【完結】他の令嬢をひいきする婚約者と円満に別れる方法はありますか?

曽根原ツタ

文字の大きさ
12 / 58

12

しおりを挟む
 
 セルジュからデリウスに決闘の申し込みがあった翌日。マノンの元に、いや――最強の決闘代理人ノアの元に新しい依頼が届いた。

 手紙での依頼だった。封蝋に刻まれたイルゲーゼ侯爵家の家紋を見て、事情をすぐに察する。

「これはとんでもないことになるような……」

 封を切って中身を確認し、天井を仰ぐマノン。仕事の依頼をして来たのはデリウスだった。しかも、セルジュとの決闘の代理。まさか、自分の結婚相手を決める決闘の代理を頼まれることになるとは夢にも思わなかった。

 マノンは基本、選り好みせず公平に依頼を引き受け、全ての決闘で全力で戦うことを信条としている。でも今回ばかりはどうしたものかと悩んでしまった。仮に引き受けて、デリウスとの婚約を破棄するためにわざと負けることもできる。でもそれでは、これまで代理人として掲げて来た矜恃に反する。

「リージェ神は正しき者を救う……か」

 マノンは手紙を持ちながら、ソファの背もたれに上半身を預けた。怖気付いたデリウスのことはさて置き、マノンの元に依頼が来たのも何かの縁だろう。

 マノンは侍女に便箋を用意させ、デリウスに依頼を受ける旨を記した返事を書いた。



 ◇◇◇



 その日の午後。馬鹿げた決闘を申し込んだ当人、セルジュがポリエラ伯爵邸を訪れた。大公の訪問とあって、使用人たちは今までに見せたことがないほどの働きを発揮し、塵ひとつないように徹底して窓や床を磨き抜き、歓迎の準備をした。

 応接間にて。
 いつもデリウスが座っているソファに、今日はセルジュが座っている。貧乏伯爵家の年季が入り糸がほつれたソファには、あまりにも不釣り合いな高貴さを漂わせている。

(どうしてセルジュ様は……決闘なんて挑んだの?)

 決闘は遊びではない。己の名誉と潔白を賭けて命懸けで行うもの。たった一度会った女のために簡単に行うようなものではない。いぶかしげに彼のことを見つめていると、彼はマノンの気持ちを見透かしたようにくすと笑った。

「どうして決闘なんて? という顔をしてるね」
「!」

 マノンは図星を突かれてぎくっと顔をしかめた。

「――マノンのことが欲しくなったから。ただそれだけだよ」
「欲しっ……!?」

 ますます混乱して目を見開く。その直後、応接間の扉がばんっと開く。扉の外で父が会話を盗み聞きしていたらしい。セルジュはマノンのことを「欲しい」と言ったことを聞かれていたと知っても全く動揺せず。さっと立ち上がって、父と自然に挨拶を交わした。父はマノンの隣に腰を下ろし、何度も額の汗をハンカチで拭いながら言った。

「た、大公閣下はなぜ、娘のことを気に入ったのですか……?」

 マノンも気になり、賛同するように隣でこくこくと頷いた。するとセルジュは、一も二もなく答えた。

「ひと目惚れです」
「「ひと目惚れ」」

 父とマノンは顔を見合せて目を見開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】嫌われ者の王子様へ。契約結婚には相応の見返りを要求します。

曽根原ツタ
恋愛
ウェンディは夜会で婚約破棄をつきつけられた。しかし、落ち込む暇もなく次は、嫌われ者の第3王子から、彼を侮辱したと言いがかりをつけられ捕えられる。 契約期間を無事に終えたらなんでもひとつ願いを聞いてもらう代わりに、ウェンディは体裁を守るための「仮の妻」になった。 そして、婚約破棄と求婚の真相、ウェンディを利用しようとする王室の思惑、イーサンの本音が徐々に明らかになっていく。 嫌われ者の旦那様へ。 契約結婚には相応の見返りを要求します。 ウェンディが白い結婚の最後に要求するものとは……?

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。 5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。 アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。 だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。 ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。 精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ! と、アンソニーはジョアンナを捨てた。 その結果は、すぐに思い知る事になる。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。 (番外編1話追加) 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。

処理中です...