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十六、状況と状態 エヴァリスト視点
しおりを挟む「貴様は」
「お久しぶりでございます、エヴァリスト様」
今、ここにいるはずのない人物。
ブノワト・アダンの姿を認めて、エヴァリストは眉を顰めた。
何かと自分にまとわり付き、騎士団ではピエレットに暴言まで吐いた忌まわしい女。
それが、エヴァリストから彼女への評価。
「エヴァリスト様。わたくしと結婚してくださいませ」
この女を捕らえるためにもさっさと護衛と合流しようと、その存在を無視して歩き出したエヴァリストの前に、ブノワトが立ちはだかる。
「寝言は寝てから言え」
「エヴァリスト様。許可の無いわたくしが、どうやってここへ。王族が所有する動物の園へ来たか知りたくありませんか?」
そう言って意味深な笑みを浮かべるブノワトに、エヴァリストも挑発的な笑みを返す。
「ほう。不法侵入を自ら告白する、か。許可も無しに俺の名を呼び続ける貴様らしい暴挙だな」
表面ではそう言いつつ、エヴァリストは素早く視線を動かして、ブノワトの侵入経路を探った。
確かに、どうやって侵入した?
王城の奥に位置するここまで潜り込むなど容易ではないうえ、この園自体の警備も厳しい。
しかもこの女、いきなり俺の隣にいたよな。
どういうことだ・・・・・?
気配には敏感だという自負のあるエヴァリストが、そもそもの侵入もさることながら、その点も不可解だと益々眉を寄せるのを、ブノワトは楽しそうに見つめる。
「ふふ。瞬間移動して来たのです」
「瞬間移動?・・・まさか。隣国の怪しい術か」
「流石です、エヴァリスト様!わたくしと結婚してくださったら、一緒に使えますよ」
にこにこと言うブノワトの言葉を戯言と聞き流し、護衛を呼ぶため声を張ろうとしたエヴァリストの首筋に、冷たい何かが押し当てられた。
「エヴァリスト様は、わたくしのもの」
「っ!」
剣でも矢でもない。
ただのペンダントのように見えるそれを押し当てられ、エヴァリストは目の前が真っ暗になり、体全体から力が抜けるのを感じる。
何だ、これは。
力が入らない・・・立っていられない。
それに、意識・・が・・何かに引っ張られて・・・。
ああ・・レッティ・・せめて君に・・・ひとめ・・・レッティ・・・・!
「エヴァリスト様。ああ、嬉しい。これで・・・っ。もう護衛が?仕方ないわね」
恍惚とした表情でエヴァリストに口づけしようとしていたブノワトは、護衛の足音を聞いて、無粋なと苛々し、不機嫌になるも何とか気持ちを切り替える。
「でも、まあ。仕込みは上々。ふふ。エヴァリスト様。また、会いに来ますからね」
そう呟くと、ブノワトはペンダントを操って、その場から消えるように姿を消した。
『頭が痛い・・・なんだ?意識が混濁しているのか?あれから何日経った?俺は、生きているのか?』
動かない体、開かない瞳に絶望しそうになりながらも、エヴァリストは懸命に瞳を開こうと努力する。
『まずは瞳が開けば、この状況も理解できるはず』
見えるのは地獄の光景かもしれないが、と苦い気持ちがこみ上げるのを何とか堪え、エヴァリストは自分の瞼に傾注する。
『ん・・・?なんだ?扉の開く音?・・・耳は生きているということか!』
音が聞こえなかったのは、誰もいなかったからなのか、と思いつつ、エヴァリストは耳をすました。
『人の動く気配・・ここは、何処かの部屋なのか?』
もしや自分はあの女に捕らえられてしまったのか、と絶望するも、それにしては気配が自分を気にする様子は無いのが気にかかる。
『意識の無い俺の世話係ということか?』
予測を立てながらも、エヴァリストは懸命に瞼を持ち上げようと意識を集中した。
『見えれば・・とにかく見えれば・・・・・!』
思っていると、暫くして、また扉の開閉音が聞こえ、人の気配が遠ざかる。
『どういうことだ?何が起こっている?』
自分の体がどうなっているのか分からず、手や足の感覚を確かめようにも、まったく動かすことができない。
まさか四肢を切断でもされたか、とエヴァリストが自身に起きた最悪の状況を想定した時、またも扉の開く音がした。
そして感じる、軽やかな気配。
『この感じ。レッティに似ている』
ひと目で惹かれ、その為人を知るほどに想いが強くなっていった、愛しく大切な婚約者。
『レッティ・・・・』
その気配が、エヴァリストの前でぴたりと止まった。
『ん?・・何だ?』
「ぴぃちゃん、ただいま。お城から連絡をいただいたの。今日もエヴァ様はお目覚めにはならなかったのですって。でも、苦しい様子も魘されている様子もないので、そこは安心してください、ですって。はあ。ぴぃちゃん。私、エヴァ様の傍に行きたい」
『なっ・・・・レッティ!?』
きゅ、と優しく抱き寄せられる感覚に驚愕したエヴァリストは、思わず目を大きく見開き、そこにピエレットの姿を認めて大混乱に陥った。
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