アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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七、記憶 3

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「さ、エミィ。支度をして、応接室に急ごうか。きっと、やきもきしていらっしゃるだろうから」 

「あ、はい。そうですね」 

 フレデリク様の言葉の意味が気になって、思わず考え込んでしまった私を、フレデリク様が苦笑して見ている。 

「でも『約束破ったら、一日部屋から出さないぞ』っていう、言葉の意味を考えてくれるのは嬉しい」 

 かと思えば、本当に嬉しそうに笑いながらそんなことをさらりと言って私の髪を指で掬う。 

「ならば、教えてください」 

「うーん。どうしようかな」 

「やっぱり意地悪です」 

 おかしみの籠った瞳で見られ、私はぷくっと膨れて横を向いた。 

「そんな顔しても可愛いだけだ、って」 

 その頬をつんつんとつつかれ、避けようと身体を捻りながらも邸へと急ぎ向かっていた私は、急に立ち止まったフレデリク様を避け切れず、そのままぶつかってしまう。 

「っ・・・ごめんなさい!」 

「いや、僕こそごめん。でも、あそこ」 

 衝撃でふらついた私を危なげなく抱き留めて、フレデリク様が邸から庭へと出るテラス付近を苦笑いしながら見た。 

「テラスに何か・・・って。あれは」 

 そこには、数人の人が固まりのようになって歩いていて、どうやら庭へ出ようとしているのだと知れる。 

 今、この状況で庭へ来ようとしている客人といえば、該当するのはひと組みしかいない。 

「まさか」 

「待ちきれなかったみたいだね」 

 私は呆然と呟いてしまうも、フレデリク様は然程意外でもなかったようで、特に驚くことなく出迎える体勢になっている。 

 見えるのは、太陽を溶かし込んだような見事な金色の髪の男性と、その少し後ろを歩いている銀色の髪が美しい女性。 

 誰に聞かずとも分かる。 

 あのおふたりが、国王陛下と王妃陛下。 

 気づくと同時、私もおふたりを迎える体勢を整え、より近づく姿を見て、固まった。 

「あ」 

「エミィ。どうかした?」 

 突然目を見開いて硬直した私を、フレデリク様が心配そうに呼ぶ。 

「・・・お母様」 

「え?エミィ」 

「エミリア!リーア!」 

「お母様!」 

 そして銀色の髪の女性の表情がはっきり分かった時、私はそう叫ぶように呼んで走り出していた。 

  

『おかあさまのかみ、とってもきれい』 

『まあ、ありがとう!リーアの髪も、とてもきれいよ』 

『うさぎさん、して?』 

『ええ。可愛いうさぎさんにしましょうね』 

 

 

『エミリア。フォークの持ち方、忘れてしまったの?』 

『あ、ごめんなさい。うまくつかえなくて』 

『それなら少し見ていて。このお料理の時は、こうして、こうするの。はい、やってごらんなさい』 

『はい・・・あ、できた!』 

『ふふ。とっても上手よ、リーア』 

『おかあさまがたべていると、すごくおいしそう』 

『作法って素敵なのよ。ひとに不快感を与えることなく、みんなで美味しくお食事がいただけるの』 

『まほうみたい』 

『そうね。リーアの魔法は、とても素敵だものね』 

 

『おかあさま、おでかけ?』 

『そうよ。今日は街でお買い物をして、それからお茶もしましょうね』 

『はい!』 

 

『エミリア。いついかなる時も、凛と美しくありなさい』 

 

 溢れる光のなかで、お母様が笑う。 

 厳しくて、ドレスの裾の捌き方ひとつ取っても妥協無く出来るまで躾けられた。 

 普段からの行動が、いざという時に出てしまうとも言われ、学びの席では甘えることなど言語道断だった。 

 でも、それがお母様の愛だと、初めてひとりで茶会へ出た時に思い知った。 

 そこでは、私の一挙手一投足を見られていてとても緊張したけれど、お母様の教えのお蔭で少し経つと『流石、国王陛下と王妃陛下のお子様だ』という声でいっぱいになった。 

 

 わたくし次第で、周りも変わる。 

 

 そう自覚したからか、いつの頃からか、私は人前では気負うことなく背筋を伸ばしていられるようになった。 

『いついかなる時も、凛と美しく』 

 お母様の言うそれは、顔の美醜などではない。 

 誇り高く、けれど尊大になどならないよう、お母様はいつだって私を見守ってくれた。 

 街へもよく私を連れて行って、色々な人々の暮らしぶりを見せてくれたりもした。 

 それらはすべて、やがてこの国を背負い立つ私のために為されたこと。 

 

 でも、街のカフェで暗殺者に襲われた時が、やっぱり一番凄かったわよね。 

 

 客に成りすまして近づこうとした暗殺者が暗器を取り出すより早く、ケーキナイフを投げつけて事なきを得てしまったお母様。 

 その後は、護衛騎士を自ら指揮して、その時の黒幕ごと捕らえてしまった。 

 しっとりと美しい王妃なのに、智力にも武力にも長けていて、私もお母様のようになりたかったのに、武の才はからきしだった。 

『何を言っているの。素晴らしい魔法の使い手さんが』 

 武の才がまったくないと落ち込む私を、そう言って揶揄ったお母様。 

 

「お母様!」 

「リーア!」 

 そして私は、溢れる光のなか、お母様の胸へと飛び込んだ。 

 
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