【完結】親友を選んだ貴方へ、さようなら。「愛していた」は過去形ですので。

曽根原ツタ

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 同化症に気づいたエミリーの表情が、さっと暗くなっていく。苦悶するマイクの姿が思い浮かび、自責の念に苛まれた。

「私がもっと早く気づいていたら、マイクさんを危険に晒さずに済みました。あんなに苦しまなくてよかったのに……」
「ですが、あなたが最初に魔力補給をしていなければ、命を落としていたかもしれません。それに、同化症は潜伏し、魔力を注がなければ発覚しないことも多い。確かに進行は早まりましたが、おかげで原因を突き止められました。あなたの処置は間違っていません。僕でもそうしました」

 淡々とした声だが、確かな優しさが滲んでいる。心を蝕んでいた罪悪感が、彼の言葉で癒されていく。

「まだ治療は終わっていませんよ。彼を助けましょう」
「……はい!」

 気を引き締めて返事をすると、アステラはほんの少しだけ口元を緩めた。

 同化症――それは、魔物の魔力が心臓や肺、脳といった臓器に侵入していき、肉体を魔物のように変質させていく魔病だ。
 マイクの場合は、胸に黒い痣ができているため、心臓が侵蝕しんしょくされている可能性が高い。

「すぐに検査をします。誰か、魔力波測定器を」
「はい!」

 看護師のひとりが、すぐに魔道具を取りに治療室を出ていった。

 本来、侵蝕の進行度を調べる専門的な検査には時間がかかる。だが今回は一刻争うため、簡易的な検査で即時に診断を下すことになった。

 アステラは、患者の代理人のダミアンに治療方針を説明する。

「マイクさんの同化は急速に進行しています。このままだと、完全な魔物へと変貌するか、身体がそれに耐えきれずに呼吸困難や血流障害、臓器不全などのショックを起こして命を落とす危険があります」

 その内容にダミアンは思わず顔を強ばらせるが、アステラは静かに言葉を続ける。

「ですが、マイクさんは運が良いですね」
「え……?」
「治療を担当するのは、この特異医療院で最も浄化魔術に優れた――ブラウン先生ですから。ここで最も優れているということは、この国でも一番ということです」

 まさか、エミリーがそこまで高く買われているとは思わず、目を見開く。
 ダミアンはすぐに頭を下げ、エミリーに懇願した。

「ブラウン先生、どうかお願いします。兄を、兄を助けてやってください」
「はい。全力を尽くします」

 エミリーの返答に、アステラが補足する。

「僕が魔物の魔力を身体の外に排出するので、ブラウン先生は、残留魔力を全て清めてください」
「分かりました」



 ◇◇◇



 浄化魔術は本来、瘴気が溜まった場所を清めたり、魔物を討伐するために使われるもので、人体に対しては高い技術が必要となる。誤れば、身体に大きな負担になってしまう。

「ブラウン先生、侵蝕部位の確認をお願いします」
「はい」

 エミリーは集中し、治療台に寝かせたマイクを見下ろした。

 看護師から渡された魔力波測定器に魔力を流し込む。この魔道具を使うと、体内の魔力が可視化され、その状態によって色が変化する。
 正常は青、異常なものは赤、境界は紫になる。

「――赤い」

 心臓の魔力が、真っ赤に染まっていた。
 だがまだ、完全に侵蝕されておらず、心臓の形は維持していた。これがさらに悪化すると、心臓は変形する。

 侵蝕が進めば進むほど治療は難しくなり、命の危険があるため、このまま様子を見ることはできない。

 エミリーは顔をしかめて、報告を続ける。

「心臓だけではなく、肺や横隔膜にも侵蝕が見られます」
「三箇所……ですか」
「侵蝕が進んでいる順に、ひとつずつ浄化していきま――」
「同時にやってください」
「同時に……!? む、無茶です」

 これまで、浄化魔術は何度も経験してきたが、同時浄化は一度もしたことがない。エミリーが不安に目を泳がせると、アステラは淡々と現状を告げた。

「マイクさんの呼吸が弱まり、心音も乱れています。僕が今、鎮静魔術で抑えていますが、時間は限られています」
(どうしよう。もし、失敗したら……)

 患者の命を預かる責任の重さに、怖くて不安になる。
 そんなエミリーの不安を見抜いたように、アステラは言う。

「大丈夫」
「……!」
「あなたならできる。僕がついています」

 紫の双眸に射抜かれるエミリー。
 彼ができると言ってくれて、なぜかさっきまでの不安が和らぎ、勇気が湧いてきた。

 エミリーは覚悟を決めて、頷く。

「分かりました。やります」

 エミリーはまず、マイクが痛みを感じないように麻酔魔術をかけた。

 アステラが魔物由来の魔力を分離して抽出するための呪文を唱えると、マイクの身体の下に、紫色に発光する魔法陣が出現する。展開された魔法陣の緻密さに、エミリーは息を呑んだ。

(なんて、綺麗なの……)

 同じ魔術でも、使用者によって個性が出る。アステラの魔法陣は、計算し尽くされていて、とても美しかった。

 そして、胸の黒い痣を通して、魔力が体外に排出されていく。看護師が、排出された赤い魔力を壺型の魔道具へと吸収していく。

 大雑把な魔力排出が終わったら、エミリーの番だ。ここまでの魔術より、難易度が数段階跳ね上がる。

 エミリーはゆっくりと深呼吸して、真剣な表情で告げた。

「今から、浄化を始めます」
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