腑抜けは要らない ~異国の美女と恋に落ち、腑抜けた皇子との縁を断ち切ることに成功した媛は、別の皇子と幸せを掴む~

夏笆(なつは)

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九、語らい

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「助けに入るのが遅くなって悪かった。遠目に、白朝しろあさ扇殿おうぎどのに絡まれているのが見えて、急いだのだが・・・いや、言い訳だな」 

 皇の宮へと共に歩きながら、そう言って苦笑する石工に、白朝はふるふると首を横に振った。 

「まさか、皇様すめらぎさまのお屋敷内で、皇子様が駆ける訳にもいかないもの。助けてくれて、嬉しかった。それと・・・」 

「何だ?何か問題でも発生したか?扇殿に、何か難題を課せられでもしたのか?」 

 言いかけてしまってから、言葉にするのを躊躇う白朝に、石工が案じるような目を向ける。 

「ううん、それは無い」 

「そうか。なら、何か気になる事でもあるのか?」 

「気になる、っていえば、気になること、なのかな」 

 気恥ずかしさが勝り、歯切れの悪い言い方をしながら、白朝はそっと石工を伺い見た。 

「何だ?」 

「あのね」 

「ああ」 

「・・・・・やっぱりいい」 

「何だ。気になるから、言え」 

 その石工の様子から、言い逃れは出来ないと、白朝はおずおずと言葉を口にする。 

「・・・・さっき・・・その・・・石工が、香菓かくのこのみ、って私のこと・・・あれが、凄く嬉しくて・・その・・ありがとう」 

 香菓かくのこのみ非時香菓ときじくのかくのこのみとは、伝説の国にあるという不老長寿の果実で、橘のような色と形状をしていると言われている大変に縁起のいいもの。 

 それに例えられるというのは、橘に例えられるのと似て非なるものがある。 

 

 まあ、私は橘も好きだから、どちらも嬉しいけれど。 

 伝説の、ってなると何というか、褒め具合が半端ないというか、嬉しさ倍増というか。 

 扇様が言った橘のように、貶す事も出来ない天上の存在だから、文句なしに最上級の誉め言葉ということで。 

 しかも、それを言ってくれたのが石工というところが最高で。 

 なんだけれど、それを言ってくれたのよね、ありがとう、なんて、私は何て恥ずかしい真似を。 

 うう。 

 穴があったら入りたい。 

 石工、早く反応して。 

 

「ああ。今日の白朝は、香菓の女神かくのこのみのめがみのようだと心底・・・っ」 

 何でもないことのように言いかけ、石工は言葉を詰まらせる。 

「ちょっと、なんで石工まで赤くなるのよ。冗談でも嬉しかった、って言おうと思っただけで恥ずかしくなってしまったのは、私の方よ」 

「いや、冗談などではない。だが、あの言葉を自分が言ったのだと思うと、その・・・似合わなさ過ぎて、だな」 

「に、似合わない、なんて、そんなことないよ。石工、見た目も格好いいから」 

 落ち着きなく視線を動かしながら言う白朝に、石工もぎくしゃくと頷きを返す。 

「そ、そうか?」 

「うん」 

「白朝にそう言われるのは、嬉しいものだな」 

「そうなの?」 

「ああ」 

 真っ直ぐに答えた石工に、白朝も赤くなりながら賛同した。 

「私も・・・石工に褒められるのが一番嬉しい」 

「そ、そうか」 

「うん」 

 ふたりして赤くなり、お互いに照れ合うふたりの後ろを、それぞれの従者が、それぞれの表情で付き従う。 

「はあ。石工皇子様の威厳が」 

「媛様、騙されているのでは」 

 ため息と共に呟いた石工の従者は風人かざと、仏頂面で呟いた白朝の従者は加奈かな。 

「相変わらず、不敬な」 

「だってそうでしょう。これまで、白朝媛様しろあさひめさまには愛想笑いのひとつもしなかったお方が、あの変わりよう」 

「愛想笑いもお出来にならなかったのだ。実直な証拠だろうが」 

「何を言っているの。自分だって今さっき、威厳が、なんて呟いていたではないの」 

 つけつけと言う加奈に、風人が、うっと詰まった。 

「それは」 

「それは、何よ?」 

「変わられたのは事実だが、白朝媛様への想いも真実だ」 

「今更きりっとして言っても、遅いと思うけど」 

 凛として言った風人に、加奈は容赦の無い言葉を浴びせる。 

「本当に可愛げのない女だな」 

「貴方に可愛いなんて思われなくていいわよ」 

「ああ言えばこう言う」 

「頭の回転が速いと言って」 

「自分で言うか?」 

「事実だもの」 

 言い切った加奈が、にんまりと風人を見た。 

「私の勝ち」 

「勝ち負けか?これ」 

 呆れたように言いつつも、風人の表情は親しい者へ向けるそれに満ちている。 

 風人かざと加奈かなは、地域は異なるものの、共に地方豪族の出身で、未だ幼い頃に都へと来て、それぞれ石工と白朝の従者となるべく教育を受けた。 

 そんな境遇の一致もあって、ふたりは互いに近しいものを感じているのだが、口に出るのは喧嘩のような言葉ばかりで、ふたり共それを楽しんでいる節がある、と石工と白朝は睨んでいる。 

 

 

 

 ああ、皇様の宮。 

 幾度来ても、緊張する。 

 

 その宮の前まで辿り着いた白朝は、思わず大きく息を吐いた。 

「どうした?」 

「うん。やっぱり緊張するなって思って」 

「父上と母上が居るだけだろう。まあ、警護は固いか」 

「石工にとっては、慣れた場所でしょうけれども」 

 恨みがましく石工を見あげ、白朝は何とか鼓動を落ち着かせようと努力する。 

「そういう時は、さっさと行動してしまうに限る。ほら、行くぞ」 

「え?え?ちょっと、未だ心の準備が」 

 言いつつも白朝は、歩き出した石工に置いて行かれまいと、その背に付いて歩き出した。 

 

~・~・~・~・~・ 

ありがとうございます。 

  

 
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