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25.「蜘蛛」の噂
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詰所の警備兵に「蜘蛛」の組織について話を聞いてみた。
「蜘蛛」の組織は僕の生まれる前から王都で噂になっている組織らしい。
警備兵達の話では、とにかく悪事の裏には、その組織の影があるというけど、どれも憶測ばかりだった。
「蜘蛛」の組織について悩んでいると、詰所に近衛兵団長のリシリアが姿を現した。
ちょっと見たところでは、普通の美少女に見える彼女だけど、ひとたび剣を持てば、王宮騎士団長と互角の剣技の腕を持つ猛者で、城で暮らしている僕やエミリア姉上にとっては親しい顔見知りだ。
王城を守る近衛の団長であるリシリアがなぜ街中にいるの?
不思議に思っていると、リシリアは僕とエミリア姉上を指差してため息をつく。
「警備兵団長が慌てて城に駆け込んできたらから来たものの、詰所で何をしてるんですか?」
「ちょっと王都をフラフラしていたら、路地で怪しい奴等に襲われちゃって……」
「また私達近衛に黙って城を抜け出したんですか! 二人共、自分達の立場を考えてくださいよ! シルベルク宰相から怒られるのは私なんですから!」
そういえば僕やエミリア姉上が城を抜け出す度に、その報告を受けて怒り心頭になったシルベルク宰相が、近衛兵団長であるリシリアを呼び出して、八つ当たりをしてるんだった。
なんだかいつもすみません……
困った子供を見るような目で、リシリアは腰に両手を当てて僕に問う。
「それで気が済みましたか?」
「まだ……「蜘蛛」って組織のことを……リシリアは知ってる?」
「う……組織については、各兵団に任せて、殿下達は知る必要のないことです。さあ、私が護衛をしますから、一緒に城へ戻りますよ」
「リシリア、誤魔化さないでよ。僕や姉上も一度は襲われたんだ。もう知らないことにはできないよ。出過ぎた真似はしないから、組織について教えてよ」
僕はトコトコと歩いて、リシリアの間近で彼女の顔を見上げる。
「そんな顏でおねだりされても無理です」
「お願いだからさー」
「ダメなモノはダメです。エミリア殿下もイアン殿下を止めてください」
「私だってイアンと一緒に襲われたのよ。「蜘蛛」の組織について私も知りたいわ」
僕のおねだり攻撃に参ったリシリアは、エミリア姉上に助けを求めるが、エミリア姉上はニッコリと微笑んで、それを拒否した。
僕もそうだけど、エミリア姉上も好奇心旺盛だからね。
とうとう観念したリシリアは、ゲンナリした表情で両肩を下げた。
「王国内の街道に出没する野盗や、街々の商会を襲う盗賊、街や村で起こる人さらい、闇賭博場の運営から、薬物の売買まで、「蜘蛛」の組織が関与していると言われています。しかし残念ながら、実体の把握はできていません」
「それだけ幅広く悪事を行っているなら、どこかで尻尾を出すと思うけどな」
「いつも捕まるのは「蜘蛛」の組織の下部と繋がっている下っ端ばかり。大元の組織の構成人数もわかりませんし、組織の幹部の人数も不明です」
それって、ほとんど何もわからないのと同じだよね。
僕が生まれる前からある組織なのに、未だに実体が把握できないなんて異常だ。
誰かが意図的に情報を隠ぺい、もしくは情報操作しているのかも。
これは城に戻って、今までの犯罪履歴を探ったほうがよさそうな気がするな。
その前に――
僕はエミリア姉上の手を握って、ニッコリと微笑む。
「姉上、ここでの用事は済んだから、次に行こう」
「そうね。変な邪魔が入ったから、街を堪能できなかったわ。イアンと二人ならどこへでも行くわ」
「城に戻るんじゃないんですか。私を放置しないでください。私も一緒に行きますので」
僕達二人が詰所の外へ出ると、リシリアが後を追ってきた。
僕達三人は大通りをまたいで、細い路地に入り、貧民地区に近い場所まで向かった。
通りの前にある三階建ての建物の前まで来ると、リシリアが首を傾げる。
「ここは?」
「ここはカッセル商会の本店さ。ちょっとカッセル会長に会いたくてね」
僕はそう言って建物の中へ入った。
一階にいた使用人に僕が来たことを伝えると、使用人は頭を下げた後、慌てて階段へ向かって走っていった。
しばらく待っていると、ドタバタと足音が聞こえ、カッセル会長が階段を駆けおりてきた。
「イアン殿下、エミリア殿下、こんな所まで来られるなんて、ご用があれば私が登城しましたのに」
「いやいや、街へ遊びに来ていて、ちょっとカッセル会長の顔を見たくなっただけだから」
「私にご用ということは、何か重要な話ですね。ここは売り場ですので、三階にある私の執務室へ参りましょう」
僕の表情を見て、カッセル会長は目を細める。
カッセル商会は中小の商会や商人が集まって構成されている大商会で、王国内外に販路が毛細血管のように広がっている。
その構成員の数は他の大商会よりも多く、それだけに様々な情報を持っている。
兵士となると街や村の人々も萎縮するけど、商人であれば気軽に世間話をするし、重要な情報を漏らしている可能性もある。
商売人は情報が命で、世間話をするのも得意だからね。
さて、「蜘蛛」の組織について、どんな情報が出てくるかな?
