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118.遠駆けの後

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「アポロンお疲れさま。乗せてくれてありがとう」 

 到着した目的地、その水場となる川で、私はメイナードさまに教わりながらアポロンにお水を飲ませ、お塩を舐めさせて首を撫でた。 

「ローズマリー。すっかりアポロンに懐かれたね。流石は俺の婚約・・・わああっ。フォルトゥナ!何するんだ!」 

 そして、同じようにフォルトゥナさんにお水を飲ませ、お塩を舐めさせているパトリックさまは、相変わらずのフォルトゥナさんと仲良しさんで、お互い川に入り込む勢いでじゃれている。 

 それはもう、ほっこりとする風景。 

 パトリックさまとフォルトゥナさんは本当に凄くて、一度全速で駆け去り、再び戻って来てからも並行して歩くことはなく、いつも少し前を楽しそうに駆けていた。 

 パトリックさまは何かと私を気遣って声を掛けてくれるけれど、私は、正に人馬一体、といった感じのパトリックさまとフォルトゥナさんを見ているのが楽しい。 

 ただ歩くのではなく弾んでいるようにも見えて、まるでダンスしているよう、と見惚れてしまい、思わずメイナードさまに言ってしまったほど。 

 まだまだ未熟な私も、いつかアポロンにあれほど信頼されたら嬉しいと思わずにいられなかった。 

「さ、ローズマリー様。アポロンはこの辺りに繋いでおけば、好きに草を食べられますから、ローズマリーさまもご休憩ください。慣れない乗馬でお疲れでしょう」 

「メイナードさまこそ、わたくしを乗せるのにお疲れでしょう。でも、アポロンはこのままで大丈夫なのですか?」 

「はい。この辺りの草は馬の好物なのです。綱を長くしておけば存分に食べられるでしょう。水もあることですし、アポロンは脱走を試みるような愚かなことはしません」 

 メイナードさまの言葉に、アポロンは当たり前だと言うように、少し不機嫌に嘶いた。 

 美味しそうにお水を飲み、お塩を舐めたアポロン。 

 離れがたくも思うけれど、アポロンにだって休息が必要なのだろう、と私はアポロンの首をもう一度撫でた。 

 そうすると、頭を擦り寄せてくれるのが嬉しい。 

「アポロン、また帰りもよろしくね。それから、出来たらその後も」 

 メイナードさまの言う通り、アポロンが私の馬になってくれたら嬉しいと思う。 

 そしていつか、パトリックさまとフォルトゥナさんのようになれたら、もっと嬉しい。 

「ローズマリー様、お手をどうぞ」 

 見れば、少し向こうは小高くなっていて、そこでマーガレットたちがお昼の支度をしてくれているのが見える。 

「ありがとうございます、メイナードさま」 

 有り難くエスコートを受けて、私はゆっくりと歩き出した。 

 辺りは一面の緑で、あちらこちらでお花が咲いているのも見える。 

「素敵な所ですね」 

「遠駆けに来て、ピクニックをするには最適の場所です。私も気に入りの場所なのですが、ローズマリー様がそう仰ってくださるのは嬉しいものですね」 

 そんな話をしていると、私の姿が見えたのか、テオとクリアが一心に走って来た。 

『ローズマリー!お花がいっぱいだよ!』 

『ローズマリー!もうすぐごはんだって!』 

「テオ!クリア!」 

 私が、変わらずに可愛い二匹を抱き上げ頬刷りすると、テオもクリアもくすぐったそうに身を竦める。 

「可愛いですね」 

 そんな様子を微笑ましく見ていてくださるメイナードさま。 

「テオとクリア、というのです。こちらの黒い瞳がテオ、そしてこちらの茶色の瞳がクリアですわ」 

 私は、テオとクリアの瞳が良く見えるように順番にメイナードさまに向けながら紹介した。 

「良く似ていますね。首輪の色で覚えようかな。蒼色の首輪がテオくん、翠色の首輪がクリアくん、だね。初めまして、そしてよろしく。私は、メイナードと言います」 

 するとメイナードさまは、テオとクリアにも丁寧に挨拶を返してくれる。 

 テオとクリアの本当の姿を知らないのに、本当に素敵な紳士だと思う。 

「くうん!」 

「くうん!」 

 テオとクリアもそう思ったのか、嬉しそうにメイナードさまにじゃれついた。 

「テオ!クリア!」 

 ご迷惑だから、と止めようとした私をメイナードさまが止め、結局、私とメイナードさま、テオとクリアで競争するように目的の場所まで走る。 

「うわあ、メイナード様ってば命知らず」 

 ピクニックの準備をしてくれている場所まで行くと、ひとりの騎士様がそう言ってメイナードさまを見た。 

「失礼だぞ、ビル。部下が失礼いたしました。ローズマリー様、こいつは今日の護衛のひとりでビルです」 

 ひと睨みしてその騎士様を叱ったメイナードさまが、私にも紹介してくださる。 

「初めまして、ビルさま。わたくし、ローズマリーと申します」 

 騎士さまなのだから、と丁寧に挨拶をしたら、何故かビルさまが動揺して大きく手を振られた。 

「や、やめてください、ローズマリー様。メイナード様はともかく、俺達下っ端のことは呼び捨てでお願いします」 

 言われ、裁量を仰ぐようにメイナードさまを見れば、そうしてください、と小さく頷かれた。 

「ローズマリー様、こちらへどうぞ」 

 そこへマーガレットが来て、私を敷物の方へと連れて行ってくれる。 

「まあ、すごい!素敵ね!」 

 その大きくてきれいな敷物の上には、たくさんの飲み物と食べ物が並んでいて、私は弾んだ声を出してしまった。 

「ローズマリー様、こちらでお手をお拭きください」 

 そう言って濡れた布を差し出してくれたのは、領都のお城でもお世話になっているポピー。 

「ありがとう、ポピー」 

 お礼を言った私は、もうひとり、見覚えのない騎士さまがいるのに気が付いた。 

 傍に控えるように立っていてくださるし、ビルと同じ騎士服ということは護衛の方なのだと思うけれど、初めてお会いする方なのでご挨拶を、と私が口を開く前にメイナードさまが気づき声をかけてくださる。 

「ローズマリー様、今日のもうひとりの護衛、バーナビーです。バーナビー、こちら、パトリック様のご婚約者のローズマリー様だ」 

「初めまして、バーナビー。わたくしはローズマリー。よろしくね」 

「はっ。バーナビーと申します」 

 直立不動で敬礼したバーナビーはビルとは違いかなり固い様子で、騎士さまも色々個性があるのだわ、と私はひとり納得した。 

「ローズマリー!」 

 そこへ、パトリックさまが何故か焦った様子で駆け付けて来られ、私たちはそこでお昼をいただくことになった。 

 

 
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