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7.『プリミチブの樹海』へ

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僕はできるだけわかりやすく機械のことを説明した。
それを聞いた兄上は難しい表情をする。

「イアンの言いたいことは理解した。しかし、カラクリ機械を理解して作れる者なんて、王国内にいるのか?」

「人族で探すのは無理かも。ドワーフ……それも『プリミチブの樹海』のドワーフ族なら作れるかもしれないよ」

『プリミチブの樹海』とはクリトニア王国の南部に広がる森で、昼間から魔獣が闊歩する未開発の危険な森だ。

その森の奥深くに、ドワーフ族が地下に都市を作って暮らしていると、冒険者達の中で噂となっている。
ホントの話かどうかは、わからないけどね。

「ドワーフと言えば、剣や盾をつくるドーワフ族のことか? 奴等が簡単な装飾品を作っているのは知ってるが 、あんな大雑把な奴等に緻密なカラクリを作ることができるのか? 」

ローランド兄上は納得がいかないように首を傾げた。

クリトニア王国にもドワーフ族は住んでいる。
しかし、多くのドワーフ族は、武器や防具の鍛冶屋を営んでいたり、冒険者をしていることが多い。
たまにドワーフの作った装飾品が王都にも出回るが、ドワーフの器用さはそれほど知られていない。

僕は日本のラノベの知識があるから、ドワーフ族が好奇心旺盛で、複雑な機械工作が大好きなことも知ってるけど、ローランド兄上は知らないもんね。

僕は椅子から立ち上がり、両拳を握りしめる。

「僕、ちょっと『プリミチブの樹海』へ行ってみるよ。うまくいけばドワーフ族をスカウトしてくる」

「そんな危ない森にイアン一人を行かせるわけないじゃないか」

「でも、エルファスト魔法王国に少しでも対抗しようと思ったら、今までと同じことを繰り返していてもダメだよ。兄上達三人は、王宮で重要な役割があるでしょ。だから僕一人で行ってくる」

「それならば王宮騎士団の中から選りすぐりの者を伴につけよう」

僕とローランド兄上は、一時間ほど話し合いを続け、明日の昼に王城を出発することになった。
翌日の昼前、王族専用の厩舎へ行くと、王宮騎士団のクライスと他の四名の兵士達、それとなぜかエミリア姉上が立っていた。

「どうしてエミリア姉上がいるの?」

「ローランド兄上から話を聞いたに決まってるじゃない。『プリミチブの樹海』へ行くなんて、そんな楽しそうなこと、イアン一人で行こうとするなんてズルいわ」

「ズルいと言われても……姉上も王宮で公務があるでしょう。だから僕だけで行こうとしたのに」

「私は王家といっても二女だし、公務はローランド兄上とアデルに任せればいいわ。先日はアデルのおかげで戦に巻き込まれたんだから、それぐらい押しつけても罰は当たらないわよ」

どちらかといえば、エミリア姉上のほうから巻き込まれにいったような気もするけど。
それを言って機嫌を悪くされても困るから黙っておこう。

エミリア姉上に押し切られるカタチで、僕達二人は馬車に乗り込んで、クライス達と共に王城を出発した。

しばらく馬車に揺られていると、エミリア姉上が首を傾げる。

「何か計画はあるのよね?」

「うん。『プリミチブの樹海』の近くにベアケルという街があるだ。そこで樹海とドワーフの情報を仕入れるつもり。樹海に詳しい道先案内人を雇ってもいいと思ってる」

僕が入手した情報では、ベアケルの街は樹海に近いことから、魔獣を狩るために多くの冒険者が集まっているという。

そのおかげで、ベアケルの街には人族の他に亜人や獣人もたくさん住んでいるらしい。
僕は王宮育ちで、亜人や獣人を近くで見たことがないから実物に会えると思うと楽しみだ。

王城を出発してから五時間ほどで空が赤く染まりはじめた。
今日は僕の提案で街には泊まらず、街道沿いにある空地で野営をすることになった。

空地に到着すると、背嚢型のマジックバックから荷物を取り出し、クライス達が野営用のテントを張る。

僕とエミリア姉上は空地のすぐ近くの林で、焚き木に使う乾いた木の枝を拾い集め、火炎石に魔力を通して、焚き火を起した。

炎を眺めていると、クライスが近づいてきて、片膝をついて礼をする。

「街で宿を利用されると思い、野営用の食料を用意していませんでした。今は非常用の携帯食しか持ち合わせていません。両殿下にはご足労をおかけします」

「いやいや、僕はその非常食を食べてみたかったんだよ。王城を出たら一緒に旅する仲間じゃないか。そんなに畏まらずに、クライス達もリラックスしてよ」

「かしこまりました。しかし、イアン殿下は変わっておられる。上級貴族の方々は、兵と共に食事をするのを嫌うことが多いですからね」

今いる世界では貴族などの身分制度はあるけど、前世の記憶にある日本では、そんな身分制度はなく、全員が一般庶民だったからね。

あまり身分の差ってわからないんだよな。

クライス達から兵士用の非常食である、黒パンと肉の燻製を分けてもらい、僕とエミリア姉上は水筒の水を喉を潤しながら、少しずつ食べる。

黒パンはカチカチに硬く、燻製の肉はなかなか引き千切れない。

非常食を食べることに苦戦している僕を見て、エミリア姉上はクスクスと笑う。

「こんなに硬い食事は初めて。こんな自然の中で野営するのも初めてね。イアンと一緒にいると初めてのことばかりで、とっても楽しいわ」

「うん、僕も楽しいよ」

僕、エミリア姉上、クライス達は夜遅くまで、星空を見上げながら楽しく話し込んだ。
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