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四、王女と耳飾り 1
しおりを挟む《エミィ、こちらの準備は整ったよ。そちらは何も問題無い?大丈夫ならば、元気な声を聞かせて欲しい》
耳飾りから聞こえる心配そうなフレデリク様の声に、相変わらずの過保護さを感じてくすぐったく、そして嬉しくて綻びそうになる口元を堪えて、私もゆったりと予定調和の言葉を紡ぐ。
「お疲れ様、コーラ。今夜のお茶は、何かしら?」
就寝前、本を読みながらお茶をいただくのが今の私の習慣で、日によって変わるそれを聞くのもまた毎日のことなので、怪しまれる心配は無い。
なので、通信機の最終調整のためにこの会話を選んだのだけれど。
「ほ、本日は、よ、よく眠れるというハーブティを・・・その・・ご、ご用意、いたしました」
今この時もフレデリク様が待機していてくれる安心感から、演技の必要も無いほどに安楽な気持ちで聞くことの出来た私と違い、コーラは酷く緊張した様子で、いつもより声も動きもぎこちなく硬い。
普段なら絶対に茶器の音など立てないのに、今は時折立ってしまうそれを抑えるのに必死な様子も窺える。
そのことから、やはり今日にも毒を盛るつもりなのだろうと私は確信を持った。
まあ、バルコニーから私を突き落としたりするより、成功率もずっと高いものね。
”私の遺書”だって、今日既に仕込んでいるのだし。
確実に殺すという意味でも、自殺にみせかけるという意味でも毒が確実だろうし、”私の遺書”を仕込んでからは早い方がいいのだろうし、と私が考えていると、耳元から怒りの声が届いた。
《よく眠れる、だと?二度と目覚めぬようするつもりのくせに、しゃあしゃあと》
本当に忌々しいのだろう。
フレデリク様が憎々しい言葉と共に舌打ちするのが聞こえて、私は思わずその表情を思い浮かべ、吹き出してしまいそうになって慌てて顔を引き締めた。
今私が身に着けているのは、一見普通の小さな耳飾り。
けれど実際には物凄い魔術具で、対となっている魔術具を用いてこちらの会話を届けることが出来、相手からの通話を聞くことも出来るという優れもの。
『エミィ。この魔術具を身に着けて、絶対に外さないで』
今回、実際に私へ毒を盛らせ、それによってコーラから裏切りの事情を聴きたいと言った私の我儘をきくにあたり、フレデリク様は密かに護衛を潜ませるだけでなく、この対となる魔術具を互いの身に着けることによって私を護ると言ってくれた。
『我儘をきいてくださってありがとうございます、フレデリク様』
『はあ。本当は、もっと可愛い我儘をききたいのだけれど』
がっくりと肩を落とすフレデリク様が余りに残念そうで、何をそんなにと私は思わず首を傾げてしまった。
『可愛い我儘、ですか?』
『そうだよ。全身僕色で織られたきらきら輝く布とレースをふんだんに使ったドレスを贈って欲しいとか、国宝級の大きさと美しさを誇る僕の瞳のような宝石が欲しいだとか』
『それが可愛い我儘、なのですか?』
『そうだよ。だから今度、そういう我儘を言ってね』
可愛い我儘とはなんぞや、と思い聞いた私にフレデリク様はそう言い、これはきっと冗談の類なのだと思った私は半分笑いながら言ったのだけれど、それに返ったフレデリク様の顔と声は、これ以上ないほどに真剣だった。
全身フレデリク様色の、きらきら光るドレス。
光るかどうかはともかく、フレデリク様色のドレスは、私、着た事があるのではないかしら。
ずっと幼い頃から相愛の婚約者で、結婚してからも仲がいいと言われている私とフレデリク様。
であれば、きっとフレデリク様からドレスや宝飾品を贈られたことがあるだろうし、それらを身に着けフレデリク様と並んで色々な夜会や茶会へ行ったりもしたのだろう。
そしてそのなかには、フレデリク様色のドレスや宝飾品もあったに違いない。
欠片も、覚えていないけれど。
思って、私は何となくクローゼットを見た。
目覚めてから、そこを意識したことは無く、自分で入ったことも無い。
けれどきっとそこには、これまでのフレデリク様と私の想い出も詰まっている。
今度、聞いてみましょう。
誰よりもふたりの想い出を知っている筈のフレデリク様。
今の私は共有することが出来ないけれど、聞いてみたい。
思って、私は今フレデリク様と繋がっている耳飾りに触れ、そっとコーラの動向を見守った。
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