アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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五、王女と黒幕 2

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 あら?  

 何だか、フレデリク様が不機嫌に。 

 もしかして私、やらかしてしまったのでは? 

 

 ”私ってば過保護に愛されていた疑惑”とか、”溺愛”などと勘繰り、胡乱な目で見てしまったからか、唐突に不機嫌になったフレデリク様に私は戸惑う。 

 

 どうしましょう。  

 嫌なわけではありません、なんて急に言っても伝わるわけないし。 

 

 私が何を思って胡乱な目になったかは分からないだろうけれど、そこから説明するのは己惚れているようで恥ずかしい、否、完全に己惚れ状態なのだけれど、とおろおろ考えているとフレデリク様が不機嫌そのままの声を発した。 

 

「エミィは生まれた時から本当に可愛くて天使で、エミィが生まれてみんな凄く幸せになったのに、愚かにも邪魔をする人間が居てね。二度目のご出産は難しい、と言われた王妃陛下の代わりとなる側妃を迎えるべきだとか、実しやかに忠臣面して愚かな事を言い出しやがった」 

 

 ちゅ、忠臣面して言い出しやがった!? 

 

 余りに言葉が乱れたフレデリク様に驚いて目を見開いてしまうけれど、その忌々し気な、それでいて悔しさも滲ませている苦虫を噛み潰したような表情を見て、私は指摘することも憚られてしまった。 

 自分の無力さを嘆き、心からの痛みを感じさせるフレデリク様にかける言葉など無く、私こそは無力な思いでフレデリク様の手に、そっと自分の手を添える。 

「エミィ」 

「王妃陛下は、さぞお辛かったでしょうね。けれど、フレデリク様達のように言ってくださる方々がいらして、心強くもあったのでは?」 

 出産という大仕事を終えてすぐそのような話になったのなら衝撃も大きかったのでは、と私はじっとフレデリク様の目を見た。 

「ああ、本当に。けれど王妃陛下は凛とした方でね。自分に子がこれ以上望めないなら、陛下が側妃を娶るのも当然だと仰ったんだ」 

  

 側妃を娶るのも当然。 

 でもそれって、生まれた子が男の子だったら、そんな辛い発言しなくても済んだってことなんじゃない? 

 そうよ。 

 

「・・・私が、男だったなら。王子となって、跡継ぎと認められて」 

「それは違うよ、エミリア」 

 思い至った事実に呆然と言葉を漏らせば、フレデリク様が強く私の両肩を掴んだ。 

「あいつらは、君が例え王子として生を享けていたとしても、王妃陛下に二度目のご出産がかなわないと言われた時に、同じことを言った。それにね、エミリア。国王陛下も王妃陛下も、エミリアの誕生を心から喜び、愛おしんでおられた。それを、絶対に忘れてはいけないよ」 

 王家という国の中枢にあって、いわば家族のことなのに、他人が当然と口を挟むのは仕方の無いことなのだろう。 

 記憶の無い私でもそう思うのだから、母である王妃や父である国王が思わない筈も無い。 

「国の、国民のために」 

「エミィ」 

 小さく呟けば、フレデリク様がぎゅっと抱き締めてくれた。 

 

 あたたかい。 

 私は、このぬくもりを知っている。 

 それこそ、ずっと小さな頃から。 

 

『エミィ』 

『・・・にたま』 

 

 あ。 

 

「そう。跡継ぎの王子が必要だから。エミリア王女とて、無事にご成人なさるとは限らないのだから。残念だけれど、そう思う貴族も少なくなくてね。伯父上はよく零していたよ。『セシーリアとエミリアがいれば、それで充分なのに』とね。ああ、セシーリア様とは王妃陛下のお名前で、王妃としてもとても有能な方だから・・・って、エミィ?どうかした?」 

「いえ、今一瞬」 

 一瞬、小さな誰かに抱き付いて、嬉しく見上げた記憶らしきものが過った私は、困惑のままにフレデリク様を見た。 

「何か、思い出しそうだった?」 

「はい。私はとても小さくて『エミィ』と呼ばれていて、その誰かのことを私は・・ああ」 

 温かな空間。 

 大好きなそのひとのこと、名前。 

 あと少しで思い出せそうだったのに、遠のくそれを掴み損ねて、私は大きく息を吐く。 

「エミィ。エミリア。無理はしないで」 

「すみません。お話の途中で」 

「それこそ、気にしなくていい。愉快な話でもないし」 

 そう言うフレデリク様の声や様子で、私は側妃問題がどうなったのかを理解した。 

「それで?側妃様にお子は?結局は娶られたのですよね?お子は、お生まれにならなかったのですか?」 

 王妃である母が子をふたりは持てないと言われ娶ったのだろう側妃。 

 けれど、その側妃様にお子が生まれていれば、私は今唯一の王の子、とは言われないのではないだろうか。 

「いいや。側妃は子を産んだ。それこそ、淀みの元、諸悪の根源をね」 




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