王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)

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十七、誤解 エヴァリスト視点

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『ま・・待て。一旦、整理しよう』 

 一頻り話をした後、エヴァリストを丁寧に置くと、ピエレットはどこかへと去って行った。 

 エヴァリストは高鳴る鼓動を抑え、今のうちに、と現状の把握に努める。 

『ピエレットが、俺を簡単に持ち上げていた。そして、ピエレットには、これが俺だという認識がない。ぴぃちゃん、と呼んでいたということは、俺は今あのぬいぐるみなのか?そんな馬鹿な』 

 エヴァリストは、ぶつぶつと呟きながら、ぴぃちゃんなるぬいぐるみを思い出す。 

 それは、自分がピエレットに贈った孔雀のぬいぐるみ。 

 ピエレットはそれはそれは喜んで、とても可愛い笑顔を見せてくれた。 

『あの時のレッティも、格別に可愛かった』 

 むしろいつも格別に可愛い、ともはや言葉の意味を崩壊させながらエヴァリストは思い出に浸る。 

『笑顔ももちろんなのだが、レッティは真面目な時も可愛いのだよな。共に読書に勤しむ時も、俺はレッティばかり見ていたくて・・ああ。読書に夢中のレッティも可愛い』 

 知らないことを知れるのが嬉しい、と微笑むピエレットを思い出し、暫し愉悦に浸っていたエヴァリストは、再び物音がするのにはっと意識を取り戻した。 

『いけない。可愛いレッティを思い出し愛でるのに夢中になってしまった。ここは、俺の自室ではないというのに』 

 見れば、時折侍女が歩いているのが見える。 

『レッティが居た、ということは、ここはレッティの部屋なのか?言われてみれば、あの侍女にも見覚えがあるような・・・。いやしかし、俺が知っている部屋とは違うな。壁紙や装飾も、確かに清楚ではあったが、華やかさや可愛らしさも、もっとあったように思う』 

 確かに、男の自分と比べ可愛い感じは受けるが、あの部屋より落ち着いている、とエヴァリストは見渡そう・・として叶わず、目玉を限界まで動かして周りを観察した。 

『体が動かないというのは、不便だな。しかし、視覚や聴覚が無事だったのはよかった。あ、あと感触も分かっ・・・・っ!レッティ、柔らかかったな。体が動けば、しっかりと抱き締め返したものを』 

 ピエレットから抱き締められた感触を思い出し、改めて残念だとため息を吐くエヴァリストの元に、軽やかな気配と共にピエレットが戻って来る。 

「ぴぃちゃん。私ね、いいことを聞いたの。東の方の国ではね、大切なひとの無事を祈って、自分の好きな物を絶つのですって。私も、やってみようと思うわ」 

『レッティ・・・俺のために。ん?俺の無事を祈る?俺は、ここに居るのに?そしてやはりレッティは、今の俺をぴぃちゃんと呼ぶのか。つまり、そういうことなのか?』 

 俄かには信じられないが、とエヴァリストは自分の手を見ようとして、叶わないその事実に深いため息を吐いた。 

『何とか、レッティに、俺はここに居ると知らせなければ』 

「私の一番好き、はエヴァ様だけれど、エヴァ様は物でなくて者だし。うーん。その他で」 

 頬に片手を当て、考え込むピエレットをエヴァリストは存分に堪能する。 

『なんだ、レッティ可愛いな。物ではなく者、か。少し得意げなのが、本当に可愛い。ああ。頭を撫でたい』 

「やっぱり甘い物、かな。私、甘いお菓子を絶つことにするわ。エヴァ様が無事にお目覚めになるまで」 

 そう言うとピエレットは、その場に跪いた。 

「お願いします。エヴァ様の意識を、無事にお戻しください」 

『レッティ・・・』 

「ねえ、ぴぃちゃん。エヴァ様の傍には、ルシール王女殿下が居るのかな」 

『ん?レッティ。どうした?』 

 その声がとても寂しそうで、エヴァリストはその突然の変化に首を捻る。 

「そうよね。だってルシール王女殿下は、エヴァ様を思っていらっしゃるのですもの。それにエヴァ様だってルシール王女殿下を・・・。私より、ルシール王女殿下がお傍にいらした方が嬉しいのでしょうね・・分かっているけど、辛いわ」 

『なっ。何を言い出す!?レッティ!?』 

 混乱して叫ぶも、それは音にならない。 

 暴れようにも、体が動かない。 

「もしかして。私が邪魔をしてしまったから。分かっていたのに、おふたりの邪魔をしてしまったから、罰が当たったのかしら。もっと早くに、婚約を解消しましょう、ってエヴァ様を解放してさしあげれば良かったの?でもそうだとしたら、どうして私でなくエヴァ様がこんな大変な目に遭うのかな。エヴァ様が辛いのは私のせいだから、ちゃんと反省しなさい、ってことかな・・・ぴぃちゃん。私、どうしよう」 

『馬鹿な!そんなことある筈ないだろう!レッティ!俺が愛しているのはレッティだけだ!』 

「ぴぃちゃん・・・」 

「レッティ!俺を見ろ!」 

「え?」 

「ん?」 

 思わず叫んだエヴァリストに反応したピエレットの、そのきょとんとした顔がエヴァリストの視界いっぱいに広がる。 

『可愛い・・・・・』 

「・・・ぴぃちゃん?今、何かお話ししてくれた?」 

 そのままピエレットに見惚れていたエヴァリストは、恐る恐るという感じで話しかけて来るピエレットに堂々と返事をした。 

「ああ。ということはレッティ。俺の声が聞こえるか?」 

「どうしましょう。私、ぴぃちゃんがエヴァ様のお声でお話ししているように聞こえるわ」 

「事実だから安心しろ。俺は、エヴァリスト。お前の婚約者だ」 

 言い切って、エヴァリストは凛々しく胸を張ろう・・として動けない事実に撃沈した。 

 

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