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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
65:共に行こう
しおりを挟む──約一時間ほど前。エレナはなんとかレイナ達に捕らわれていた場所からテネブリスへ戻ると、真っ先に魔王と城の魔族達に状況を説明した。本当はテネブリスに寄らずにシュトラールへ一直線に向かいたかったが、エレナ一人の力ではどうにもならないことだとエレナは理解していたのだ。
……だから、魔王と城の魔族達の前でエレナは頭を下げた。
「お願い、皆。力を貸してほしい。私の我儘だということは分かってる。でも今回のことは助けなくちゃいけないものの数が多すぎて、私一人じゃ手に負えない。人間の国に魔族が行くってリスクがあると思うし、レイナに操られている家族同然の魔族達と嫌でも向き合わなくちゃいけなくなるし、得体のしれない原初の悪魔と戦わなくちゃいけなくなる。それになにより、この城には人間の奴隷だった過去を持っていたりして人間が憎くて憎くて仕方がない魔族が多い事も知ってる」
「……でも、それを理解した上で私はあなた達にお願いする。私と一緒にシュトラールへ行って、魔族の仲間達だけじゃなく民を──いいえ、人間を救ってほしいの!!」
そう言って、エレナはぎゅっと目を瞑る。今この瞬間にもノームや多くの人間が苦しんでいるかもしれないと思うと不安で仕方がなかった。エレナとは家族のように親しい魔族達だが、顔も名も知らない人間を救うほどお人よしではないことは知っている。でも、それでもエレナは救いたかった。魔族も、人間も。しんっと静まり返るテネブリス玉座の間。エレナが唇を噛みしめて、俯いた時──頭に重みが。
「エレナ、」
「っ! パパ……」
いつものように優しくエレナの頭を撫でる魔王の手。今、彼に表情なんてものがあったのならそれはそれは優しく微笑んでいたことだろう。彼は柔らかな、それでいて芯のある声で言い放つ。
「──我々に任せなさい」
「っ!!」
「おうさ! おい、聞いたか野郎ども! 戦いだ! 今すぐ戦いの準備をしやがれぇえ!!!」
アドラメルクの掛け声と同時にその場にいた魔族達が「おう!」と声を張り上げ、慌ただしく玉座の間を出ていった。その中には誰一人反論する者もいない。皆が真剣な顔つきで、これからの戦の準備に励んだ。どうして、とお願いしたのは自分ではあるがエレナはそう思わずにはいられない。アドラメルクが「そんなの当たり前だろ!」と笑い飛ばす。
「他の誰でもない、我らが魔族姫に頼られちゃあやるしかないだろ! まぁ何より、悪魔の術なんぞにハマっちまった情けねぇ仲間達をぶん殴ってやらねぇとな! なぁ、アスモデウス!」
「そうね。とりあえずその悪魔マモンってやつはアタシがぶっ殺さないと気が済まない。……それに、エレナには一応借りってものがあるしね」
「エレナ様、いつだって我々は、貴女に救われてばかりですよ。だからこそ、今度は貴女の守りたいものを私達にも守らせてください。貴女は独りではない。私達が、仲間であり家族が、いつだって傍にいることを忘れないでください」
アドラメルク、アスモデウス、アムドゥキアスの順にエレナの肩をポンポン叩いていく。エレナはポロポロ涙が溢れていくのが分かった。どうしようもない感謝に、胸がいっぱいになる。魔王の腕がエレナを抱きしめた。
「エレナよ。共に行こう」
「うん……、うん!! ──行ごう! 皆で、一緒に!!」
こうして、エレナはこのシュトラールへ来た。
──世界一心強い、テネブリスの魔族達と共に!
***
洗脳された魔族達から民衆を守るような配置でサマルク大広場の地面に黒い魔法陣が浮かび上がった。民衆はそんな異変を不思議に思ったが、次の瞬間にはその過半数が腰を抜かすことになった。
「──いけぇ!! 開戦だ!! 人間を守れ!! 操られてる仲間達を取り押さえろぉおお!!」
そんな怒号と共に魔法陣から大勢の魔族が現れたのだ。そうしてレイナによって操られている魔族達とテネブリスの魔族達がぶつかり合う。ノームはその様子にポカンとした。
「ま、魔族が、人間を守る、なんて……」
「ね? 心強いでしょう」
「あぁ。……、……っ、エレナ、ありがとう。だがお前、どうして目が赤いんだ?」
もしや悪魔に何かされたのか。そう怖い顔をするノームにエレナは苦笑する。
「違う違う。これは優しい悪魔さんのものなの。心配しなくて大丈夫」
「悪魔が、優しい?」
「そういう諸々は後で全部話すから! ほら、ノーム。治癒魔法もう一発いくよ! ──癒せ!!」
エレナがそう追加で唱えた瞬間、ノームの腹の傷があっという間に治っていった。今までの彼女とは思えない程の治癒の速さにノームは唖然とする。しかし今はそれを尋ねる時間もない。ノームはエレナに礼を述べると、ひとまず剣を拾った上で戦況を見渡した……。
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