アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
23 / 32

六、王女と毒 2

しおりを挟む
 

 

 

 さっきまでなかった、わよね? 

 

 突如として現れた赤い点滅が俄かには信じられず、私は一度目を閉じて再び開き、を三度ほど繰り返した。 

 それでも、そこに見える点滅。 

 

 コーラの口のなかと胸元に見える、というのが肝なのかしら? 

 だとしたら・・・っ、もしかして!? 

 

 はっとして立ち上がった私は、コーラがその赤く点滅する何かを紅茶のカップに入れようとして、ぶるぶると震える手を、もう片方の手で抑えているのを見た瞬間、叫んだ。 

「コーラ!口のなかのそれを吐き出して!早く!」 

 私のカップに入れようとしている何かと、コーラの口のなかの何か。 

 それらふたつの考えられる共通点は、毒。 

『エミィ!何があった!?』 

 私の叫びにいち早くフレデリク様が反応してくれる一方、目の前のコーラは固まってしまい、青ざめ引き攣った顔で私を見るばかり。 

「コーラ!いいから早く吐き出して!それ、”毒”なのでしょう!?”毒”を口のなかに仕込むなんて、なんてこと!危なすぎるわ!”毒”は危険な物なのよ!」 

『エミィ!すぐ行く!』 

「フレデリク様!お願いします!」 

「あ・・あ・・な・・」 

 既に普通にフレデリク様に答えてしまいながら、私はがくがくと震えているコーラへと手を伸ばした。 

「いいから吐き出しなさい!」 

「エミィ!」 

「早く吐き出すのよ!早く!」 

 ばたんっ、と物凄い勢いで扉が開き、フレデリク様が最速で駆け寄って来るのを横目で見ながら、私はコーラに飛び付くようにして無理矢理口を開かせ、そのなかで赤く点滅するものを見つけると、遠慮容赦なく取り出した。 

 今度は私の手のひらで、それが赤く点滅する。 

 

 はあ・・・はあ。 

 これでコーラの自害は回避、出来たわよね? 


「あ・・・あああ・・」 

 息があがりながらも、手のひらのそれに私が安堵した瞬間、コーラの身体から力が抜け、その場にずるずると座り込んでしまった。 

「コーラ!」 

 咄嗟に支えようとするも、私の力などまったく役に立たず、コーラもろとも倒れそうになった所を強い腕に引きあげられ、引き寄せられる。 

「エミィ!無事か!?」 

「私は大丈夫です、フレデリク様。ありがとうございます」 

 すぐさま私を抱き込んだフレデリク様は、護衛騎士に指示をしてコーラを捕らえさせながら、私の腕を擦り覗き込むように顔色を見て、どこにも怪我がないことを確認する。

「ああ・・本当に良かった。君を囮にすると決めた時に覚悟はしていた筈なのに、甘かった。エミィの切羽詰まった声を聞いたら、肝が冷えた」 

 そして、私をソファに座らせてくれたフレデリク様は、その私の前に跪き、両手を握ってぬくもりを確かめるかのように目を閉じた。 

「すみません。ですが、何となく私の絶体絶命の危機という感じではないと分かったのでは?」 

 何と言っても、突撃の合図となる”毒”という言葉を使ったのは、コーラに吐き出せと言いながらなのだ。 

 しかも”毒””毒”と連呼した。 

 我ながら、余り賢い言葉遣いとは思えない。 

「それはもちろん通じたけれど。でもね。それとこれとは別だよ、エミィ。何と言っても、僕の手の届かない所で、君がその危険な物と一緒に居るのだからね」 

 いつ何時、私にその災いが及ぶか知れない状態は怖かったと言われ、私は心底申し訳ない気持ちになった。 

「すみません。突然、赤く点滅する何かが見えるようになって。それが毒だと判断出来たので、手遅れにならないようにと動いてしまいました」 

 本当なら、もっと冷静にコーラに近づいて『それ、毒なのではなくて?』などと、貴婦人らしく問い詰める筈だったのに、実際は、あれ。 

 

 うう。 

 考えないようにしましょう。 

 終わりよければすべてよし、ってお話にもあった気がするもの。 

 

 思いつつ私は、縄打たれて絨毯に跪くコーラを見た。 

「まあ、確かにあれは毒だったけれど。赤い点滅?」 

 何故か不思議そうに言ったフレデリク様だけれど、ちらりと感じたそれよりも、私は、自分の判断に誤りは無かったと知り安堵する。

「やはり、毒だったのですね。コーラが私のカップに入れようとしていたものと、コーラの口のなかの何かが赤く点滅して見えましたので、その共通点といえば毒だと思ったのです。コーラ、貴女、毒を口のなかに仕込んでいたのね」 

 コーラの口の中から取り出した赤い点滅はカプセルになっていて、それは歯で噛み砕くための仕様だと容易に推察出来、私は暗澹たる気持ちになった。 

 尤も今、それは既にコーラが胸元に忍ばせていた薬包と共に白いハンカチに乗せられて、誰より信頼できるフレデリク様の手にあるので、もう何の心配もない。 

「実行した後は、自害しろとでも命じられていたのか」 

「成功しても、失敗しても、死ねと言われたの?コーラ」 

「・・・・・」 

 黒幕ありきの前提で尋ねても、俯くコーラが答えることは無い。 

 既に身を震わせることもなく、覚悟を決めたように、ただ静かに跪いている。 

 その姿勢はコーラの侍女としての、そしてひととしての資質を示しているようで、私は胸が痛くなった。 

「コーラ。貴女は、何を守ろうとしているの?」 

「・・・・・」 

「貴様、だんまりもいい加減にしろ。エミリアに命を救われたのだということ、忘れるなよ」 

 じっと黙ったまま、断罪を待つかのようなコーラを冷たく見下ろし、フレデリク様が厳しい声を掛ける。 

「コーラ。貴女、誰かに弱みを握られたのではなくて?」 

 今回の行動は、絶対にコーラが考えたものではない、私が死ぬことで得をする誰かの陰謀に巻き込まれただけだと考える私は、コーラに真実を話ししてもらうため、そっと床に膝を突き、彼女と向き合った。 

 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

処理中です...