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8.ベアケルの街の冒険者ギルド
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僕達を乗せた馬車は、街々の宿に停泊しながら、王都を出発して一週間後にベアケルの街へと到着した。
この街はゲアハルト伯爵領の辺境、『プリミチブの樹海』の近くにあり、そのおかげで冒険者が集う街として有名だ。
その影響で、管理者である街の代官よりも、冒険者ギルドの権限が強いという特殊な街だ。
だからこの街では貴族の影響力は薄い。
僕達一行は街の安宿に馬車を止め、部屋に荷物を置いて、冒険者風の軽装と外套に着替えてから外にでた。
街の大通りを歩くと、肩にトゲトゲのついた厳つい甲冑を着る者、世紀末覇者のような鎧を着た者など、様々な装備をまとった冒険者達が歩いていた。
その冒険者達の装いを見て、クライスは目を細める。
「イアン殿下、くれぐれも私達から離れないでください」
「恰好は厳ついけど、そこまで警戒する必要はないよ。話してみると気さくな人達かもしれないし。それと、この街では殿下と呼ぶのは止めてね。貴族と知られるとややこしくなるから」
冒険者を間近で見るのは初めてだけど、前世の日本で冒険者についての知識を持ってるから、なんだか親近感が湧くんだよね。
「なんがか異国へ来たようで楽しいわね」
さすがエミリア姉上、この街の雰囲気に呑まれることなく、目をキラキラさせてとても楽しそうだ。
僕達は大通りを歩いて冒険者ギルドの建物へ向かった。
冒険者ギルドの中へ入ると、右手に色々な受付をするカウンターがあり、左手には大勢が座れる待合場所となっていた。どうやらここでは食事をしたり酒を飲んだりもできるようだ。
ギルドの中にいる冒険者達が、僕達に向けて鋭い視線を送ってくる。
僕のような子供が護衛を連れて入ってくれば、さすがに目立つよね。
そんなことを気にする様子もなく、エミリア姉上は目が合った冒険者に微笑みを返している。
多くの冒険者は手を振りながら歩くエミリア姉上を見て、呆けた表情で顔を赤らめていた。
受付カウンターへ行くと、きれいな受付のお姉さんが礼儀正しく会釈する。
「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件で来られたのかしら?」
「僕の名はイアン・クリトニアと言います。『プリミチブの樹海』に詳しい冒険者を紹介してもらいたいんだけど、お願いできますか?」
「それでは三階へご案内いたします」
僕が外套から短剣を取り出してカウンターの上に置くと、それを見た受付嬢は深々と頭を下げる。
この短剣には王家の紋章が描かれていて、受付嬢はそのことに気づいたようだ。
カウンターから出てきた受付嬢は、階段のほうへ手をかざし僕達を三階まで案内してくれた。
三階の一番奥の部屋の前に到着すると、受付嬢が扉をノックし「お客様です」と声をかける。
すると扉ごしに「入っていいぞ」という声が聞こえ、受付嬢と共に僕達は扉を開けて中へ入った。
部屋の中には大きな長いソファが二つあり、その奥にある豪華なデスクで、頬に傷のある厳めしい男が僕達を見て鋭い視線を送ってくる。
「ここは冒険者ギルドのはずだが、いつから託児所になったんだ?」
「失礼な物言いは無礼だぞ」
「ここで争いごとは禁止だよ。僕達はお願いをしに来たんだから」
男の言葉に怒ったクライスが腰の剣に手をかけようとするのを、僕は片手を広げて制止する。
その様子を見て、男はニヤニヤと笑んで椅子から立ち上がり、僕達のほうへ歩んできた。
「ここは冒険者ギルドだ。お貴族様の権力は俺達には届かないぞ」
「そうですか。クリトニア王国からの支援がなくなってもいいの? そうなると冒険者ギルドも困ると思うけど」
冒険者ギルドは国々をまたぐ互助会組織ではあるけど、ギルドの運営には王国からの支援金が必要なんだよね。
だから表面上は冒険者ギルドは国に依存しない組織ということになっているけど、実は持ちつ持たれつの関係だったりする。
僕の言葉を聞いて、男はにやけた笑みを消し、鋭い視線で睨んでくる。
「その物言い、貴族が何をしに来た?」