「蜘蛛」の組織は僕の生まれる前から王都で噂になっている組織らしい。
警備兵達の話では、とにかく悪事の裏には、その組織の影があるというけど、どれも憶測ばかりだった。
「蜘蛛」の組織について悩んでいると、詰所に近衛兵団長のリシリアが姿を現した。
ちょっと見たところでは、普通の美少女に見える彼女だけど、ひとたび剣を持てば、王宮騎士団長と互角の剣技の腕を持つ猛者で、城で暮らしている僕やエミリア姉上にとっては親しい顔見知りだ。
王城を守る近衛の団長であるリシリアがなぜ街中にいるの?
不思議に思っていると、リシリアは僕とエミリア姉上を指差してため息をつく。
「警備兵団長が慌てて城に駆け込んできたらから来たものの、詰所で何をしてるんですか?」
「ちょっと王都をフラフラしていたら、路地で怪しい奴等に襲われちゃって……」
「また私達近衛に黙って城を抜け出したんですか! 二人共、自分達の立場を考えてくださいよ! シルベルク宰相から怒られるのは私なんですから!」
そういえば僕やエミリア姉上が城を抜け出す度に、その報告を受けて怒り心頭になったシルベルク宰相が、近衛兵団長であるリシリアを呼び出して、八つ当たりをしてるんだった。
なんだかいつもすみません……
困った子供を見るような目で、リシリアは腰に両手を当てて僕に問う。
「それで気が済みましたか?」
「まだ……「蜘蛛」って組織のことを……リシリアは知ってる?」
「う……組織については、各兵団に任せて、殿下達は知る必要のないことです。さあ、私が護衛をしますから、一緒に城へ戻りますよ」
「リシリア、誤魔化さないでよ。僕や姉上も一度は襲われたんだ。もう知らないことにはできないよ。出過ぎた真似はしないから、組織について教えてよ」
僕はトコトコと歩いて、リシリアの間近で彼女の顔を見上げる。
「そんな顏でおねだりされても無理です」
「お願いだからさー」
「ダメなモノはダメです。エミリア殿下もイアン殿下を止めてください」
「私だってイアンと一緒に襲われたのよ。「蜘蛛」の組織について私も知りたいわ」
僕のおねだり攻撃に参ったリシリアは、エミリア姉上に助けを求めるが、エミリア姉上はニッコリと微笑んで、それを拒否した。
僕もそうだけど、エミリア姉上も好奇心旺盛だからね。
とうとう観念したリシリアは、ゲンナリした表情で両肩を下げた。
「王国内の街道に出没する野盗や、街々の商会を襲う盗賊、街や村で起こる人さらい、闇賭博場の運営から、薬物の売買まで、「蜘蛛」の組織が関与していると言われています。しかし残念ながら、実体の把握はできていません」
「それだけ幅広く悪事を行っているなら、どこかで尻尾を出すと思うけどな」
「いつも捕まるのは「蜘蛛」の組織の下部と繋がっている下っ端ばかり。大元の組織の構成人数もわかりませんし、組織の幹部の人数も不明です」
それって、ほとんど何もわからないのと同じだよね。
僕が生まれる前からある組織なのに、未だに実体が把握できないなんて異常だ。
誰かが意図的に情報を隠ぺい、もしくは情報操作しているのかも。
これは城に戻って、今までの犯罪履歴を探ったほうがよさそうな気がするな。
その前に――
僕はエミリア姉上の手を握って、ニッコリと微笑む。
「姉上、ここでの用事は済んだから、次に行こう」
「そうね。変な邪魔が入ったから、街を堪能できなかったわ。イアンと二人ならどこへでも行くわ」
「城に戻るんじゃないんですか。私を放置しないでください。私も一緒に行きますので」
僕達二人が詰所の外へ出ると、リシリアが後を追ってきた。
僕達三人は大通りをまたいで、細い路地に入り、貧民地区に近い場所まで向かった。
通りの前にある三階建ての建物の前まで来ると、リシリアが首を傾げる。
「ここは?」
「ここはカッセル商会の本店さ。ちょっとカッセル会長に会いたくてね」
僕はそう言って建物の中へ入った。
一階にいた使用人に僕が来たことを伝えると、使用人は頭を下げた後、慌てて階段へ向かって走っていった。
しばらく待っていると、ドタバタと足音が聞こえ、カッセル会長が階段を駆けおりてきた。
「イアン殿下、エミリア殿下、こんな所まで来られるなんて、ご用があれば私が登城しましたのに」
「いやいや、街へ遊びに来ていて、ちょっとカッセル会長の顔を見たくなっただけだから」
「私にご用ということは、何か重要な話ですね。ここは売り場ですので、三階にある私の執務室へ参りましょう」
僕の表情を見て、カッセル会長は目を細める。
カッセル商会は中小の商会や商人が集まって構成されている大商会で、王国内外に販路が毛細血管のように広がっている。
その構成員の数は他の大商会よりも多く、それだけに様々な情報を持っている。
兵士となると街や村の人々も萎縮するけど、商人であれば気軽に世間話をするし、重要な情報を漏らしている可能性もある。
商売人は情報が命で、世間話をするのも得意だからね。
さて、「蜘蛛」の組織について、どんな情報が出てくるかな?
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