アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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五、王女と黒幕 5

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「エミィは覚えていないだろうけど、イェルドの髪も瞳も、濃いねずみ色。それは、生まれた時から変わらない」 

「濃いねずみ色、ですか。それは、貴族には珍しいお色ですね。それに、そうですね。そのお色では、国王陛下のお子ではない決定的な証拠にもなります」 

 この国の王族と、それに連なる者は皆、金色を持って生まれて来る。 

 その色味に多少の変化はあれど、共通する色は金。 

 それを持たずに生まれた子を、この国で国王の子と認めることは無い。 

 そしてそれと同じように、貴族の各家にも特徴のある色、もしくは貴族らしい色というものが存在する。 

 濃いねずみ色というのは、これまで見た数多くの王家の肖像画はもちろん、各貴族家の肖像画、その先祖に至るまで誰もいなかった、と私は思い返す。 

 さらっと見ただけの物もあるとはいえ、否だからこそ、濃いねずみ色というのは貴族にとって珍しいと言い切れる。 

 あれほどの数の肖像画を見たのだ。 

 銀や紫、紅に緑と色彩に富んだ色が目立つなか、ちらりとでも濃いねずみ色があれば、それはもう目立ったに違いない。 

 ここだけの話、眠気の勝りそうだった私の目にでも。 

 それほど、濃いねずみ色は貴族にとって有り得ないほどに珍しい色なのだ。 

「国王陛下の甥御様であるフレデリク様も、とてもきれいな赤味を帯びた金色の髪と瞳をされていますものね。でも、私個人としては、もしやご先祖にそのような色味の方が、という可能性もなくはないと思いますが」 

 何処かで何かの知識が引っかかる。 

 その思いで言えば、フレデリク様が嬉しそうに笑った。 

「エミィはいつだってそう言うよね。僕のこの、赤味がかった金色も母上がきれいな紅い瞳と髪をしているからだ、って。記憶が無い今も、そう言ってくれて嬉しい」 

「だって、本当にきれいですから」 

「ありがとう。エミィのはちみつ色も、とても好ましいよね。やわらかくて、優しい、エミィにぴったりな色だ。僕はもう、本当に、心底、世界中の何よりも大好きなんだよ。もちろん、本体であるエミィが一番だけれど。それにね。『瞳と額、それから耳の形は私に、口と鼻はセシーリアにそっくりだ』というのが伯父上の口癖でね。幾度も聞かされる今となっては、家臣一同『何度も聞いたし、見れば分かる』と内心呆れているくらいだ」 

 ところどころ、やはり”溺愛”疑惑が付き纏うものの、記憶を失う前も大切にされていたと感じられることは、ても幸せだと、私は引き攣りそうになった頬が緩むのを感じる。 

「私は、おふたりに似ているのですね」 

「ああ。何といっても『良いとこ取り』だからね」 

 フレデリク様が、私が生まれた時の国王陛下の言葉を明るい声でいい、朗らかに笑った。 

「ああ、それでイェルドだけれどね。奴は瞳と髪の色だけでなく、耳も鼻も目も、似ていないところが無いくらいヨーラン、元側妃の異父兄にそっくりだったよ。だから、生まれたその時からイェルドの父はヨーランだというのが、彼を見た全員の判断。伯父上の子だと言い募ったのは、元側妃ブリットとその時公爵を名乗っていたヨーランだけだったと聞いている」 

「そんなに」 

「そんなに、だよ。だから、伯父上がイェルドに宣旨を下さず、準王子として離宮住まいとしたことを誰もが納得したんだ。それだって、元側妃ブリットを側妃として留め置くための処置で、その処置自体、元側妃に愛があったから施したのではない、他の側妃を娶らずに済むという利用価値があったからだというのは、何ていうか暗黙の了承だったらしい。その頃から、伯父上の発言力は高まっていったようだね。それを機に、新しい側妃を、という声も完全に消したっていう話だ。まあ、有力貴族達が自分の利のために勧めた側妃が、既に孕んで王宮に来るような女だったなんて、知らなかったじゃ伯父上も済まさなかっただろうからね。あ、だからといおうか、伯父上は当然のように生まれた男児に名前も与えなかったから、イェルドという名は、彼の実の両親が付けたんだよ」 

 そう、フレデリク様は嬉々として語った。 

 そう。 

 フレデリク様は、嬉々としている。 

 でもなんというかその微笑みが凄くて、私は、この人は絶対に敵にしてはいけないひとだと強く認識、それこそ魂に刻み込む強さで思う。 

 

 だって、フレデリク様。 

 その笑顔、とっても凄いです。 

 その、黒さ滲みまくりの迫力が。 

 

 いや、滲みまくったらもはや黒いのかもしれないけれど、などと思いつつ、私は今のフレデリク様の話を整理する。 

 イェルドと名付けたのは、彼の実の両親。 

 まずは、フレデリク様のその言い方に、口元がひくひくしてしまう。 

 彼の実の両親というのが、元側妃ブリット様とその異父兄ヨーランだったのだろうことは、容易に想像がつく。 

 けれど、それをわざわざ、ふたりの名を言うのではなく、イェルドの実の両親と表するところにフレデリク様が、心底彼等を嫌悪していることが窺える。 

「ああ、それとね。イェルドが濃いねずみ色の髪と瞳を持って生まれて来たことで、ベルマン伯爵家に問い合わせをしたんだ。ヨーランも濃いねずみ色を有していることから、エミィが言ったように、ベルマン伯爵家には過去、貴族には珍しい濃いねずみ色を持つ者がいたのか、とね」 

「濃いねずみ色は、ベルマン伯爵家のお色では、ということになったのですね?」 

 ブリット元側妃の実父はアンデル公爵ということになっているものの、アンデル公爵家に濃いねずみ色を持つ者が出たことは無い。 

 ヨーランの実父は貴族だということになってはいるが、誰なのか不明。 

 となれば、ふたりの血筋として確定しているのはふたり共の母である前公爵夫人の実家、ベルマン伯爵家のみ。 

 だから、特定が難しいヨーランの実父を探す前に、ベルマン伯爵家に問うたのだろうと、素人ながら私も頷いた。 

「そう。濃いねずみ色がベルマン伯爵家の誰か、先祖にいたのならヨーランもイェルドもその血を引いたのだと考えられるからね」 

 フレデリク様の言葉に、私も納得する。 

 公爵家ほど王家と繋がりの無い伯爵家に於いては、過去、そういった色が出た事実を周りが覚えていない可能性、もしくは何等かの事情で公式記録に残っていない可能性もあると考えたのだろう。 

「それに『イェルドは絶対に陛下の子ですわ。それなのに、今の扱いは不当です。酷いですわ』と元側妃はそれはもう煩かったうえ、エミリアや王妃陛下にまで不敬を働いていたから、親戚筋に当たるベルマン伯爵家がどう動くのか、どう考えているのかを探るためでもあったのだけれど、そうしたら、とんでもないことが分かった」 

「とんでもないこと?」 

「ああ。アンデル前公爵夫人は、ベルマン伯爵家の正当な娘ではなかった」 

 


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