「私の名はエミリア・クリトニア。別に権力を振りかざすつもりはないわ。依頼者として依頼をしにきただけ。そしたら、受付の方がここに案内してくれたのよ」
「王家の紋章を確認しましたので、念のためにギルドマスターの元へお連れしました。いつも言ってることですけど、お客様に喧嘩を売るのはやめてください。冒険者ギルドの品位に関わります」
「冒険者に品位なんて要らねーだろ」
「そんなことばかり言っていると、本部に報告しますよ。ギルドマスターの粗暴な態度で、王家と対立して支援金が止まったら、部下のギルド職員が路頭に迷うことになるんですよ。そうなったらギルドマスターはどうやって責任を取るつもりですか。もう少し大人になってください」
「うぐぐ……」
受付嬢に叱責され、男はグヌヌと苦々しい表情で黙る。
どうやらこの男がギルドマスターで、毎回、受付嬢に怒られているようだね。
子供みたいでちょっと面白いかも。
ギルドマスターはバツが悪そうに顔を横へ逸らす。
「ここに何の用だ?」
「『プリミチブの樹海』の奥深く、地下都市で暮らしているというドワーフ族の集落へ行きたいんだ。誰か樹海に詳しい冒険者を紹介してほしい。できれば道先案内ができる人を頼む」
「『プリミチブの樹海』の地下都市……。お前達、そんな噂を信じてるのか。本当にあるかどうかもわからないぞ」
「本気だよ。どうしてもドワーフ族と繋がりを持ちたいからね」
「王家がドワーフ族と、何を考えているがわからんが面白い。協力しようじゃねーか。ちょっと待ってろ」
そう言って、ギルドマスターはニヤリと笑うと、扉を開けて部屋から出ていった。
その後ろ姿を見送って、受付嬢が僕とエミリア姉上へ頭を下げる。
「ギルドマスターの粗暴な態度、謹んでお詫びいたします。悪い人ではないんですが、冒険者気風が抜けなくて、口が悪いものですから、いつも客人と揉めてしまうのです。根は真っ直ぐで優しい人なんです」
「突然に押しかけたのは私達だし、特別扱いを望んではいないわ。別に気にしてないから、そう畏まらないで」
「そう言っていただけるとありがたいです」
エミリア姉上と受付嬢が互いにニコリと微笑む。
その姿にホンワカした気持ちになっていると、少し離れた所でクライスが「まだ納得できません」とぶつぶつ文句を言っている。
こんな調子で、何事もなく『プリミチブの樹海』へ行けるのだろうか?
この街はゲアハルト伯爵領の辺境、『プリミチブの樹海』の近くにあり、そのおかげで冒険者が集う街として有名だ。
その影響で、管理者である街の代官よりも、冒険者ギルドの権限が強いという特殊な街だ。
だからこの街では貴族の影響力は薄い。
僕達一行は街の安宿に馬車を止め、部屋に荷物を置いて、冒険者風の軽装と外套に着替えてから外にでた。
街の大通りを歩くと、肩にトゲトゲのついた厳つい甲冑を着る者、世紀末覇者のような鎧を着た者など、様々な装備をまとった冒険者達が歩いていた。
その冒険者達の装いを見て、クライスは目を細める。
「イアン殿下、くれぐれも私達から離れないでください」
「恰好は厳ついけど、そこまで警戒する必要はないよ。話してみると気さくな人達かもしれないし。それと、この街では殿下と呼ぶのは止めてね。貴族と知られるとややこしくなるから」
冒険者を間近で見るのは初めてだけど、前世の日本で冒険者についての知識を持ってるから、なんだか親近感が湧くんだよね。
「なんがか異国へ来たようで楽しいわね」
さすがエミリア姉上、この街の雰囲気に呑まれることなく、目をキラキラさせてとても楽しそうだ。
僕達は大通りを歩いて冒険者ギルドの建物へ向かった。
冒険者ギルドの中へ入ると、右手に色々な受付をするカウンターがあり、左手には大勢が座れる待合場所となっていた。どうやらここでは食事をしたり酒を飲んだりもできるようだ。
ギルドの中にいる冒険者達が、僕達に向けて鋭い視線を送ってくる。
僕のような子供が護衛を連れて入ってくれば、さすがに目立つよね。
そんなことを気にする様子もなく、エミリア姉上は目が合った冒険者に微笑みを返している。
多くの冒険者は手を振りながら歩くエミリア姉上を見て、呆けた表情で顔を赤らめていた。
受付カウンターへ行くと、きれいな受付のお姉さんが礼儀正しく会釈する。
「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件で来られたのかしら?」
