6 / 46
六、すべては、うにといくらのために
しおりを挟む「え・・海栗といくら・・じゃなかった鮭の生息地が、ミラモンテス公爵領?そこに交易の話を持ち込んだら、セレスティノと無関係でいられなくなるってことじゃない。そんな・・・私にどうしろっていうのよ」
この世の絶望を見た、とレオカディアは報告書をはらりと落とす。
ミラモンテス公爵子息セレスティノは、現在レオカディア、エルミニオと同じ五歳。
先日、盛大に誕生日を祝ってもらったレオカディアより、少し前の生まれだったと記憶している。
そして余談だが、エルミニオはそのセレスティノより更に前。
こちらは、当然のように国のあげての祝いが行われた。
しかして、問題なのはそこではない。
問題は、セレスティノもゲームの攻略対象だということ。
「これ以上、ゲームの攻略対象と関わり合いになりたくないんだけど」
海栗が、海栗が他の領にも生息していれば、と僅かな望みを持ったレオカディアであったが、そう上手い話は無かった。
「仕方がない。セレスティノとは会わないようにしながら、海栗を融通してもらえるようにするしかないわね」
父親同士の遣り取りにすれば、子供同士が会うことも無いだろう、とレオカディアは、海栗を入手すべく父、アギルレ公爵の元へと向かった。
「・・・・・お父様。ミラモンテス家って、公爵の位を賜っていますよね?」
「ああ、そうだよレオカディア。建国当初からの由緒あるお家柄だ。我が家と同じだな」
にこにことレオカディアの問いに答えるアギルレ公爵とは逆に、レオカディアは、ミラモンテス領の現状を伝えるその書類を見つめて、頽れそうになってしまう。
ミラモンテス公爵家は経済状態が苦しい、ってゲームで確かにあったけど。
本当に公爵家?ってレベルじゃないの。
「ああ。心配しなくていいよ、レオカディア。確かに、ミラモンテス公爵領は公道の整備もなされていないようだけど、うちが出資して直ぐにも整えるから」
領と領を繋ぐ公道さえ整備されていない、というミラモンテス領の現状に白くなっていたレオカディアは、父公爵の当然というような笑顔に唖然となった。
「お父様。そんな、簡単に」
海栗が食べたいがために、父であるアギルレ公爵にミラモンテス領との交易を頼んだのは確かに自分だが、とあまりに早い話の展開に、レオカディアは不安さえ覚えて父公爵を見つめる。
「同じ公爵家だからね。昔から付き合いもあるし、何とか援助できないかと思ってきたんだが、向こうにも矜持がある。だから、今回の交易の件はいい口実になったんだ。ありがとう、レオカディア」
「お父様・・・」
ミラモンテス公爵家は、元は豊かな家だったというが、数代に渡って当主に恵まれず、事業に失敗したり、投資に失敗したり、挙句、領地をまともに経営しないで贅沢三昧を繰り返したりした結果、今のように国内でも最下位を争うほどの貧しさになってしまったのだという。
そっか。
もともと、ミラモンテス公爵家とはお付き合いがあったのね。
でも、うちのパーティなんかでも会わないのは、きっと家計の事情のせいってとこね。
それにしても、お父様優しい。
きっと、ずっと気にかけていたのね。
「大丈夫だよ、レオカディア。ミラモンテス領に海栗といくらを融通してもらえば、鮨の種類も増えて、益々儲けが出る予想だからね」
そのための先行投資だよ、と笑う父公爵に領主としての逞しさを見、レオカディアは思わず笑ってしまった。
「うわああ。港も立派になったのね。これなら、うちの領へも船で行けるわ」
西南にあるアギルレ領と北に位置するミラモンテス領は、決して近いとは言えないものの、山越えの無い海路を使うことで、その移動時間を大幅に短縮することが出来る。
更に、専用の船にいけすを積み込むことで、鮭や海栗を生きたままアギルレ領へ運び、帰りはアギルレ領の魚介を載せることで、ミラモンテス領でも鮨レストランを開業する運びとなった。
それを記念して、今日はアギルレ公爵一家でミラモンテス公爵家へと招かれており、早速と、見事に変貌を遂げたという港を見に来たレオカディアは、満足のため息を零す。
「これで、アギルレ領でも雲丹のお鮨が食べられるわね。ああ、王都でもお鮨が食べられたらいいのに」
今のところ、鮨が食べられるのは、アギルレ領とミラモンテス領のみ。
そして、鮨についても法的に守られることになったが、如何せん生ものため王城で披露することは出来ず、国王も王妃も、実際に食したことのあるエルミニオの話を聞いては羨ましがっていると、エルミニオが誇らしそうに教えてくれた。
『ディア!また一緒に、お鮨を食べに行こう!』
「・・・・・この港に、これほど大きな船が停泊できるようになるとはな」
無邪気に笑うエルミニオを思い出していたレオカディアは、地を這うような怨嗟の声に震え上がって、そちらを見る。
「な、なに?」
「知っているか?船というのは、岸壁の深さで停泊できる大きさが決まる。以前までの貧相な港では、こんな立派な船は入ることも出来なかったということだ」
え。
もしかして、セレスティノ?
その見事な銀色の髪と、レオカディアを蔑むように見つめて来る青い瞳を見返して、レオカディアはゲームの知識を呼び覚ます。
「へえ。岸壁の深さで。そうなのね」
「へえ、って貴様」
馬鹿にしているのか、と鋭く睨まれるも、レオカディアは頓着しない。
「だって、そこまでは知らなかったもの」
「っ・・・港だけじゃない。公道まで整備して。貴様、施しのつもりか?」
「違うわ。私は、雲丹やいくらが食べたいだけよ」
未だ幼いながらも、その矜持の高さを示す言葉と瞳、その表情を真っすぐに見つめ返し、レオカディアは咄嗟にそう言い返していた。
~・~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。
890
あなたにおすすめの小説
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?
四季
恋愛
理不尽に婚約破棄された"私"は、泣きながら家へ帰ろうとしていたところ、通りすがりの謎のおじさんに刃物で刺され、死亡した。
そうして訪れた死後の世界で対面したのは女神。
女神から思いもよらぬことを告げられた"私"は、そこから、終わりの見えないの旅に出ることとなる。
長い旅の先に待つものは……??
公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜
平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。
レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。
冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる