【完結】親友を選んだ貴方へ、さようなら。「愛していた」は過去形ですので。

曽根原ツタ

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 数日後、エミリーはリノと植物園に行くことになった。

 ワンピースに着替え、姿見の前で確認しながら、リノと過ごしてきた時間を振り返る。

 彼とは幼いころからまるで兄妹のように育ち、常に傍にいた。もしかしたら今日、その関係が崩れて今までのように仲良くできなくなるかもしれない。しかし、そうなっても受け入れる覚悟はできている。

 着替えを済ませてから、エミリーは探し物を始めた。引き出しの中には、仕事の資料や雑貨が整理されて入っている。それをひとつひとつ取り出して床に置いていく。

「日記帳、日記帳……」

 エミリーが怪我をして目覚めたあと、日記帳が消えていた。日記帳をしまう場所は、引き出しの二段目と決めているはずだ。
 
(誰かが勝手に持ち出した?)

 エミリーが倒れていた間、この部屋に出入りしていたのは、家族と使用人に、オリビア、リノ、それから担当医のアステラくらいだ。

(誰かが私の日記帳を持ち去ったとしたら、何のために?)

 考えられるのは、エミリーが過去を思い出すと不都合がある人物の仕業。
 しかし、日記帳は、エミリーが目覚めた時点ですでになくなっていた。となると、その人物は、エミリーが記憶喪失になることを――あらかじめ知っていたことになる。

(誰かが意図的にグエン先生に関連する記憶を抜き取った? それは何のため? どうやって?)

 考えれば考えるほど、頭に疑問と混乱が渦巻いていく。
 思案に暮れていると、部屋の扉がノックされ、侍女が入ってきた。彼女は散らかった部屋を見て目を見開く。

「お嬢様、この部屋は……」
「探し物をしてて」

 彼女には、今日の外出のためのヘアアレンジをしてもらう予定だ。

「ねぇ。私の日記帳、知らない?」
「!」

 消えた日記帳の行方について、本当にアリアをあてにしていただけではなかった。何気なく尋ねたつもりだったが、アリアの目は明らかに泳ぎ、動揺しているのが分かった。

「その反応……何か知ってるの?」
「い、いえ、私は……何も」

 彼女は昔から、嘘や隠し事が苦手で、両親へのサプライズをうっかりバラしてしまうような人だった。

 エミリーは立ち上がり、つかつかと侍女に歩み寄った。エミリーに迫られた彼女は、ぐっと喉の奥を鳴らす。

「知ってるなら教えて。オリビアもグエン先生もずっと何か嘘をついていて、私だけ蚊帳の外みたい。自分のことなのに、何も知らないなんて嫌なの」

 エミリーが腕を掴み、切々と訴えると、侍女は瞳の奥を揺らした。彼女はきゅっと唇を引き結び、少しの間思案にしてから言った。

「かしこまり……ました。少々お待ちください」

 彼女はそう言って、部屋を出ていた。数分ほどで戻ってくると、一冊のノートをこちらに差し出した。黒い表紙のそれは、まさに探していたエミリーの日記帳だった。

「どうしてそれを持ってるの?」
「実は……グエン先生に、こちらを燃やすよう申し付けられておりました」
「燃やす?」
「はい。日記帳だけではなく、グエン先生との関係を連想する持ち物は、全て処分するようにと。それが、お嬢様を治療していただくための条件でした」
「じゃあどうして、婚約指輪は取り上げなかったの?」
「それだけは、抵抗があったんです。お嬢様がその指輪をとても大切になさっていたのを見ておりましたので。この日記帳も、私には燃やせませんでした」

 瀕死の状態すら蘇生してしまうような最高位の医療魔術は、城がいくつも買えるほど高額だ。
 だが、アステラは治療費を一切受け取らない代わりに、その条件をブラウン家に提示した。すでに、条件に該当する持ち物のほとんどが、侍女の手で処分された。

「最初は私も、グエン先生がオリビア様に心変わりされたのかと思っておりました。ですが、お嬢様から記憶が抜け落ちたことや、先生がお嬢様の看病をなさるお姿を見て、何か、事情があるのではないかと今は思っています」

 エミリーは、差し出された日記帳を受け取る。

「日記を勝手に読むような真似はしておりません。……ここに書かれている内容は、お嬢様の記憶です。それを知る権利があるはずだと思います」

 ゆっくりと視線を落とし、日記帳を見つめる。それから、日記のページをめくった。 

(これは……)

 そこに書かれていた『真実』に、エミリーは息を呑んだ。
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