溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~〈本編完結済〉

夏笆(なつは)

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続きの物語 ~今へと続く道~

1、収穫祭の魔女

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「わあ・・見て。きれいな黄金色の飴!糸釣りをして、当たったら、あれがもらえるってこと!?」 

 収穫祭初日。 

 エルミニオ達と共に露店へと赴いたレオカディアは、そう言って瞳を輝かせた。 

「ディア・・・」 

「飴って・・レオカディア。正気か?」 

「まったく。あの妄想女の飴で、危険な目に遭ってからさほど時間も経っていないというのに」 

 糸釣りの露店の前で『これ、絶対にやるわ!』と、意欲に満ちた目をするレオカディアに、エルミニオ、ヘラルド、セレスティノは、声を抑えながらも、それぞれ呆れたような声をこぼす。 

 セレスティノ言うところの妄想女。 

 ピア・ドゥラン元男爵令嬢が、精神を犯す禁止薬剤を飴に混入していた事件は、つい先ごろのことなのに、もう忘れてしまったのかと問われ、レオカディアはふるふると首を横に振った。 

「もちろん、覚えているわよ?みんなを危険な目に遭わせたんだもの。あれは、許せないわよ」 

「いや。一番の被害者は、レオカディアだと思うが?殺されそうになっただろう?」 

 『忘れるわけがない』と、言い切ったレオカディアに『そっちじゃない』とセレスティノが更に声を落として言えば、エルミニオもヘラルドも大きく頷く。 

「ああ、それもまあ、忘れてはいないけど。見て。あのきれいな黄金色。まるで、エルミニオ様の瞳みたいじゃない」 

「っ」 

 『だから、欲しい』と、無邪気に言うレオカディアに、エルミニオは虚を突かれたように息を呑んだ後、嬉しそうに口元を緩め、セレスティノとヘラルドは『『あー』』と遠い目をして、大きく息を吐いた。 

「ね?エルミニオ様。あの糸釣り、やりたい。だめ?」 

「も、もちろんいいに決まっている」 

『ディア。今日は、なんでも、いくつでも、欲しい物を言ってほしい。遠慮なく』 

 この祭りに来るにあたって、張り切った様子でそう言っていたエルミニオは、レオカディアがやりたいと言う糸釣り屋台の主人に、料金を支払う。 

「あー。また、そんなものを」 

「殿下。本当に贈りたいものは、そういったものではないのでは?」 

 ヘラルドとセレスティノが『それでいいのか』と若干呆れた様子で言うも、エルミニオは、これまで同様、レオカディアが喜ぶのが一番だと言い切った。 

「はあ。まあ、エルミニオ様が納得しているのなら、問題ありませんが」 

「でもなあ。ここまでで、レオカディアが欲しがったものって、塩に、乾燥させた香草に、野菜、果物、あと何かよくわからない液体だろ?色気も何も、あったもんじゃねえ」 

「確かに。祭りで恋人にねだる物では、ないな」 

 エルミニオが『漸く、自分の働きで得た金子きんすでディアに何かを贈るという実感がもてる』と言って、この収穫祭を楽しみにしていたことを知っているふたりは、憐憫を含む眼差しをエルミニオに向ける。 

「なんだ、その目は」 

「いやあ、苦労するなって」 

「まあ。この後も、宝石を扱う露店は未だあるので、挽回は可能かと」 

「・・・・・・」 

 宝石を扱う露店は、ここに来るまでにもあり、エルミニオは何とかレオカディアの気を引こうとしたのだが『鉱石の流通も、活発になってきたわね』と満足そうに言われ、何故か貿易の話に終始したまま歩き続けるという事態に陥ったことを思い出すも、楽しそうに糸を選ぶレオカディアを見て、自身もまた、満足の笑みを浮かべる。 

「いいんだ。こういうディアを、俺は好きになったんだから」 

 エルミニオは、生まれたときから王族として、その身にかかる費用を必要経費として受け取っていた。 

 そのなかには、婚約者であるレオカディアに対する交際費も含まれていたのだが、レオカディアを表層的な婚約者ではなく、真実心の通った伴侶として早くから認識していたエルミニオは、自身の労働の対価として得た金子で、レオカディアに贈り物をするのを目標としていた。 

 そして、いくつも公務をこなすようになり、それが遂に叶う日が来たわけなのだが。 

 当のレオカディアは、エルミニオが想定していたような珍しい宝石や装飾品よりも、普段手に入らないような調味料や食材の方に気を引かれるようであった。 

「まあ。これでこそ、ディアだろう」 

「だけど、宝石とは値段が違えから、予算、余りまくりだけどな」 

「ですが確かに。レオカディアらしい」 

 『エルミニオ様の瞳の色の飴はどれかな』と、真剣な表情で引く糸を選んでいるレオカディアを優しい瞳で見つめ、三人は小さく微笑んだ。 

「・・・うん。これにします!・・・きれいな黄金色よ、わが手に!」 

「お、殿下の色を食う気か?」 

 『ディア』と呼ぶ、その蕩けるようなやわらかな瞳を閉じた目に思い浮かべながら糸を引き上げようとするレオカディアに、ヘラルドが茶化すような声をかける。 

「違うわ!ずっと持っていて、好きな時に眺めて拝むのよ!」 

 それはそれでどうかというような言葉を叫び、レオカディアは一本の糸を叫びとは裏腹、慎重に持ち上げた。 

「ああ・・はずれちゃった」 

「おお!大当たりじゃないか!」 

 糸を釣り上げた瞬間、七色に光るそれを見て落胆したレオカディアに、露店の主人が大当たりだと叫んで立ちあがった。 

「わらわは、かれこれ千年以上、この祭りを楽しんでいるが、こんなことは初めてじゃ。過去への旅。特等を引き当てるとはの」 

「は?はあ」 

 興奮気味に立ち上がった、黒いローブの主人に、レオカディアは気の抜けた声を出す。 

「主人。過去への旅とは?」 

「文字通り、過去への旅じゃ。その方らは面白いからの。特別に皆、一緒に送ってやる」 

 『欲しかったのは、エルミニオ様の瞳色の飴』と、落胆するレオカディアに代わってエルミニオが問えば、主人は誇らしげにそう言った。 

「過去への旅?どういうことだ?」 

「そのままの意味じゃ。ああ、少し過去をいじっておいたから、より楽しめると思うぞ」 

 主人がそういったときには景色が揺らぎだし、エルミニオは咄嗟にレオカディアを抱き寄せ、セレスティノは鋭い声を出す。 

「勝手に送るな!戻れる保障は!?」 

「戻れるさ。その方ら次第でな。では、楽しむがいい」 

 ひらりと手を振った主人が光のなかに消え、気づけば四人は祭りと思しき喧噪のなかに居た。 

~・~・~・~・
投票、ありがとうございます。
ちょっとだけ、あれから先の物語です。
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