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続きの物語 ~今へと続く道~
12、日常の幸せ
しおりを挟む「ディア。いつも家を整えてくれて、ありがとう。特に美味しい料理は、僕の最大の癒しだよ」
ある日、そう言ってエルミニオは、小さな花束をレオカディアへと差し出した。
今、エルミニオやレオカディア達が住む家では、不定期に掃除のための使用人を雇っている以外、すべてのことは皆がそれぞれ協力して行っているが、何と言っても王太子であるエルミニオはじめ、貴族令息であるヘラルド、セレスティノも家事などとは無縁の人生。
それでいえば、公爵令嬢であるレオカディアもそうであるはずなのだが、前世の影響か、彼女は家事をすることにまったく躊躇わないどころか、むしろ自分の手で家を整えられる喜びを見出していた。
「エルミニオ様・・・ありがとうございます。すっごく嬉しい・・・きれい」
「ディアが喜んでくれて、僕も嬉しい。実はね、騎士団で話を聞いていて思いついたんだ。あそこは、日払いで賃金が出るだろう?それで、恋人に渡す贈り物について相談されて、僕もって思ったんだ。ディアへの感謝を、こう、伝えたくて」
「まあ。いつも『ありがとう』や『おいしい』とおっしゃってくださるではないですか」
驚いたように言うレオカディアに、エルミニオは首を横に振る。
「それは、当たり前だろう。でも、それだけじゃ何か足りないって感じていたんだ。言葉だけではなく、ぼくの思いを渡したかった」
「可愛くてきれいで、素敵な色の思いですね」
「ああ。そんな風に言ってもらえて、僕は本当に幸せだ」
にこにこと笑って言うエルミニオに、ぽよぽよとレオカディアも答えるが、それを陰で見守っているセレスティノとヘラルドは、その口元に苦笑を浮かべる。
「まあ、確かに。平民は、日々の稼ぎで花や小物の小さな贈り物を、日常的に恋人に贈る習慣があるけど、あのセリフじゃあ、恋人っていうより、妻へ、だな」
「それに、あの下級騎士団や見習い騎士たちのなかで、そんな律儀な奴は極少数だな。大体の奴は、博打に消費している」
ヘラルドが言えば、セレスティノも言い、ふたりはエルミニオの幸せそうな笑みを見た。
「だけど、まあ。王城はじめ、あっちの時代じゃあ、どこに行っても王太子だからって、人の目を気にする必要があったけど。こっちの時代なら、その辺の街の花屋で小さな花束を『婚約者に』って買っても、噂になることもないから、そういう喜びは存分に感じてほしいかな。俺としては」
「俺も同感だ。あちらの、元の俺達の時代で小さな花束を『婚約者に』なんて買ったら『あんな小さな花束を?』なんて、言われるだろうからな」
「ああ。それで『愛情は冷めたのでは?』なんてことになって『王太子殿下には、新しい恋人が!?愛妾としてお迎えの準備か!?』なんて記事が躍るんだ」
「言えてる。あんなに平穏で、仲良く過ごしていて、ふたりが仲睦まじいことなんて明らかなのに。そんなに噂が好きなのかと呆れるばかりだ」
遠い目でしみじみと言い合い、ふたりは幸せそうな主君へ複雑な思いを持った。
「だよな。そうならないための防御っていうか、完璧さは必要なんだよな。もっとこう、人間らしくいさせてやりたいけど」
「立場が、な」
こればかりは如何ともしがたいと、ヘラルドとセレスティノは頷き合った。
「ところで。レオカディアが言っていた『ちょっと見解が残念なオットー様』のことなんだけど。『ちょっと残念』どころか、あのひと、すっげえ優秀じゃねえ?剣の腕、半端ねえのにうまい具合に負けてみせて、そこそこ、の実力者って立ち位置掴んでんだけど」
「優秀過ぎると、身元をきちんと調査して上級騎士に、なんてこともあり得るからだろう。そうなれば、使い捨てありきの、あの仕事から外されるだろうからな」
セレスティノの言う『あの仕事』とは、そもそもエルミニオ達が調査、阻止しようとしている、ロサリオ公爵令嬢・・エルミニオの後の母になるアデルミラをかどわかし、傷物にしようというアルモンテ侯爵家の陰謀で、オットーによって既にその実行日時はあぶりだされている。
「レオカディアも言っていたが、あの魔女の影響があったのではないか?カフェ・マッターホルンで聞いた話をレオカディアが伝えたところ、オットー殿が即座に動き、素早く同行を掴んできたのだから」
『流石』と言いつつ、セレスティノの頬が緩んだ。
「なんだよ。お前も嬉しそうだな、セレスティノ」
「ああ。あの切れ者で有名な、アギルレ公爵閣下と同じような立ち位置で行動できる日が来るなんて、思ってもみなかったからな」
「まあ。あの方も現場に居た、しかも、こんな単独潜入なんてこともしていたんだなあと、感慨深くはある」
領地経営に於いても、国王の補佐としても有能なエルビディオ・アギルレは、しかしセレスティノやヘラルドが知る限り指揮官としての役割が強く、実際に彼が動く現場にいられる現実、その喜びを存分に噛みしめている。
「もうすぐ、計画の実行日だな」
「ああ。過去の歴史の修復ももちろんだが、エルミニオ様達をきちんと護り抜かないとな」
嬉しそうに花瓶を取り出し、貰った花を活けているレオカディアと、そんなレオカディアを蕩けそうな目で見つめているエルミニオ。
今、ふたりが醸し出しているあたたかな空間を、やがて本物の、未来の日常とするため必ず護り抜くと、セレスティノとヘラルドは改めて己の剣と智慧に誓った。
~・~・~・~・
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