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エピローグ
しおりを挟む「……ん、……」
目を開けようとしたけれど、瞼が重くて無理だった。ただ、抱き締められて頭を撫でられていることに気付いて、嬉しくなる。
包まれている温もりに身を任せて、顔を胸板に押し付けてスリスリすると、ふふっと笑われた。
「起きたんですか? 弘樹さん」
「………ん、寝てる」
「起きていますね。おはようございます」
「おはよう」
挨拶は返したが、ちょっとダルさが残っているので、まだ起き上がりたくない。
昨夜初めて、神崎とエッチした。しかも後ろからだけでなく、前からもしようということになり、時間をかけて身体を繋げたのだ。たくさんキスしながらの行為は、溶けてしまうんじゃないかというくらいに気持ち良かった。
ただ無理しないで2回で終わらせたし、体調を崩さないようにと事後にはきちんと身体を綺麗にして、パジャマも着てから眠った。なので腰が痛いとか、熱っぽいということはない。
ぶっちゃけ昨夜想いが通じたばかりなので、まだ神崎から離れたくないだけだ。けれど、そろそろ起きないといけない時間か?
「神崎、今何時……?」
「朝の8時です。今日は予定入っていませんから、のんびりしましょう。たまには1日休むのも必要ですよ」
「わかった。それなら、のんびりする」
ゴミ捨てはまだ大丈夫だし、洗濯物も1日くらい溜めておいても問題無い。でも風呂掃除はさすがに、あとでやらないといけないな。
そんなことをつらつら考えながらも神崎にくっ付いていると、髪を梳かれて、額にキスされる。
「朝食を食べたら、一緒に出掛けましょうね。恋人同士になったのだから、デートしないと」
「……デート」
「はい。まずは結婚指輪を買いにいきましょう。弘樹さんからいただいた初めての給料は、指輪に使わせてください。足りないぶんは、俺が出しますから」
デート。デートなんて、今までしたことないな。周囲にバレないようにこっそり手を繋いだりするんだろうか。しかも結婚指輪を買いにいくなんて……俺達、結婚してるのと同等の関係になったのか。そうか、そうか。
なんだかソワソワしてきて、我慢出来ずに身体を起こしたら、まだ横になったままの神崎に笑われてしまった。ムッとして神崎の上に乗りかかり、グリグリ頭を押し付ける。するとさらに楽しげに笑われるから、俺もつられて笑ってしまう。
「もう、朝からそんな可愛いことされたら、襲いたくなるじゃないですか」
「それは困る。俺はデートしたい」
「わかっていますよ。そろそろ起きましょうか。朝食は軽めに、フレンチトースト作りますね」
「わかった。サラダは俺が用意する」
「お願いします。あとは弘樹さんが買ってくれたコーンポタージュを温めれば、すぐ終わりますね」
そんないつもどおりの会話をしながら、ベッドから下りた。
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