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しおりを挟む目が覚めると、自室の天井が視線の先にあった。身体中が重くて痛くてだるい。特に右腕がずきずきと脈打つように痛んでいる。
半身を起こして右腕の袖を捲ってみれば、黒い痣が急激に範囲を広げていた。
「…………」
今までも呪いの影響で体調が悪くなり伏せってしまうことはあった。でも今回は今までより深刻な感じがする。これからどうなるのだろうと恐怖が湧いてきて、脈動が加速する。不安になったところでどうにもならないのだが。
ちょうどそこで扉が開く音がした。誰かが来るのだと理解した。
「お嬢様……! お目覚めになったんですね!」
リジーが部屋に入ってすぐ、目覚めたエルヴィアナを見てびっくりし、洗面器とタオルの乗った盆を床に落とした。彼女は落としたものはそっちのけでこちらに駆け寄ってきた。
エルヴィアナは痣が広がった腕を隠すように、捲り上げた袖を下げた。
「倒れられたと聞いてわたし……心配で心配で……っ」
「……心配をかけてごめんね」
「死んじゃうと思いました」
「勝手に人のことを殺さないで」
平静を装って答えるけれど、近々本当にそうなるかもしれないと思うと不安になった。
「……わたし、どのくらい眠っていたの?」
「三日ですよ!」
「……そう」
意識を失ったまま三日起きなかったのは、これが初めてのこと。自分の体が着実に呪いに蝕まれているのだと思うと、やっぱり怖くなってしまう。
不安な気持ちを彼女に悟られないように、穏やかに微笑む。
「ルイス様に飾り紐、贈ったのね」
「……お気づきでしたか」
「ええ。彼の剣に結んであったから。凄く嬉しかった。あなたが自分の恋を諦めないでいてくれて」
リジーはエルヴィアナのために、ルイスのことをすっぱり諦めているのだと思っていた。しかし、エルヴィアナの知らないところでうまくやっていたようで幸いだ。あとは、エルヴィアナという足枷さえなくなれば、好きな人と一緒になれる。
「今までずっと世話してくれてありがとう。手のかかる主人でごめんなさいね」
「……本当ですよ。頑固で意地っ張りで、素直じゃなくて……」
泣きそうな顔を浮かべて、エルヴィアナの手を握る彼女。
「不器用で、誰よりも――優しい自慢の友人です」
彼女の家が没落する前から、二人は親友だった。体裁があるため主従関係として振る舞っているが、二人の絆は変わらない。
「幸せになってね」
もう自分は長くない。いつかリジーは、エルヴィアナの元を離れていくのだ。それでいいと思っている。今のリジーは、一度の恩と情に縛られているから。すると、リジーは大きな瞳に涙を浮かべて首を横に振った。
「最後みたいな言い方しないでくださいよ。いつもみたいに、強気に笑ってください。そんな弱気なお嬢様……らしくない」
「先のことなんてどうなるか分からないでしょう。リジーにはね、わたしの世話ばかり焼いて若い時間を無駄にしてほしくないの」
「何、言うのよ。お嬢様に……エルヴィアナちゃんに助けてもらったときから、わたしはあなたのためになんだってするって決めたの。きっと逆の立場だったとしても、エルヴィアナちゃんはわたしの傍を離れたりしないよ」
返す言葉が思いつかずに黙っていると、また扉がノックされた。
「どうぞ」
返事をして中へと促せば、クラウスが入ってきた。クラウスが来たのでリジーが気を遣って部屋を出て行く。彼はエルヴィアナが起きているのを見て、安堵したように身を竦めた。
「目が覚めたんだな。よかった」
もしかしたら三日の間、心配して度々見舞いに来てくれていたのかもしれない。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「謝らなくていい」
クラウスがそのままこちらに近づいて来るのを見て、はっとする。
(わたし……三日間もお風呂に入ってない……!?)
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