω'∩)
つまり治療箇所と判断されなければ、無垢のままということです…
光魔法は怪我している箇所のみ分かると言ったようなCTスキャンみたいなものもあります。
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