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23.城を抜け出して
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バルドハイン帝国からの魔導車の大量発注の件は、アドルフ第七皇子の協力により交渉は決裂となった。
予定通りに帝国側の外交官は帝都へと戻っていった。
アドルフ第七皇子はそのまま来賓として王城に留まることになったけどね。
魔導車のことがあってから何かと忙しかったし、自室にいることも多かったので、僕は体を動かそうと王城を抜け出すことにした。
部屋の扉を開けて、顏だけ出して廊下を確認する。
誰もいないことを確かめた僕は、なるべく人に会わないように気を付けながら、階段を降りて王城の一階を目指した。
王城の表にある大門に向かわずに、庭園の中を歩いて壁沿いに目的の場所を探す。
「あった! まだ修理されていなかったんだ!」
僕が探していた場所は、庭園の樹々に隠された壁にある穴だ。
王城が建設されてから古く、城の外壁はその都度修理されているのだけど、この壁の穴はまだ塞がれていなかった。
僕は身を伏せて、穴を通ろうとすると、頭上から突然に声が聞こえてきた。
「あら、まだその穴があったのね。昔はよくイアンと二人で王城を抜け出したわね。懐かしいわ」
ハッとして声の方向へ顔を向けると、エミリア姉上がニンマリと笑っていた。
「どうして姉上がここにいるの?」
「それは女の勘ね。いつもイアンのことを想っているからわかるのよ」
そんなの怖すぎる!
一人で城を抜け出そうと思っていたのに、このままだと作戦失敗だ!
戸惑う僕に向けて、エミリア姉上がビシっと指差す。
「私も一緒に街へ連れていって。そうすれば私達は共犯でしょ。私も政務ばかりで少しは息抜きしたいのよ。お願い」
そう頼まれればイヤと言えることもなく、僕とエミリア姉上は一緒に城から脱出した。
そして僕達は丘を下り、貴族地区を抜けて街の大通りへと向かう。
大通りでは馬車が頻繁に往来し、ときどき魔導車が走っていた。
魔導車が通ると、道を歩く人々が立ち止まり、キラキラした視線を送っている。
魔導車を追いかけて走る子供達の姿もあった。
どうやら順調に魔導車は街に馴染んできているようだね。
その様子にニコニコを笑っていると、エミリア姉が明るく声をかけてくる。
「久しぶりの街中って楽しいわね。やっぱり二人で歩くのって最高だわ」
そう……僕達王族は普段は馬車に乗って街中に降りることができない。
もし街に用事がある時には大勢の兵が護衛に付いていて、気軽に自由に動けないからね。
僕とエミリア姉上にとっては、街中を二人で歩いているだけでも楽しいことなんだ。
大通りの露天商で、鳥の照り焼き肉を買った僕達は、歩きながらそれを食べる。
口の中に甘辛いタレと、肉汁が広がってとても美味しい。
こういう買い食いって、街を楽しむ醍醐味だよね。
僕とエミリア姉上は街の風景を楽しみながら、ドワーフ達が暮らす工房へと向かった。
工房の玄関を潜り、一番奥にある扉を開けると、エミーがニタニタと笑いながら道具を作っていた。
僕達に気づくと、エミ―は興奮した様子で両手を広げる。
「イアン、これらを見て。魔池を使ってエルファスト魔法王国の魔道具を再現してみたわ」
言われるがままに部屋の中を見ると、色々な道具が並んでいた。
魔導扇風機、魔導ランプ、魔導掃除機、魔導洗濯機、等々どれもエルファスト魔法王国が魔法陣を応用して作った魔道具ばかりだ。
それを魔池を利用して機械で再現したというのか。
やはりエミ―は稀有の才能の持ち主だね。
「スゴイよ、エミ―! 魔池を使って魔法王国の道具を作ってしまうなんて!」
「この道具を量産することができれば、エルファスト魔法王国の魔道具に頼る必要がなくなるわ」
興奮したエミリア姉上が瞳を輝かせて声をあげる。
たしかにエミ―が開発した道具を量産できれば、クリトニア王国にとって利はあるだろう。
しかし、王国内で魔道具が売れなくなれば、エルファスト魔法王国の機嫌を損ねることになる。
下手をするとエルファスト魔法王国から王国が対立してきたと勘ぐられるかも。
それは王国にとってよろしくない。
もし、工場を作って量産体制を取るとしても、慎重に時期を見計らったほうがいいよね。
「エミリア姉上、ちょっと待って。量産するかどうかはローランド兄上に任せよう」
「そうね、私達が決めることじゃないわよね」
さすがはエミリア姉上、僕の考えたことを察してくれたようだ。
それから、僕、エミリア姉上、エミ―の三人は道具作りについて話し合った。
エミ―が言うには、最近、道具作りの素材について悩んでいるらしい。
「木は軽くて加工しやすいが、耐久力に欠けるし、鉄などの金属は炉で加熱すれば加工はできるし、耐久力もあるけど、道具にするには重すぎるのよね。硝子なんて、ちょっとした衝撃で簡単に割れちゃうし。素材を吟味しながら道具を作ってるけど、なかなか難しいのよ」
そういえば、この異世界でプラスチックやゴムに似た素材を見たことはない。
前世の日本の記憶ではプラスチックって石油を加工したモノらしいけど、再現なんてとても無理だ。
しかし、この世界には魔法もあって、魔獣もいるファンタジーな世界だから、似たような素材がもしかするとどこかにあるかもしれないよね。
もし旅に出ることがあったら、道具に使える素材を探すのもいいかもしれないな。
予定通りに帝国側の外交官は帝都へと戻っていった。
アドルフ第七皇子はそのまま来賓として王城に留まることになったけどね。
魔導車のことがあってから何かと忙しかったし、自室にいることも多かったので、僕は体を動かそうと王城を抜け出すことにした。
部屋の扉を開けて、顏だけ出して廊下を確認する。
誰もいないことを確かめた僕は、なるべく人に会わないように気を付けながら、階段を降りて王城の一階を目指した。
王城の表にある大門に向かわずに、庭園の中を歩いて壁沿いに目的の場所を探す。
「あった! まだ修理されていなかったんだ!」
僕が探していた場所は、庭園の樹々に隠された壁にある穴だ。
王城が建設されてから古く、城の外壁はその都度修理されているのだけど、この壁の穴はまだ塞がれていなかった。
僕は身を伏せて、穴を通ろうとすると、頭上から突然に声が聞こえてきた。
「あら、まだその穴があったのね。昔はよくイアンと二人で王城を抜け出したわね。懐かしいわ」
ハッとして声の方向へ顔を向けると、エミリア姉上がニンマリと笑っていた。
「どうして姉上がここにいるの?」
「それは女の勘ね。いつもイアンのことを想っているからわかるのよ」
そんなの怖すぎる!
