アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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五、王女と黒幕 3

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「淀みの元。諸悪の根源」 

 まるで悍ましいものの話をするかのようなフレデリク様に、私は何があったのかと想像してみるも、私如きの乏しい想像力では思いつきもしない。 

「それはもう、側妃を薦めた貴族達も真っ青になって後悔する極悪っぷり、品性の無さに加えての愚かさだったよ。とにかく、すべてに於いて醜悪でね。まあ、上手くそれを乗り切った伯父上の国王陛下としての発言力はより強くなったし、優秀さが際立った王妃陛下の地位も盤石となったのだけれど。その分のご苦労を思うと、本当に愚かな採択だったと言う他無いよ、あの側妃選定は」 

「側妃となられたのは、どちらのご令嬢だったのですか?」 

 母である王妃は、隣国の王女であったと聞いているけれど、と私が尋ねればフレデリク様が何故か遠い目になった。 

「公爵家のご令嬢だった。家格の高さからいっても、彼女以外に側妃に相応しい者はいないとまで言われてね。伯父上も父上も、それに反発など出来ないほどの家柄だったんだ。過去、幾人もの忠臣を輩出したと謳われるこの国最高位の貴族だぞ?その家の令嬢が、あんなに礼儀作法がなっていないなんて、誰も知らなかったのか、それほど上手く誤魔化していたのか、それとも知っていて皆黙って・・・は、無いな。苦労させられたのは、彼等も同じなのだから。まあ、ともかく。僕は、当時子どもだった自分が恨めしいよ。会うことさえままならない相手だった故に、自分でその本性の確認も出来なかったのだからね」 

「フレデリク様は、その時お幾つでしたか?」 

 そのせいでエミィを、と歯ぎしりするフレデリク様に、私は慌てて尋ねる。 

 このままでは、フレデリク様の歯が危険に晒されてしまう。 

「エミィが生まれた時、僕は四歳だったよ」 

「側妃様が来られた時は?」 

「五歳」 

  

 す、凄い! 

 フレデリク様、顔の表情と声が変わり過ぎです! 

 

 私が生まれた時の年齢をにこやかに答えてくれたフレデリク様は、側妃様が宮殿に入られた時の年齢を、それはもう嫌そうな顔と声で唾棄するように言い切った。 

 それだけ、嫌な思い出なのだと感じられるけれど、如何せん記憶の無い私は若干他人事に思えてしまう。 

 それでも、四歳、五歳の頃から私を大切に想い守って来てくれたのだと知れて、とても嬉しく、早く思い出したいとまた強く思った。 

「だがもう、既に、元、側妃だ。廃妃され追放となったのだからね。二度とエミィが会うことは無い・・のだが。残党が居るのは、確実だ」 

 途中まで悪い顔をして嬉しそうに言っていたフレデリク様が、苦しそうにそう締め括った。 

「残党。それが、今回の毒の件の犯人ですか?」 

「ああ。それと、エミィが魔力枯渇を起こした事件、あれも黒幕は元側妃達で、実行犯はその残党だよ」 

「魔力枯渇の時も。ですがその時、魔術師が最後に呪ったのは王都そのものだったのですよね?それともそれも、王家を苦しめるためだったのでしょうか?」 

 確かに、回りまわって王家が苦しむように、とも考えられるけれど、でも私としては、私を直接、しかも確実に殺す最大の好機に何故、と思ってしまう。 

 王都全体というとんでもない広範囲に施す魔力を私個人に限定すれば、それだけ抹殺の威力は上がったと思われるし、命がけの最後の魔術を使うのなら、一番の標的に用いるのでは、とも思う。 

 そう考えると、やはり、何故、なのだけれど。 

「いや。あの襲撃事件も、黒幕は元側妃達、そして実行犯は残党の奴等で間違いなかった。ただ、奴等でさえ読み切れなかった、というか知らなかったのは、魔術師があの犯行に加担した目的が、王都とそこに住む人々を苦しめることだったということだろう」 

「それは、目的が違った、ということですか?」 

「ああ。元側妃達の手先となっている残党は王家奪略を狙っているから、標的は当然のようにエミリアだった。だがあの魔術師は平民の出で、王都に生まれたものの親を早くに亡くし、周りから甚振られて育ったという経緯があった。その後魔力量を認められ、苦労して魔術師となった後も恨み辛みが消えることは無く、その言動が尋常ではないと魔術師仲間からも距離を置かれていたらしい」 

「そんな。じゃあ、最期まで苦しいまま」 

「ああいう形でしか、自分の気持ちを昇華出来なかったのだろう」 

 フレデリク様の言葉に、痛ましい思いを抱えたままこくりと頷いた私は、ふと疑問を抱く。 

 

 あら? 

 でも。 

 

「それほどの力をお持ちなら、それまでにも実行の機会はあった筈ですよね?」 

 王都とそこに住まう人々を呪いたい、苦しめたいと願うなら、あの事件よりもっと前に実行出来たのでは、と私が問えば、フレデリク様が口元を歪めた。 

「あの魔術師が最後に発動した呪術。あれは、人の血を供物とする必要があるのだそうだ。あの時は、幾人もが倒れ血を流したからな。そういったが必要だった故、加担したのだと推察される」 

「そんな」 

 襲撃現場では、襲撃する側もされる側も抜剣して闘い合う。 

 しかも、私が魔力枯渇を起こした時の襲撃者の数は残党のほとんど全員だったといい、最後の総力戦ともいえるその襲撃で、相当の血が流れることは実行前から想定済みだったのだろうとフレデリク様は言った。 

「それでも、王都民のひとりだったのですよね」 

 憎しみにかられた生涯を過ごしたという魔術師。 

 頼りになる親を早くに亡くし、周りから甚振られて育つ。 

 それが、どれほど過酷なのか私には想像もつかない。 

 けれど、考えるだけで、痛くて苦しい。 

「エミィ。その者の立場に立って、同じ痛みを感じようとするのも大事だ。だけれどね、どうしたらそういった存在をなくし、より平和で豊かな国に出来るのかを考えるのも、君の役目でもあると知っておいてほしい」 

 フレデリク様のいつにない固い声に、私ははっと顔をあげた。 

「私の、役目」 

「もちろん、僕も一緒に考える。そして、どんな時も共に居るけれどね」 

 そう真顔で言った後、くすりと笑って片目を瞑ったフレデリク様は、とってもお茶目で、それでいてとても精悍な、頼りになる為政者に見えた。 

 

 

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