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第33話 アレッサの素性

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部屋の床に座り、俺は真っ直ぐアレッサを見る。

「何か気になるのか?」

「この遺跡のことよ。こんなものを発見して後で大変なことになるわよ」

「やはりそう思うか。冒険者ギルドで情報が止まらないと」

「当然でしょ。先の遺跡で使用されていた未知の金属、あれだけでも相当な発見よ。その上、崖の上にあるこの遺跡。八百年も無人で動いていたのよ。それに画面の中のホムンクルス。こんな情報、ラッカの冒険者ギルドだけで伏せられるはずないわ」

さすがはアレッサ、俺とほとんど同じ考えだな。

普段、乱雑に振舞っているアレッサだが、本来の彼女はそうではない。

転生して間もない頃、王都ベランの裏路地でアレッサと出会った。

異世界の街に不慣れだった俺は、荒くれ者達に囲まれ、路地に引きずり込まれていたんだ。
それを助けてくれたのがアレッサで、その時彼女はまだEランク冒険者だった。

俺を救ってくれたお礼に、料理屋に誘ったのだが、その頃のアレッサは、言葉も丁寧で、気品が溢れていた。

まるで貴族の御令嬢が屋敷から抜け出してきたように。

昔のアレッサを思い返していると、彼女の大きな目がジッと俺を見つめる。

「それでどこまで冒険者ギルドに話すつもりなの?」

「もちろん全てだよ。今回の南西方面への調査には四つのパーティがレイドを組んでいる。『獅子の咆哮』もここにいるんだ。それにブレンズに隠し事なんてできると思うか」

「できないでしょうね。では、ノアは何もしないつもりなの?」

アレッサは疑うような眼差しで、首を傾げる。

やはりそこが気になるよな。

俺は一度、コホンと咳をして話しを続けた。

「それについては悩んでる。エリスも同行しているから、ジルベルトさんには詳細は伏せて、説明するつもりだ」

「あの方も謎のご老人よね。所作からすると引退された貴族でしょうね。エリスを傍に置くのだから、身分の高い貴族かもしれないわ。それよりエリスとの仲は進展したの? ねー、教えてよ!」

「おいおい、口調がいつもと同じになってるぞ」

「だってー! こっちの方が楽なんだもん!」

アレッサ・レッドフィル。
これが彼女の本名。

ベルトラン王国の レッドフィル公爵家のご息女。
これが彼女の素性である。

幼い頃から厳しい英才教育を受け、それに嫌気が差して屋敷を飛び出し、アレッサは冒険者になった。

その身に染まっている貴族らしさ、清楚さ、気品を隠すため、王都の冒険者達を真似て、粗雑な振る舞いをするようになった。

今では、どちらが本来の彼女なのか、自分でもわからないらしい。

このことはベルフィとルディも知っている。
昔はアレッサが乱雑な物言いをすると、よく仲間達に笑われていたものだ。

「今は遺跡の話しだろ。それでアレッサは動くつもりなのか?」

「私も悩んでいるわ。冒険者ギルドに遺跡のことを報告すれば、この地を治めるバリストン辺境伯にも伝えるでしょうね。後は伯爵の動き次第で、私も行動するわ。お父様に伝えることは、王家に情報が伝わることですもの。あまり事を大きくしたくないわ」

レッドフィル公爵家は王家と血縁関係にある家柄である。
アレッサの父上である公爵に情報を伝えることは、厄介事が大きくなる可能性があるのだ。

面倒を避けたい俺としては、公爵や王家などは勘弁願いたい。

「セインにはある程度、情報を明かすしかない。それにブレンズが大筋を話してしまうだろ。それは必ずジョルドさんの耳に入る。ギルド長のこれからの動き次第ってことでいいだろ。それよりも気になるのが『奈落の髑髏』だな」

「ええ、彼等がトランテニア神皇国と繋がっている可能性が濃厚とルデイから聞いているわ。『奈落の髑髏』の身柄を捕縛できなかったのは痛いわね」

「いや、俺達が掴まえたとしても、『蒼穹の聖光』が大森林に戻ってくれば、奴等は嘘を報告して開放されるだろ。セインは正義の人だからな。疑ったとしても証拠がない限り、強引なことはしないからな」

俺の話を聞いて、アレッサは嫌そうな表情をする。

「どうして、あんな男がモテるのかしら? 私の好みに全く合わないわ」

彼女は正論を主張するタイプの男が苦手なのだ。

貴族の中には表で常識的な発言をして、裏で犯罪まがいの怪しい動きをしている者達も多い。
貴族社会の中で育ったアレッサは、きれいごとを言う人物ほど警戒してしまうのだ。

だからセインが正直で真っ直ぐな男と理解していても無理だという。

「堅苦しくて頭も固いが、芯のある良い男だと思うけどな」

「それって褒めてるのか、貶してるのかわからないわね」

「どちらの意味に取ってくれても構わないぞ」

俺が肩を竦めると、アレッサがクスクスと笑いだした。

それからしばらく二人で雑談をして彼女の部屋を去った。
扉を開け、自分の部屋に入ると、美味しそうな匂いが漂っている。

その香りに釣られてダイニングへ行くと、キッチンの上に料理が置かれていた。

あれ? アレッサの部屋で、ロイドの声を聞いてないけど?
もしかすると、ロイドに呼びかけなかったのか?

不思議に思い首を傾げながら部屋に戻り、ベッドを見るとエリスがスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

どうして、俺の部屋にエリスが寝ているんだ?

料理を作り終えて、疲れて眠ってしまったのかもしれない。
それとも俺に何かを伝えたかったのだろうか?
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