アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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三、王女と偽造された遺書 3

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「フレデリク様。絶対に、気を付けますから」 

「・・・・・」 

「フレデリク様。それが一番、確実だと思いませんか?」 

「・・・・・」 

「フレデリク様を頼らないとか、信用していないとかいう事は絶対にありません。それは、分かっているのでしょう?」 

「・・・・・」 

 幾度話しかけても反応は無く、私の声だけが虚しく響く。 

 今現在、部屋の空気はとてつもなく気まずい。 

 ソファに向かい合って座っているものの会話は完全に成り立っておらず、私がひとりで声を発している状態。 

 フレデリク様は、懸命に話しかけても返事をしてくれないどころか、こちらを見てくれることもない。 

  

 なんだか、哀しくなってきちゃったわ。 

 

 目覚めてからこちら、何があっても私のことを甘すぎるくらい甘く扱ってくれて来たフレデリク様が、今は完全に表情を消していて、その横顔はとても冷たく感じる。 

 

 これは、なかなかに辛い。 

 心が折れそう。 

 

 フレデリク様が私を無視する。 

 その初めての体験に、私の心がぐらぐら揺れた。 

 フレデリク様の不機嫌の理由。 

 それが、私の提案した今回の件の解決法だということは分かり切っているけれど、確実に証拠を掴める方法だと自信のある私も簡単には譲れない。 

 そもそも私は初めから、コーラが私に毒を盛る、その瞬間を捉えるのが一番だと思っていて、コーラには悟られずに行動させて、決定的瞬間を押さえればいいと考えていた。 

『そんな!ご自身を囮になさるなんて!』 

『その案は却下だ、エミリア』 

 けれど、私がそう言った瞬間アデラは絶叫し、フレデリク様は普段に似合わないニヒルな笑みを浮かべて即答した。 

 それでも、それが一番穏便に済ませられると思う私は、今もこうしてフレデリク様の説得を試みているのだけれど、如何ともし難い状況となっている。 

「フレデリク様。お願いします」 

「・・・・・」 

「フレデリク様。こちらを向いてください」 

「・・・・・」 

 どんなに呼んでも願っても、こちらを向いてさえくれなくて、私はどんどん不安になった。 

 

 ほんとの本気で怒っている? 

 それとも、呆れている? 

 それか、我儘を言い続ける私のことなんてもう面倒になっちゃった? 

 

 フレデリク様は、私の安全を一番に考えてくれているのだと分かってはいる。 

 けれど、そのなかにコーラの事情は含まれていない。 

 フレデリク様が言うように、今の段階でコーラを私から離してしまえば少なくとも今回の灘は逃れられるだろうし、そのまま調査を進めれば私を弑しようとしている相手も分かると思う。 

 というか、フレデリク様はその相手も既に予想が出来ているようなので、このまま任せてしまえば事件は解決、私にも危険が及ばず安全だと言うフレデリク様の主張はよく分かる。 

 それに、フレデリク様は私の我儘をきいてくれて、コーラにも密かに護衛を付けると約束してもくれた。 

『自分を害しようとした侍女を守りたいだなどと。エミィは優しいな』 

 そう言って、ふっと笑ったフレデリク様に、けれど私はそれでは不十分だと更なる我儘を言った。 

 確かに、事件解決までコーラの身を守ってもらえるのは嬉しい。 

 けれどそれだけでは、コーラが今回の件に手を染めることになった事情を知ることも、ましてや解消することもできはしない。 

 フレデリク様は、そこも合わせて調べると言ってくれてはいるけれど、コーラが失敗したと判断された段階で、既に手遅れになる可能性だってあるのだ。 

 コーラの身は守れても、私を裏切るほどの切羽詰まった事情が解消されなければ、本当の意味でコーラを救うことは出来ないと思う。 

 私は、それが嫌なのだ。 

 いい人ぶるわけではないけれど、事情があるのだろうと分かっていて切り捨てるのは、雇用側として、そして日常で関わりのある人間としてどうかと思ってしまう。 

 だからこうして頑張っているのだけれど、これほどまでに無視されると本当に哀しくなってしまう。 

「フレデリク様」 

「・・・・・」 

 いつだって優しいフレデリク様が冷たい。 

 

 もし、本当に嫌われたのだったら、どうしよう。 

 もう二度と、優しい笑みを向けてくれなかったら?  

 二度と、私の名を呼んでくれなかったら? 

 

 考えていたら胸が詰まって苦しくなって、気づけばぽろりと涙が零れていた。 

「エミィ!?エミリア!!」 

 瞬間、フレデリク様が焦った声で私を呼んだ、と思った時には私の前に跪き、私の両手をしっかりと握っている。 

 

 はっ、はやっ! 

 

 その余りの素早さに、私は涙も引っ込むほどに驚いた。 

 

 

 
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