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第29話 ドワーフの口説き方

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昨日は興奮して、なかなか寝れなかったな。
やっと眠りについたのは、夜明け前。

次に目覚めると、テント内にエリスの姿はなく。
三人で朝食を食べている時も、彼女から視線を逸らされている状況。

エリスが寝ていたからといって、一切変なことはしていない。
キチンと彼女の抱き枕に徹していた。

理性が麻痺しそうだったけど、何とか耐えた。

それなのに……

「あの……エリス……」

「湧き水を汲んできます」

話かける俺からすり抜けるように、エリスが森に向かって駆けだす。
昨日はあれほど最高の日だったのに。

彼女が呟いたラスティアという人のことも気になる。
もし彼氏だったらどうしよう……

三角座りをして落ち込んでいるとダントンが歩いてきた。

「どうしただ?」

「聞いてくれるか?」

俺は口早にエリスに片想いしていることを訴え、彼女が口にした人物のことを説明した。
それを聞いたダントンは逞しい胸を拳で叩く。

「ドワーフ流の女性の口説き方を教えてやるだ!」

「ぜひ、教えてくれ!」

「女性と仲良くなるには、酒を酌み交わすのが一番! 互いに酔い潰れるまで飲み明かすだ」

「なるほど、二人で酒を飲むと、確かに良い雰囲気になるよな! その後のことが聞きたい。話を続けてくれ!」

「ないだ!」

「はぁ?」

唐突にダントンの話が終り、俺は意味がわからず、首を捻る。
すると彼は自慢気に鼻息を荒くした。

「意識がなくなるまで飲めば、互いに理性が吹っ飛ぶだ! 後は本能に任せればいいだよ! 互いに隙同士なら、自然と結ばれるだ!」

ダントン、それって女性を口説くとは言わない!
それは、なし崩しと言うんだよ!
私を酔わせて襲うつもりだったのねって思われるじゃないか!

ダントンの説明では、先ほどの話ていた方法が、ドワーフ族では一般的な女性の口説き方だという。

おおらかなドワーフ族らしいが、人族の女子にその方法はNGだ。
種族が違えば、口説き方も違うんだな。

俺とダントンがエリスの戻りを待っていると、森から彼女が歩いてくる。
そして、その後ろベルフィ、ルディ、アレッサの三人の姿が現れた。
『獅子の咆哮』も一緒だ。

「森でベルフィ達と会いました」

「ノア、会いたかったわ!」

エリスが俺に話しかけていると、アレッサが走ってきて、俺を抱きしめる。
するとエリスは目を伏せ、離れていった。

「ノア、元気? 私達がいなくて寂しかった?」

「痛い! 痛い! 力を緩めてくれ!」

「ノアのことが心配だったの! 無事で良かったわ!」

俺の悲痛な叫びを無視して、アレッサが両腕に力を込めた。
すると俺の背中からバキバキと聞こえてはいかない音がする。

「ギャァアー! 痛い!」

「アレッサ、そこまでにしよう。ノアでなければ死んでるから」

見かねたベルフィが止めに入ってくれた。
彼の言葉に気づいたアレッサが俺の体を放す。

「ごめんね! つい嬉しくって!」

さっき、背骨が折れたぞ。
自己再生したからいいけどさ。

アレッサが感激してくれるのは嬉しいが、荒々しい歓迎は勘弁してもらいたい。

ベルフィは周囲を見回し首を傾げる。

「上手く『奈落の髑髏』をあしらったようだね。それで奴等は?」

「掴まえたが、油断した隙に逃げられた」

「私が一緒にいれば、逃走を許さなかったのに。残念ね」

俺の説明にルディは顔をしかめた。

久しぶり俺達四人で談笑していると、エリスが背中を向けて離れていく。
その姿を見たルディが俺の脇腹を突っついた。

「エリスの様子が変だけど、何があったの?」

「……」

俺の困った表情を見て、ルディはニヤニヤと微笑む。

そして、「ちょっと行ってくる」と言い残して、エリスの後を追いかけていった。
すると「私はダントンと話してくる!」とアレッサも走っていった。

「何かあったようだね」

「……」

黙っている俺を見て、ベルフィが楽しそうに微笑む。

昨日のテントの中でことは、不可抗力だったんだから、彼女が恥ずかしがることは言えない。

するとブレイズ、ルーネ、シャナの三人が歩いてきた。
そして崖の円盤を見上げる。

「あれが遺跡か?」

「どんな遺物が眠っているんでしょう?」

「どうやって、あの高さまで登るんですか?」

「昨日から崖を登る方法を考えているんだが、良い方法が見つからないんだ」

あの断崖絶壁を手足だけで登っていくのは困難だ。

建設現場のように足場を組むのも考えたが、それだと時間がかかり過ぎる。
それに鉄パイプなどの建築資材は天界の倉庫に入っていなかった。

どうするか悩んでいるとブレイズがニヤリと頬を歪ませる。

「矢でも、剣でも何でもいい。武器に縄を括りつけて、円盤まで飛ばせばいいだろ。」

「それができたらいいんだけどな」

円盤に武器が刺されば、縄を便って、崖を登ることができる。
しかし、鈍色に光る円盤に使用されている金属が問題だ。

俺の推測が正しければ、先に見た遺跡と同じ魔合金だろう。
そうであれば、武器が刺さることはない。

俺、ベルフィ、ブレイズ達三人が崖を見ていると、ルディとエリスが走ってきた。
そしてルディがニコニコと笑い、エリスの背中を押す。

すると静々と前に進み出た彼女が俺の前で立ち止まった。

「私が崖に挑みます」

「一人で? そんな危険なことはさせられないよ」

「私は見も軽く、スキルを活用すれば、どんな場所にも登ることができます……ですからノア、私と一緒に登ってくれませんか?」

エリスは思いつめた表情で、俺を見つめる。

彼女のスキルは『暗殺者』。

どんな場所にも潜り込むのに特化したスキルでもある。
そう考えればエリスが崖を登るのは容易いのか?

でも、どうして俺と一緒に?
俺の体は人族として普通のスペックしかないけど?

俺と一緒に崖を登れば、彼女の危険が増す怖れがある。
それにルディやテットのほうが軽技が得意だ。

「どうして俺なんだ?」

「だって、私よりもノアのほうが体力あるでしょ。それにエリスとテットを組ませてもいいのかな? 『不死の翼』と『獅子の咆哮』って、そんなに仲良かったの?」

ルディの言葉は正しい。
俺以外の男にエリスを任せたくない。

「わかった。エリスと一緒に俺が崖に登るよ」

「ノア、私のワガママを聞いてくれてありがとうございます。あなたが落ちないように、私が全力でサポートしますから。私を信じてください」
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