黄金の魔族姫

風和ふわ

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第三章 魔族姫と白髪の聖女編

40:不思議な青年

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「──ねぇねぇ、名前教えてよ」

 シュトラール城バルコニーにて、エレナはうんざりしていた。その原因はやけに軽々しく話しかけてくるこの銀髪の美青年だ。あまりにしつこいので「ヘレン」と偽りの名前をポツリと溢すと、彼はどうやら満足したらしい。

「ふぅん。ヘレンちゃんか。聞いたことない名前だね」
「へ、平民ですので……」
「ふーん、」

 銀髪の青年はべルコニーの壁に身体を預けると、エレナをまじまじと見つめている。彼はエレナに興味津々のようだ。エレナは生きた心地がしなかった。

「ずっとここにいるってことは君もボクみたいに人間の集まりに反吐が出るタイプ?」
「反吐が出るって……。まぁ、苦手ではあります」

 ──と、そこで女性の荒々しい声が響く。下を見ると、暗闇の中で女性が三人の男に絡まれているようだ。男達はどこかの貴族の馬子か護衛役だろうか。声は聞こえないものの、女性が嫌がっている反応から彼らが何を言っているのか予想は出来た。

「大変、助けなきゃ!」

 エレナはすぐに下に降りようとするが、「目立つな」というノームの言葉を思い出す。しかしエレナがそうして迷っている間にも、女性が男に腕を掴まれていた。エレナは目を瞑り、心の中でノームに謝る。慌てて下へ続く階段の方へ駆けようとすれば──

「──切り裂けカザック

 その呪文と共にエレナの髪が揺れる。不自然な強風が起こったのだ。気付けばその風によって女性に絡んでいた男達が吹き飛ばされ、近くの荷車に衝突していた。女性が混乱しながらも慌てて逃げていく。エレナは思わず前のめりになり、唖然とした。

(い、いいい今のってもしかして風魔法!? ……ってことはこの人っ!!!!)

 風の勇者シルフ。エレナはその名前を聞いてはいたものの、実際に会ったことはなかった。彼は王族でも貴族でもなくただの旅人で、神出鬼没の変人だと聞いている。今まで彼がこの親交パーティに参加していたことなんてなかったというのに。銀髪の美青年──シルフはエレナにこてんと首を傾けて笑いかける。

「……君ってさ、無類のお人よしでしょ。助けたくてたまらないって顔してた」
「そう言うなら貴方だって今彼女を助けたでしょう? ……えっと、風の勇者のシルフさん?」
「おや。ボクの名前を知ってもらえているなんて光栄だね。そうだね、確かにボクはあの女の人を助けた。でもそれは君がそうしたそうにしていたから。君が特に何もしそうになかったら、ボクも一緒に見ているだけだったよ」
「は、はぁ……」
「君、ボクの唯一無二の親友にそっくりだ。……うん、君とは仲良くなれそう。同じ平民同士、パーティを楽しもうね」

 彼はエレナに手を振ると、そのまま会場に入っていった。飄々とした彼の振る舞いを見るに、噂通りの変人のようだ。
 その後、戻って来たイゾウと共にエレナは会場へ入る。目立たないように隅の方でノームを待った。チラリと一瞥するのはレイナとウィンの様子だ。相変わらずあの二人は一緒にいた。
 しかしエレナはそこで違和感を覚える。どこかから強い視線を感じたのだ。辺りを見回してみると、深紅の髪の青年と目があった。エレナはハッとなって顔を逸らす。深紅の髪に琥珀色の瞳に、ノームと同じ褐色肌。間違いない。今エレナと目があったのはノームの弟であり、炎の勇者であるサラマンダー・ブルー・バレンティア!!
 
「──お前、もしや兄上のパートナーか!?」

 途端に響く大きな声。顔を逸らしたというのにそちらを見るしかなかった。イゾウがすぐにエレナを庇うように手を伸ばし、声の主に強い視線を送る。どういうわけか、エレナの目の前にあのサラマンダーがいたのだ。

「お前、どこの家だ? そもそも貴族か? 見ない顔だな」
「こちらの御方は平民です。それより、あまり近寄らないでくださいますか殿下。ヘレン様が怯えていらっしゃいます」
「平民だと!?」

 するとサラマンダーは腹を抱えて笑い出す。エレナを指差し、周囲にエレナが平民だということを言いふらした。

「ははは! 兄上の従者と一緒にいるということはお前が兄上のパートナーなんだろ!? ぶっ、くくくっ……っ、兄上のやつ、貴族の女に相手にしてもらえずについに平民にパートナーを申し込むとは!! あはははは!!」

 サラマンダーが豪快な笑いに釣られて、周りもクスクス笑い出す。その様子を見ていたレイナが猫なで声でサラマンダーに近寄ってきた。エレナは心の中で「ゲッ!!」と叫ぶ。

「あらあら。随分と楽しそうですわね、サラマンダー殿下。あたしにも内容を教えてくださいな」
「あぁ、聖女か。なに、兄上のパートナーが平民だという話だ。まぁ、地味で冴えない兄上にはお似合いだろうよ」

 レイナはエレナを一瞥すると、明らかに嘲笑した。

「あはっ、流石ノーム殿下。あの長ったらしい前髪を切れば少しはましになるんじゃないですかぁ? まぁ、そうしても大したお面をお持ちではないようですが」
「はは、言うじゃねぇか。弟の俺もヤツの面を拝んだことはないが隠すほどの醜いアレなんだろうよ」

 そんな会話にエレナは拳を握りしめる。しかしノームの言葉を思い出し、「駄目だ駄目だ」と首を軽く振った。……と、ここでレイナの傍にいたウィンと目が合う。ウィンは眉を顰め、やけにエレナを気にしているように見えた。まずい、とエレナがすぐに俯いた時だ。

「──待たせたな、ヘレン」

 ハッとなって顔を上げる。周りがやけに静かであることに気づいた。サラマンダーもレイナも、その場にいた全員がエレナの背後を唖然として見ている。エレナはそっと振り向いた。そこには──



「──ノーム!?」
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