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14.チャンス
次に起きた時から、これまでと同じように従順なペットのように生活しながらも、それとなく神崎を観察した。どういう時に気を抜いているのか、どういう時に隙を見せているのかと。
神崎が部屋にいない時は、監視カメラや盗聴器も探してみた。あとは手錠を外せるようなピンとか、鎖を引きちぎれるもの。
結果、ベッド下やデスク下、本棚などには怪しいものは無かった。やっぱり付けられているなら時計だと思うけど、時刻がわからなくなるのは困るので、壊すわけにはいかない。それと手錠を外せそうな道具も見つからなかった。神崎がそんな甘い状況にしてくれるわけないか。
首に付けられていたチョーカーを外したら、どんな反応をするかも確認してみた。もしかしたらこれにも、何かしらの意図があるかもしれないから。あの神崎が、たんなるアクセサリーを無意味に付けさせるとは思えない。
だから飯を作って持ってきてくれるまでの約30分、ベッド上で、胎内に入っているローターに震えながら待った。しばらくして部屋に入ってきた神崎は、ラグに落としたチョーカーに気付いて、拾い上げる。
「どうしたんですか、弘樹さん。これ、気に入らなくなりました?」
優しく声を掛けられたあと、頭に手を乗せてくるから、思わずビクリと身体が揺れてしまった。けれど手荒なことをされるわけでもなく、撫でられただけ。そのあと首にも触れてくる。
「ああ、赤くなっているところがありますね。掻いてしまってもいるようですし。紐が駄目なら、今度はチタンかプラチナにしましょうか。きっと弘樹さんに似合います」
「…………、……ん」
そうしてチョーカーはデスク上に置かれて、再び付けられることはなかった。本当に、たんなるアクセサリーだったのか。ペットに付ける首輪代わりのようなものだったのかもしれない。そうなるとチョーカーを外したことで、俺がこの状況を打開しようとしている情報を与えてしまった可能性がある。慎重にならなければ。
あれこれ観察しつつ隙を窺っているうちに、4日が経過した。
ここに連れてこられて、今日で11日目。持久戦になるのは覚悟していたけれど、日が経つにつれて自分の精神が少しずつヤバくなっていることに気付いて焦る。
自由を奪われて外界から遮断され続けることが、こんなにも苦しく感じるなんて、監禁生活を強いられるまでわからなかった。元々ギャンブルで稼いでいて働いてなかったし、なるべく楽に生きたいとも思っていた。だがそれは、あくまでも自分の意思で自由に行動出来て、きちんと外界と繋がり情報を得られる環境に限る。
床に顔を近づけなければ飯を食えず、排泄行為は屈辱まみれで、オモチャを入れられるという恥辱まで長時間与えられて。そうして1人の時にやれることは、漫画や小説を読むくらい。それも精神が病まないような、明るい物語でないと、つらくなってくる。
緩やかだけど、確実に、人間としての精神が失われている。このままでは、俺の世界はいずれ神崎だけになってしまう。何も考えず、ただ彼から与えられるものを受けるだけの存在になってしまう。
そして神崎自身は、俺をこのまま飼い続けることになっても、きっと構わないのだろう。俺を世話している彼は、いつも穏やかだから。ペットと暮らすように俺の世話をしながら、時々ギャンブルで大金を稼げば問題無い。
ぶるりと背筋が震えたので慌てて丸まり、自分の身体を抱き締めた。言いようもない恐怖が、ひたひたと背中から近づいてくるような感覚。
駄目だ、早く逃げなければ。どんな方法でも良い。とにかく、ここから出なければ。
翌日。いつものように風呂場に行くため、ベッドから手錠を外された。神崎はそれをすぐに自分の腕に掛けたあと、俺を促してくるので付いていく。階段を上がり、先にトイレに行かせてもらって、脱衣所に布団を置いたら浴室へ。
そうして彼の腕から手錠を外して、風呂の手すりに掛けなおそうとした、瞬間。
「――……ッ!」
気付けば、鎖を思いっきり引っ張っていた。神崎の手から抜けた手錠の片割れを掴み、一目散に浴室を出て、ドアを閉じたら脱衣所に置かれた布団を掴んだ。そして脱衣所のドアも閉めてから、階段に向かって走る。
一瞬たりとも振り向きはしなかった。ほんの僅かな躊躇が、命取りになる。
階段を駆け下りたら、いつもの部屋へ。そして窓を開けて、なりふり構わず――飛び降りる。ここは2階で、もしかしたら怪我をするかもしれない、なんて微塵も考えなどしなかった。ほんの1秒でも止まったら捕まってしまう。
好機を逃がすな。とにかく前へと進め。
布団をクッションにしての着地は、身体を打ち付けて痛くはあったものの、足の負傷はしなかった。足さえ動けば、ここから出られる。
布団で身体を隠しながらも、芝生を駆けていく。そのまま家を囲っているフェンスまで行き、助走を付けてジャンプ。フェンスの上を掴んだら、腕に思いっきり力を入れて身体を持ち上げて、フェンスを越えた。コンクリートの道路に着地。そしてひたすら裸足で駆けていく。
走れ、走れ。ただただ走り続けろ。
今は夕方5時過ぎで、人がぽつりと歩いていようが関係無い。小さな悲鳴を上げた女性に見向きもせず、横を通り過ぎていく。いっそ通報されて警察に捕まる方が、神崎から逃げられるかもしれない。
ちなみに彼女に匿ってもらうことは不可能だ。説明しようと足を止めている間に、神崎に追いつかれてしまう。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
一応ストレッチや筋トレはしてたけど、やはり家に引き篭もっていたからか体力が低下していて、5分ほど走っただけでも息切れがした。けれどここら辺が高級住宅街だからか物陰や木々が多いし、太陽がどんどんと沈んで暗くなってきている。どこか目立たない場所があれば、身を潜められるはずだ。
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