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しおりを挟む一体、アステラはどんな気持ちでオリビアと踊っているのだろう。功績を奪われても許してしまうくらい、オリビアを愛しているというのだろうか。
エミリーはモヤモヤしながら、つい気になって、グラスを傾けながら彼らを目で追った。平民であるオリビアは、正式な淑女教育を受けていないにもかかわらず、この場にいるどんな女性よりもダンスが上手かった。スカートの裾が広がる度、周囲の男性たちから感嘆の息が漏れる。
一方のアステラはぎこちない様子で、お世辞にもうまいとは言えなかった。
(魔術の腕はすごいのに、ダンスは苦手なんだ。なんか、かわいい――って、はっ)
ふいに浮かんだ感情に驚き、自分を諌め、ぶんぶんと首を横に振る。すると、リノがエミリーに言った。
「気になる? グエン先生のこと」
「え……」
「ずっと見てたからから」
ズバリな指摘をされ、決まり悪くなぅて目を伏せる。すると、リノはエミリーの耳元で甘やかに囁いた。
「――妬けるな」
「!」
エミリーは耳を抑えながら、ばっと顔を上げる。
リノは近くでエミリーの顔を見つめていて、その距離に再度驚かされた。距離の近さに翻弄されていると、その様子を遠くからアステラが不機嫌そうに見ていたが、エミリーは気づかない。
すると、リノは背を丸めたまま、おもむろにこちらに手を伸ばした。彼の顔が近づいてきてびっくりし、思わずぎゅっと瞼を固く閉じる。
「ゴミ、ついてたよ」
リノの指に、髪についていた糸くずが摘まれていた。
(びっくりした。キスされるかと思った)
普通に考えて、こんな人前で彼はそんなことを絶対にしないが。
すると、ついさっきまでダンスを踊っていたはずのアステラが、オリビアをほったらかしにして、エミリーたちのもとに駆け寄ってきた。
そして、リノの腕を掴んでエミリーから引き剥がし、ふたりの間に割って入る。
「ブラウン先生は、踊りは得意ですか」
突然現れたかと思えば、そんな脈略のないことを、エミリーに言うアステラ。
「急になんですか? まぁ、人並みには。それより、オリビアを放ってきていいんですか?」
「もう他の男と踊っています」
彼に言われて視線を動かすと、オリビアはエーリクと楽しそうに踊っていた。ひとりになったオリビアを、他の男性が放っておくはずもなかった。
エミリーはアステラに目線を戻して尋ねる。
「それより、どうしてオリビアが表彰されてるんですか? 壇上にいるべきだったのは、グエン先生だったはずでは」
「功績なら彼女に譲りました」
「どうして、そんなこと……」
「名誉に興味ないので」
淡白な口調で、エミリーの問いにそっけなく答えるアステラ。だが、エミリーは反論する。
「その実績は、グエン先生が努力して得たものです。それを誰かに譲っちゃうなんて、絶対にだめです」
「…………」
アステラは、無表情にこちらをじっと見つめた。
今日の彼は、長めの髪をハーフアップにし、真新しい礼服に身を包んでいる。
医療魔術師の白ローブを着ていると、研究者感が強かったが、礼服姿はがらりと印象が変わり、まるで、どこかの貴族の男性のような風格があった。
彼は身を寄せ、エミリーの顔をずいと覗き込む。
「な、なんですか……?」
「僕のために怒ってくれているんですか」
「ち、違います! 私はただ、卑怯なことが嫌いなだけで」
ちらりとオリビアを見据え、眉を寄せる。
(どうしてこんな、ずるいことをするの? オリビア)
オリビアは確かに、プライドが高くて、男遊びばかりしているし、歯に衣着せぬ物言いのせいで、敵が多かった。でも、それ以上に向上心があって、努力家なのをエミリーは知っている。そんな彼女だからこそ、自慢の親友だった。
はずなのに……。
彼女への失望が、エミリーの胸に広がっていく。
「……とにかく、こういうのは間違ってると思います。偽の栄誉を得たって、オリビアのためになりません」
そのとき、横からティナミアが言った。
「おふたりは仲がよろしいんですね。お知り合いですか?」
「知り合いというか……」
そんなに仲が良さそうに見えたのだろうか。
彼女の純粋な表情を見て、どう説明していいか分からず、エミリーは沈黙する。すると、アステラが答えた。
「元婚約者です」
「ま、まぁ、そうでしたのね。わたくしったら、無神経なことを――けほっ、ゴホッゴホ」
そのとき、ティナミアが突然咳をし始めた。テーブルに片手をつき、片手で口元を抑えながら、苦しそうに咳き込む。
「ごほっ、げほっ、うっ……」
エミリーは咄嗟に彼女の背を支える。ティナミアの手が、テーブルのグラスに当たってワインが零れたのと、彼女が口から――淡い光を放つ魔力の結晶を吐き出したのは、ほぼ同時だった。
エミリーが目を大きく見開く。
(この症状は――)
それは、かつてエミリーが患ったのと同じ、石吐き症の典型的な症状だった。
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