溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)

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七、王家参入

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「ねえ、ディア。ミラモンテス公爵子息と、手紙を遣り取りしているって本当?」 

 その日、共に並んで学習した後のお茶会で、どこか黒い笑みを浮かべるエルミニオにそう問われ、レオカディアは首を傾げつつも頷いた。 

「エルミニオ様?・・・はい、本当です。セレスティノ様は、ミラモンテス公爵領にお住まいなので」 

「じゃあ、僕ともしよう。手紙の遣り取り」 

「え?ですが、エルミニオ様とは、こうしてお会いできますし」 

 港での一件で、初対面から喧嘩腰の対話をしたレオカディアとセレスティノだったが、その後、実際に鮨を食べ、海産物の遣り取りをするようになってから、セレスティノは、急速に領が潤ったと、レオカディアに謝罪と感謝の手紙を送ってきた。 

  

 へえ。 

 手紙で謝罪なんて、真面目じゃない。 

 ゲームでは、女の子を花に、自分を蝶に例えて遊びまわる、不真面目で軽い性格だったのに・・・って、未だ五歳だった。 

 となれば、ちゃんとお返事しないとよね。 

  

『謝罪は受け取ります。私も、強く言いすぎました・・・ところで、そちらには牡蠣も生息していると報告を受けました。是非、食べたく思いますので、お送りください』 

 そして、雲丹といくらの次は牡蠣とばかり、強請る手紙を返し、それに対して牡蠣の食べ方を問われ、答え、とするうちに、セレスティノとレオカディアは、いつのまにか文通友達となっていた、というのが真相である。 

「会えても、手紙はまた別だろう?それとも、ディア。僕と手紙の遣り取りをするのは、いや?」 

「いやじゃありません!でも、会ってお話もするのに、何を書けばいいか」 

 それは本当に迷う、とレオカディアはエルミニオを見た。 

「なんでもいいよ。アギルレ公爵邸の花が咲いた、とかで」 

「それこそ、こうしてお茶をいただいているときに、お話ししていますよ」 

 苦笑してレオカディアが言えば、エルミニオがその身を大きく乗り出す。 

「じゃあ、僕と別れてアギルレ公爵邸に帰る途中に見た景色とか、夕食に何を食べた、とかでもいい・・・ああ、景色の話は、それこそお茶の時によくするから・・食事!夕食に何を食べたか、僕に手紙で報告すること!ね?約束だよ?僕も書くから」 

「分かりました」 

 流石に、夕食に何を食べたかまで話をすることは珍しいと、レオカディアはその提案を呑んだ。 

 

 それにしても、夕食の事を手紙になんて。 

 よっぽど手紙に憧れていたのね。 

 

「それなら、明日、楽しみにしている!あ、ちゃんと僕も書くから、ディアも忘れないで」 

「あ、明日からですか?」 

「そうだよ。それで、毎日」 

 それは、内容も相まってまるで日記のようだと思いつつ、必死なエルミニオに絆されて、レオカディアも笑顔で頷いた。 

「・・・これでよし・・・あとは・・・ね、ディア。ディアは、王都でもお鮨が食べたいって言っていたよね?」 

「はい。ですが、冷蔵が難しくて」 

 やはりそれが問題で、鮨はアギルレ公爵領とミラモンテス公爵領でしか提供できていない、とレオカディアは顔を曇らせる。 

「氷室を使うのは、どう?」 

「氷室を、ですか?それも考えてはいるのですが、なかなか難しくて」 

 氷を保存する氷室は、確かに外より涼しいが、氷を保存するのが目的の場所なので、魚介を保存するには広さなど色々な問題があり、着手出来ていない。 

「既に、保冷庫として使っている天然の場所がある、と言ったらどうする?」 

「え?天然の保冷庫ということですか?」 

 悪戯っぽく言うエルミニオにレオカディアが聞き返せば、エルミニオは嬉しそうに笑った。 

「うん、そう。レオカディアは、ロヒムって聞いたことある?」 

「はい。王都からも近い、王家の直轄地ですよね?」 

「そう。で、アギルレ公爵領と、ミラモンテス公爵領からは、それぞれ同じくらいの距離にある」 

 言いつつ、エルミニオは用意させていたのだろう地図を運ばせると、そこを指さし説明する。 

「あ」 

「ね?ここに保冷庫を確保できれば、王都でもお鮨が食べられるよ」 

「凄いです、エルミニオ様!」 

 地図上で描かれた三角。 

 王家直轄地とアギルレ公爵領、そしてミラモンテス公爵領を繋ぐそれは、レオカディアの新たな希望となった。 

「本当に素晴らしいです!・・・ですが、こちらの地を使うことを、国王陛下と王妃陛下がお許しくださるかどうか」 

 既に天然の保冷庫として使われているのなら、それこそ保冷庫内での場所の確保が難しいだろう、そこが問題だと、交渉役を担ってくれている父公爵の顔をレオカディアが思い浮かべていると、エルミニオが、その手をぎゅっと握る。 

「もう、許可はもらってある。だから、鮨事業に王家も参入させてくれ。ディア。共に、国や領を発展させよう」 

「はい!エルミニオ様」 

  

 

 凄い! 

 こんな風にエルミニオ様が動いてくれるなんて! 

 エルミニオ様。 

 お礼に、今度は牡蠣を食べさせて差し上げます! 

  

 それに、鮨というのは誰の好感度を上げる食べ物でもないと、レオカディアはその点でも安心していた。 


~・~・~・~・~・~・~・~・
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