一人で城を抜け出そうと思っていたのに、このままだと作戦失敗だ!
戸惑う僕に向けて、エミリア姉上がビシっと指差す。
「私も一緒に街へ連れていって。そうすれば私達は共犯でしょ。私も政務ばかりで少しは息抜きしたいのよ。お願い」
そう頼まれればイヤと言えることもなく、僕とエミリア姉上は一緒に城から脱出した。
そして僕達は丘を下り、貴族地区を抜けて街の大通りへと向かう。
大通りでは馬車が頻繁に往来し、ときどき魔導車が走っていた。
魔導車が通ると、道を歩く人々が立ち止まり、キラキラした視線を送っている。
魔導車を追いかけて走る子供達の姿もあった。
どうやら順調に魔導車は街に馴染んできているようだね。
その様子にニコニコを笑っていると、エミリア姉が明るく声をかけてくる。
「久しぶりの街中って楽しいわね。やっぱり二人で歩くのって最高だわ」
そう……僕達王族は普段は馬車に乗って街中に降りることができない。
もし街に用事がある時には大勢の兵が護衛に付いていて、気軽に自由に動けないからね。
僕とエミリア姉上にとっては、街中を二人で歩いているだけでも楽しいことなんだ。
大通りの露天商で、鳥の照り焼き肉を買った僕達は、歩きながらそれを食べる。
口の中に甘辛いタレと、肉汁が広がってとても美味しい。
こういう買い食いって、街を楽しむ醍醐味だよね。
僕とエミリア姉上は街の風景を楽しみながら、ドワーフ達が暮らす工房へと向かった。
工房の玄関を潜り、一番奥にある扉を開けると、エミーがニタニタと笑いながら道具を作っていた。
僕達に気づくと、エミ―は興奮した様子で両手を広げる。
「イアン、これらを見て。魔池を使ってエルファスト魔法王国の魔道具を再現してみたわ」
言われるがままに部屋の中を見ると、色々な道具が並んでいた。
魔導扇風機、魔導ランプ、魔導掃除機、魔導洗濯機、等々どれもエルファスト魔法王国が魔法陣を応用して作った魔道具ばかりだ。
それを魔池を利用して機械で再現したというのか。
やはりエミ―は稀有の才能の持ち主だね。
「スゴイよ、エミ―! 魔池を使って魔法王国の道具を作ってしまうなんて!」
「この道具を量産することができれば、エルファスト魔法王国の魔道具に頼る必要がなくなるわ」
興奮したエミリア姉上が瞳を輝かせて声をあげる。
たしかにエミ―が開発した道具を量産できれば、クリトニア王国にとって利はあるだろう。
しかし、王国内で魔道具が売れなくなれば、エルファスト魔法王国の機嫌を損ねることになる。
下手をするとエルファスト魔法王国から王国が対立してきたと勘ぐられるかも。
それは王国にとってよろしくない。
もし、工場を作って量産体制を取るとしても、慎重に時期を見計らったほうがいいよね。
「エミリア姉上、ちょっと待って。量産するかどうかはローランド兄上に任せよう」
「そうね、私達が決めることじゃないわよね」
さすがはエミリア姉上、僕の考えたことを察してくれたようだ。
それから、僕、エミリア姉上、エミ―の三人は道具作りについて話し合った。
エミ―が言うには、最近、道具作りの素材について悩んでいるらしい。
「木は軽くて加工しやすいが、耐久力に欠けるし、鉄などの金属は炉で加熱すれば加工はできるし、耐久力もあるけど、道具にするには重すぎるのよね。硝子なんて、ちょっとした衝撃で簡単に割れちゃうし。素材を吟味しながら道具を作ってるけど、なかなか難しいのよ」
そういえば、この異世界でプラスチックやゴムに似た素材を見たことはない。
前世の日本の記憶ではプラスチックって石油を加工したモノらしいけど、再現なんてとても無理だ。
しかし、この世界には魔法もあって、魔獣もいるファンタジーな世界だから、似たような素材がもしかするとどこかにあるかもしれないよね。
もし旅に出ることがあったら、道具に使える素材を探すのもいいかもしれないな。
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