「僕の名はイアン・クリトニアと言います。『プリミチブの樹海』に詳しい冒険者を紹介してもらいたいんだけど、お願いできますか?」
「それでは三階へご案内いたします」
僕が外套から短剣を取り出してカウンターの上に置くと、それを見た受付嬢は深々と頭を下げる。
この短剣には王家の紋章が描かれていて、受付嬢はそのことに気づいたようだ。
カウンターから出てきた受付嬢は、階段のほうへ手をかざし僕達を三階まで案内してくれた。
三階の一番奥の部屋の前に到着すると、受付嬢が扉をノックし「お客様です」と声をかける。
すると扉ごしに「入っていいぞ」という声が聞こえ、受付嬢と共に僕達は扉を開けて中へ入った。
部屋の中には大きな長いソファが二つあり、その奥にある豪華なデスクで、頬に傷のある厳めしい男が僕達を見て鋭い視線を送ってくる。
「ここは冒険者ギルドのはずだが、いつから託児所になったんだ?」
「失礼な物言いは無礼だぞ」
「ここで争いごとは禁止だよ。僕達はお願いをしに来たんだから」
男の言葉に怒ったクライスが腰の剣に手をかけようとするのを、僕は片手を広げて制止する。
その様子を見て、男はニヤニヤと笑んで椅子から立ち上がり、僕達のほうへ歩んできた。
「ここは冒険者ギルドだ。お貴族様の権力は俺達には届かないぞ」
「そうですか。クリトニア王国からの支援がなくなってもいいの? そうなると冒険者ギルドも困ると思うけど」
冒険者ギルドは国々をまたぐ互助会組織ではあるけど、ギルドの運営には王国からの支援金が必要なんだよね。
だから表面上は冒険者ギルドは国に依存しない組織ということになっているけど、実は持ちつ持たれつの関係だったりする。
僕の言葉を聞いて、男はにやけた笑みを消し、鋭い視線で睨んでくる。
「その物言い、貴族が何をしに来た?」
「私の名はエミリア・クリトニア。別に権力を振りかざすつもりはないわ。依頼者として依頼をしにきただけ。そしたら、受付の方がここに案内してくれたのよ」
「王家の紋章を確認しましたので、念のためにギルドマスターの元へお連れしました。いつも言ってることですけど、お客様に喧嘩を売るのはやめてください。冒険者ギルドの品位に関わります」
「冒険者に品位なんて要らねーだろ」
「そんなことばかり言っていると、本部に報告しますよ。ギルドマスターの粗暴な態度で、王家と対立して支援金が止まったら、部下のギルド職員が路頭に迷うことになるんですよ。そうなったらギルドマスターはどうやって責任を取るつもりですか。もう少し大人になってください」
「うぐぐ……」
受付嬢に叱責され、男はグヌヌと苦々しい表情で黙る。
どうやらこの男がギルドマスターで、毎回、受付嬢に怒られているようだね。
子供みたいでちょっと面白いかも。
ギルドマスターはバツが悪そうに顔を横へ逸らす。
「ここに何の用だ?」
「『プリミチブの樹海』の奥深く、地下都市で暮らしているというドワーフ族の集落へ行きたいんだ。誰か樹海に詳しい冒険者を紹介してほしい。できれば道先案内ができる人を頼む」
「『プリミチブの樹海』の地下都市……。お前達、そんな噂を信じてるのか。本当にあるかどうかもわからないぞ」
「本気だよ。どうしてもドワーフ族と繋がりを持ちたいからね」
「王家がドワーフ族と、何を考えているがわからんが面白い。協力しようじゃねーか。ちょっと待ってろ」
そう言って、ギルドマスターはニヤリと笑うと、扉を開けて部屋から出ていった。
その後ろ姿を見送って、受付嬢が僕とエミリア姉上へ頭を下げる。
「ギルドマスターの粗暴な態度、謹んでお詫びいたします。悪い人ではないんですが、冒険者気風が抜けなくて、口が悪いものですから、いつも客人と揉めてしまうのです。根は真っ直ぐで優しい人なんです」
「突然に押しかけたのは私達だし、特別扱いを望んではいないわ。別に気にしてないから、そう畏まらないで」
「そう言っていただけるとありがたいです」
エミリア姉上と受付嬢が互いにニコリと微笑む。
その姿にホンワカした気持ちになっていると、少し離れた所でクライスが「まだ納得できません」とぶつぶつ文句を言っている。
こんな調子で、何事もなく『プリミチブの樹海』へ行けるのだろうか?
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