黄金の魔族姫

風和ふわ

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第三章 魔族姫と白髪の聖女編

55:二人の悪魔

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「レイナ、マモン! どうして貴方達が一緒にいるの!!」

 エレナは叫ぶ。レイナは戸惑うエレナの反応を楽しんでいる様子だった。

「どうしてって……マモンがあたしのだからに決まっているでしょう? ね? マモン?」
「はい。同じ御方に仕える者同士、とも言えますね」
「同志……?」

 エレナはただただレイナと親し気なマモンに目を泳がせる。唇が震えた。一番知りたくないが、一番知らなければいけないことがエレナにはあるはずだ。

「──マモン、貴方が城の魔族達を誘拐したの?」
「えぇ、そうですよ。我々の計画に魔族が必要だったので」
「っ、計画? 貴方達は一体何を企んでいるの?」

 「それを言う馬鹿がいますか」とマモンはクスクス笑ったが、その隣にいるレイナこそがその馬鹿だったようだ。ズンズンエレナの檻に顔を近づけると、意地の悪い笑みを浮かべる。

「ふふ、知りたい? 知りたいわよね? あたしは優しいから、色々と教えてやらないこともないわよ?」
「……レヴィアタン、本気で言ってますか? 真の馬鹿ですか?」
「いいじゃないマモン。どうせこいつらは近々死ぬんだから! 死人に口なしって言葉知ってる?」

 レヴィアタン。レイナがマモンにそう呼ばれていることに気づいたエレナは眉を顰めた。

「じゃあまず可愛い可愛い魔族のお姫様が絶望するような事を教えちゃいましょう! そこにいるマモンだけれど、
「っ、え?」

 レイナの言葉に驚くエレナ。しかしマモンは確かに今、レイナの傍に存在している。これは偽物ということなのだろうか。レイナは話したくて話したくてたまらないといった表情で言葉を続ける。

「そう。そこにいるのは確かにマモンだけれど、既に貴女の知っているマモンではない。今の彼はマモンではなく──マモン! あたしが以前、マモンの腕を吹っ飛ばしてやった時にこいつは悪魔も植え付けられていたのよ。悪魔は徐々にこいつの魂を喰らっていって、今じゃすっかりこの身体に馴染んでる。故に、貴女の知っているマモンの魂は既にこの世にいないってわけ!」
「────、」

 エレナはレイナの言葉を理解できなかった。というより、理解したくなかった。レイナの言う「マモンの腕を吹っ飛ばしてやった時」とはきっとマモンの右腕がなくなっていた時の事を言っているのだろう。その際に悪魔を植え付けられた、と。エレナはマモンをその瞳に映す。嘘だと言ってほしかった。小さな声で、彼の名前を呼ぶ。マモンはそんなエレナの声に応えるように笑った。その上じんわりと彼の瞳は真っ赤に染まっていく。明らかにマモンではない者の笑みだとエレナは理解した。

「マモン……っ、」

 エレナの瞳から涙が一気にあふれ出す。そしてエレナは己の拳を床にたたきつけた。自分の中で彼との思い出の数々が崩れていく感覚に陥る。

(気付けなかったというの……っ? 私は、大切な友人を失ってしまっていることに、こんなに近くに居て、気付けなかったというの!?)

 ちくしょう、ちくしょう。そう噛み潰した声で叫んで、何度も何度も床を叩いた。悔しくて堪らなかった。自分の無能さに腹が立った。そんなエレナにレイナの機嫌がよくなっていく。

「ふふ、無様ねエレナ・フィンスターニス。そうそう、貴女にはそういった絶望を浮かべた顔がお似合いよ?」
「……っ。どうして……どうして悪魔と一緒にいるというのに、貴女は未だに聖女なの……?」

 エレナの問いは尤もの事だ。悪魔というのは神の天敵である原初の悪魔セロ・ディアヴォロスが生み出した従者という意味で使用される。故にそんな悪魔と一緒にいるレイナに未だに絶対神デウスの加護が宿っているのは不自然だ。エレナだって魔族の子供を助けたことによってすぐにその加護を失ったのだから。レイナは腹を抱えて笑い出す。ひとしきりそうした後、柵越しにエレナを見た。

「ふふ、そうね。分からないわよね。そこを不思議に思うわよねぇ? じゃあ聞きますけど貴女、

 ついさっきと同じ問いをレイナはエレナに投げかける。エレナは思わずポカンとした。白髪に決まっているだろうと口を開いたその瞬間──レイナに変化が生じた。サラマンダーとイゾウが「馬鹿な」と驚く声が聞こえてくる。

「あたし、言いましたよね? マモンとあたしは同志だって、同じ御方に仕えている者だって! それってつまりだって分かりますよねぇ?」

 レイナの髪がみるみるうちに黒くなっていく。その瞳も、赤い。エレナは茫然とするしかなかった。

「実はあたし、聖女やめちゃったんです。あの御方に血をいただいたので今では立派な悪魔なんですよ? 嫉妬の悪魔レヴィアタン。それが今のあたしの名前です。あ、でも馴れ馴れしくレヴィって呼ばないでくださいね? あたしをそう呼んでいいのはあの御方──セロ様だけって決めてるんですからっ!」
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